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イギリスのアーティスト、プロデューサー、ラッパー、ビートメーカー M.I.A.の最新アルバム「/ / / Y / (Maya)」がリリースされたのでアルバムレビュー。7月7日に日本リリースですが世界では13日が正式リリースなので、徐々に音楽サイトやカルチャー面などで賛否両論に取り上げられ始めている3年ぶりのアルバム。特に過去2作と比べて秩序が無くなった、「言ってることに比べて音楽は・・・」(スリランカ人アーティスト M.I.A. (@_M_I_A_) がニューヨークタイムズの記事にTwitterで反論)という意見をサイトでみました。でも自分はレビューが取り上げていない側面からアルバムを聴いてみました。

第三作目となる今リリースは、iPodとデジタル音楽時代のアルバムだと思いました。

「Freedom Fighter (自由の戦士)」と呼ばれるM.I.A.は、その斬新な音楽スタイルやオリジナル性あふれるアートワークと物議をかもす言動で多くの敵味方を作り、さらに映画「スラムドッグ・ミリオネア」のサントラに使われアメリカでヒットした「Paper Planes」が彼女の勢いを加速させたことにより、この最新作にも大きな期待がありました。今作は過去の2作「Arular」(2005)と「Kala」(2007)で見られた斬新さは、よりポップ路線に傾いたことにより減少していますが、プロダクションの荒々しさと中途半端さはこれまでと変わらず、相変わらずホームメイドな感じがあり多様性の高さを感じます。

今作は彼女がこれまで築いた音楽性や名声、アイコンとしてのステータスを全て破壊して再構築しようとしている気がしてなりません。なぜならアルバム全体を一作品ではなく、1曲づつを作品として見て、CD12曲の枠組みにとらわれない音楽制作を意図しているように思えます。そうすることで、リスナーに「好きな曲を曲ごとに楽しめる」と新たな音楽体験を提供してくれてます。そこで思い出されるのが、iPodです。試しにこのアルバムをiPodに入れてシャッフルで聴いてみてください。どの順番でも曲が色あせることなく、それぞれのアイデンティティを放っています。もし気に入らない曲がでてきたら、次の曲に移ってください。そしてまた自分が好きな曲が再生されれば、その音楽の世界に引き込まれていきます。新しいことではありませんが、iPodとデジタル音楽の曲単位による購入が実現してから、飛ばし聴きは当たり前になりました。僕はアルバムを否定しませんが、曲単位の音楽体験により、アーティストへの愛着が大きくなり繰り返し聴く曲に対する思い入れが深くなると思っていますので、今作はそんなデジタル音楽時代の聴き手の心理をうまくくみ取っていると感じます。

M.I.A.「Maya」アマゾンリンクiTunesリンク
アルバムは、まるでiTunes Music Storeのようにジャンル/形式が入り乱れ、音楽スタイルがますますマッシュアップされてジャンルで分けることは不可能に近いと思います。シンセポップからノイズ(Born Free)、レゲエ(It Takes A Muscle)、ダンス・ロック(Meds And Feds)、とアイデアに溢れています。プロデューサーにはおなじみのDiploとSwitch、そして新たにBlaqstarrとRuskoが加わり、ギターやシンセなど新しい要素を加えています。本作は過去のリズム中心の音楽から、より歌詞やメロディーにフォーカスした音楽へ移ってきた印象があります。相変わらず社会の矛盾を歌っており、その標的はシステム社会の権力から一般大衆にまで広がり、グーグルが政府に支配されていると宣言するオープニングの「The Message」や、ベライゾンの技術サポートとの電話で3時間待ちを食らった体験を歌詞にした「Internet Connection (ボーナス)」もあったりと、テック好きの彼女らしい一面かと言えます。

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僕的に好きな曲は「Teqkilla」、「Lovalot」、「Tell Me Why」の3曲。どれもミッドテンポでフロア向きではないのですが、じっくり歌詞とサウンドに聴きいれるのでこの3曲を選びました。「Lovalot」は今年4月モスクワの地下鉄で自爆テロを起こしたイスラム過激派グループリーダーの未亡人、Dzhennet Abdurakhmanovaの行動をモチーフにして、「I fight the ones that fight me」(私と敵対するなら望むところ)と宣戦布告している過激な歌詞です。「Tell Me Why」はゴスペルコーラスをバックにサンプルした、闘争的なムードを一掃するゆったりとした曲調で、「You could make a killin' but don't forget the feeling」と彼女なりの平和を歌ったこれまでにないM.I.A.の側面が見られます。

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M.I.A.にはもっと騒々しい音楽を作ってほしかったので、シンセやギター、ボコーダーなどカラフルになった音色には満足しています。もっとも今作はビートだけではなく、「メインは音楽」と言わんばかりに歌のメッセージを前面に押し出したことが最大の特徴であり、野心的なアルバムだと思いました。

トラックリスト
1. The Message
2. Steppin Up
3. XXXO
4. Teqkilla
5. Lovalot
6. Story To Be Told
7. It Takes A Muscle
8. It Iz What It Iz
9. Born Free
10. Meds And Feds
11. Tell Me Why
12. Space
(ボーナストラック)
13. Internet Connection
14. Illygirl
15. Believer
16. Caps Lock

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Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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