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2011年はベルリンを拠点とする音楽共有プラットフォームの『SoundCloud』ユーザーとクリエーターにとって、最もに満ちた一年だったのではないでしょうか。 2007年に創設されたSoundCloudは、オンライン上のあらゆる場所で音声ファイルを簡単に共有できるサービス。「音声のYouTube」とも言われる同社2011年10月にはユーザー数800万人以上にまで成長しており、デジタル音楽の領域で新たな分野を開拓して、ユーザーにリアルに共感できる価値を提供する可能性を感じさせるサービスの一つです。

SoundCloudではクリエーターが音楽コンテンツを簡単に録音、投稿、シェア、プロモートでき、音楽ファンは発掘、再生、シェア、購入、ダウンロードすることが可能です。SoundCloudはこの流れを一つのサイト内だけでなく、様々なツールなSNS内で実現でき ユーザーに最適化した選択肢を提供します。自分に適応したフローの中で音楽を提供/体験することで、SoundCloudコミュニティ、ソーシャルグラフ、インタレストグラフから好きな音楽や新たな発見からつながる「ソーシャルネットワーク」を形成できる楽しみが、成長の理由かと自分は考えます。

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そして、以前の音楽サービスでは困難だった、Facebook, Tumblr,ブログなど他SNSサービスとの連携を実現させただけでなく、サウンドウェーブやアルバムカバー、インタラクティブなどビジュアル要素を組み込むことによって、好きな場所で視覚的に音楽を楽しむ選択肢が増えたことができ、デジタル音楽に新たな価値を作り出したことも人気の理由かと思います。

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共同創設者兼CEOのAlexander Ljung image via Flickr Leweb11

最近はDIY系音楽クリエーター以外にも、大物アーティストやレコード会社、更には大手オンラインメディアやトーク番組、企業団体のポッドキャスト等オーディオが含むコンテンツが多様化してきています。同社CEOのAlexander Ljung氏(アレキサンダー・ヤング)は、将来的にウェブの世界では「オーディオ」が動画よりも大きな存在になると昨年行われたカンファレンスで語っています。

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ビジネス開発マネージャーのDavid Adams氏がSoundCloudを活用して音楽ファンとコミュニティへ音楽を2011年の音楽プロモーションキャンペーン事例を総括した記事をブログで公開しているので、抄訳でご紹介します。長文ですので、月ごとのテーマを以下にまとめてみました。

1月:オーディオダイアリー、2月:インタラクティブパズル、3月:クラウドソーシング、4月:ウェブアプリ「Takes Questions」「Premiere」、5月:画像、6月:SoundCloud Impoter, 7月:Social Unlock, 8月:ウェブアプリ「Competition」、9月:位置情報、10月:モバイルアプリ、11月:インタラクティブオーディオマップ

1月
英国の白人ラッパーのExampleことElliott Gleave米国バンドのYacht(ヨット)がツアーの様子やバンドの裏話をラジオ番組風に語るオーディオ番組を公開しました。Exampleのトーク番組「CodPast」はツアー中のバンドメンバーやゲストアーティストを交えて、裏話や発表予定のアルバムの制作について30分ほどゆるく語る形式で、「米国からもダウンロードされてたし、変わった場所で言えばウズベキスタンやヨルダンからもDLされてたな」と番組中で言っていす。

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情報配信がどの程度リーチしたかを正確に測定できる点も、オンライン戦略には効果的ですね。(SoundCloudにはDLやコメントを管理できるツールも提供されます)。
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2月
米ロックバンドのThe Manchester Orchestraは、5月にリリースする新アルバム「Simple Math」の先行シングルをSoundCloudでストリーミング配信しました。配信に辺りバンドはインタラクティブなバーチャルパズルをサイト上で展開し、パズルを完成させることで新曲がいち早く聴けるプロモーションを開始しました。

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3月
英国のクラミー賞受賞アーティストImogen Heapラッパーの50セントは、SoundCloudで直接ファンとコラボレーションするクラウドソーシング的手法で, 新曲を制作する企画を実現しました。Heapは予め制作予定をサイト上で公開しておき、スタジオの様子をUstream中継しながらわずか2週間で新曲「Lifeline」を完成させました。

 

Heapはファンとコラボした曲作り(+動画、アートワーク)をシリーズ「Heapsong」として発表しており、これらの曲は2012年発売のアルバムに収録されるそうです。また50セントは自身のコミュニティサイト「Thisis50.com」で以前にもSoundCloudを利用したリミックスコンテストを開催(1,500件ほどの応募)したり, 投稿された音源やアーティストを数百万PVを持つサイト上で公開するなど、テクノロジーの連携活用に積極的なアーティストの1人です。

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ソーシャルメディアや自身のウェブサイトで精力的に情報配信とファンへのコミュニケーションを積み重ねてきたHeapと50セント。 オンラインでつながるコアなファンとの強いつながりから相乗効果を生み出した素晴らしい取り組みだと思いました。

4月
SoundCloudはフォロワーが音声で直接質問できるソーシャルオーディオQ&Aウェブアプリ「Takes Questions」を発表しました。この無料のウェブアプリを通じて英ロックバンドの「ザ・ブラックアウト」Everything Everything, 米バンドのAll TIme Lowはファンと直接対話する場所(パーソナルサイト)を構築、曲作りのティップやバンド活動のアドバイスなど寄せられた質問への直接本人達による回答を公開しています。

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また、アーティストが新アルバムや新曲配信をサイト上で簡単に構築できるウェブアプリ「Premiere」がローンチされ、ビースティ・ボーイズがこのアプリを通じて新曲「Hot Sauce Committee」(explicit版)の世界プレミア配信を実現しました。(Manchester Orchestraも同様にアルバム配信で採用)

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5月
エレクトロニックアーティストのMoby新アルバム「Destroyed.」のPRに、SoundCloudとInstagram, SimpleGeoをマッシュアップしたマイクロサイトを公開しました。サイトではアルバム全曲のフルストリーミングに加え、自身の投稿や世界各地から投稿されたハッシュタグ「#destroyed」付きのInstagram写真をマップで示したインタラクティブなウェブ体験を実現しました。
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投稿されるのは夜中の2時の写真限定(アルバムのコンセプト)と特別な時間帯に設定したことで、投稿写真を見ながら自分と同じ世界各地のファンの思いに視覚的に共感しやすくなりそうです。

またビョークは新アルバム「Biophilia」発表に向けて、自身のサイトをリローンチし、SoundCloudを活用したインタラクティブなHPで新曲のプレミア配信を開始しました。

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6月
フー・ファイターズは新しいシングル「Walk」の音楽PVを公開しました。

バンドはPVのプロモーション用にある電話番号をビデオ内に隠し、見つけたファンが電話するとデイブ・グロールのスペシャルメッセージが聞け、さらにファンもバンドにメッセージを残すことができるプロモーションを行いました。さらにバンドは設定した電話やeメールへのメッセージを簡単にオーディオへ変換できるSoundCloud Importerを使い、印象的なメッセージ20選をSoundCloud上で発表するという粋な計らいを魅せてくれました。

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7月
英国のインディレーベル、ドミノ・レコーズザ・キルズ(The Kills)の新作「Blood Pressures」をいち早くSoundCloudでストリーミング配信を開始しました。サイトでは、Facebookのいいね!ボタンをクリックしファンになることで、SoundCloudのフルオーディオが聞けるプロモーションを行いました。
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またSoundCloudはSNSで口コミをしてもらう対価として音源を無料DLできるサイトを簡単に構築できるウェブアプリ「Social Unlock」をローンチしました。このアプリを利用して、フランスのロックバンドM83はファンに新アルバム「Hurry Up, We’re Dreaming」から無料でダウンロードしてもらう代わりに、曲の感想をファンにつぶやいてもらうプロモーションを実施しました。
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8月
SoundCloudは「Competition App」をローンチしました。米ヘビメタバンドのMastodonは新アルバム「Hunter」のプロモーションに、同アプリを利用して音楽ファン特にミュージシャンに挑戦するコンテスト「Curl of the Burl #Competition」を行いました。これは、SoundCloudからギターまたはドラム無しの楽曲をダウンロードしてもらい、ファンに自身の演奏をミックスしたバージョンを投稿してもらうコンテストで、勝者にはSoundCloud1年分有料アカウントなどが贈呈されました。ちなみにMobyも同アプリを利用し、Destroyed.のリミックスコンテストを実施しています。

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9月
Blink 182新アルバム「Neighborhoods」のプロモーションに, 発表前に(プリセール時に)SoundCloudと位置情報サービスのSimpleGeoなどを連動させ、ファンが無料でストリーム再生しながらGPS機能を用い周囲(Neighbor=近所)のファンとチャットができ、ハッシュタグ#neighborhoodsでつぶやけるミニサイトを公開しました。Turntable.fmの部屋のコンセプトをリアルな住所で開催するというアイデアを実現させた企画でした。

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10月
英アーティストのOlly Mursは録音機能が付いたSoundCloudモバイルアプリから、オーディオメッセージを録音しハッシュタグ#Mursday を付けて配信、Facebook, TwitterなどSNSへ共有し始めました。アルバム発表や発売日、ありがとうのメッセージ、フェスティバルのバックステージの様子など、いち早くバンド情報を生の声(本人)で伝えてくれています。

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11月
世界のレア音源の再発を取り扱うオンラインストア兼レーベル、Soundway Records (サウンドウェイ・レコーズ)は、南米コロンビアのレアレコードを収録したコンピレーションの発売にあたり、音楽カタログとコロンビアの地図を連動させた、埋め込み可能なインタラクティブな音楽マップを公開しました。

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地図上の街をクリックすると、アーティストの音楽や写真、動画がポップアップで閲覧でき音楽が再生できる仕組み。

12月
英アーティストのEmmy The GreatはAshのティム・ウィーラーとの新アルバム「This is Christmas」のプロモーション(もしくは親切心から)、ファンからTwitterまたはFacebook経由で寄せられたクリスマスのジレンマを、EmmyがSoundCloud上で返答し、質問内容と返事のリンクを付けたメッセージをSNSで共有してくれるファンサービスを行いました。

いかがでしたでしょうか。ここにあるキャンペーンではSoundCloudで音楽を公開配信するだけでなく、様々なウェブサービスとの連携した取組みが数多く見られます。また目的に応じてファンが楽しめる仕組みの構築においても、革新的な機能が上手く活用されています。(SoundCloud API, Social Unlock, Premiereなど)

そして50セントやMoby、ビョーク、フーファイターズなど大物アーティストがSoundCloudを利用し始めたことは、これまでは欧州のアングラ系エレクトロニックプロデューサーやDJの間で人気だったサービスが、世界規模で別の音楽ジャンルにも広がり始めたことを示しています。SoundCloud的にはジャンルへのこだわりは無いと思いますが、新たなユーザー層で利用が増えユーザーに価値が提供できることはコンテンツ配信共有サービスにとってはうれしいことだと思います。

日本でも(個人的にフォローさせて頂いている)Small Circle of Friends (@SCOF75)さんだったり、七尾旅人さん(@tavito_net)のリミックスだったり、音源更新情報を投稿するだけでなくTwitterを使い音楽をコンテキストとして配信するなど、他サービスとの連携によりユーザー層を拡大しているように感じます。

http://soundcloud.com/scof75
http://soundcloud.com/nanao-tavito
七尾旅人が楽曲パラデータ配布、いつのまにかリミックス大会に(10/26 ナタリー)

最後に。SoundCloudはユーザーとの交流を大切にする企業文化があり、世界中のウェブサービス開発者達やDIYクリエーター達の支援とコミュニケーションを常に行っています。コミュニティが活性化することで、価値観を共有できるエヴァンジェリストが増え、形成された仲間と場所には次々と新たな仲間が増えてきます。SoundCloudの文化は、インディペンデントなコンテンツクリエーターや開発者の作品をリアルの場に届けやすくしてくれる環境作りの可能性を拓いているといえるでしょう。2011年にはサンフランシスコにオフィス開設、モバイルアプリ、HTML5ウィジェットの発表などサービスを拡充してきておりSoundCloudへの期待は膨らみむばかり。今後が楽しみなサービスの一つです。

ご参考
までに関連記事です。興味のある方は是非。

ソーシャル音楽共有サイト「 SoundCloud 」が間もなく有力VCから大規模な資金を調達 (10/18/2010)

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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ソース

Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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