世界的に音楽ストリーミングサービスやネットラジオの分野では、好きな音楽やジャンルを流し続けてくれるラジオ機能がリスナーと新しい音楽との出会いを広げてくれるアプローチとして注目されています。一方で、アーティストやジャンルだけをベースにしたラジオではリスナーの嗜好が偏ってしまうため、いくら楽曲数を多く保持していても、新しい楽曲をレコメンドする機会が生まれないという課題があります。

そんな中で日常的にラジオ機能を使ってもらうための楽曲レコメンデーションに、リスナーの行動やムードをベースにしたキュレーションを採用する音楽サービスが増えています。音楽レコメンデーションサービスの「Songza」は、キュレーション型音楽サービスの中で最も勢いのあるサービスで、今回新たにアプリをメジャーアップデートしました。

Songzaは音楽のプロフェッショナルがキュレーションで音楽をレコメンドしてくれる、無料音楽ストリーミングサービスです。ユーザーの気分やムード、時間帯に応じて、最適なプレイリストを用意してくれるサービスで、リスナーは自らがプレイリストを作成する手間もなく、好きなアーティストやジャンルが聴くことができます。

Songzaのアプリは現在までダウンロード回数が600万回を突破し、3月のアクティブユーザー数は470万人で昨夏の200万人から半年で50%以上も大きく成長しています。Songzaは4月に380万ドルの資金を調達し、事業の強化を図っています。公表はされていませんが、Songzaはサービス開始時からAmazonの資金援助を受けているという噂があります。

Songzaの最新の動向

– アプリダウンロード回数:600万回以上
– 過去30日間の楽曲再生回数:5億6000万曲
– 3月のアクティブユーザー数:470万人
– 一日の音楽視聴時間:100万時間以上

そのSongzaは今回アプリをメジャーアップデートし、新機能を追加して、独自のモバイル音楽体験を拡張しています。新しいSongza 3.0では、既存のネットラジオサービスからの脱却と差別化が見られます。なおiOS, Androidともにアップデートをしていますが、当初新しい機能はiOSのみでの提供になります。

Songzaが実現したモバイル音楽視聴を楽しむアプローチには大きく3つあります。一つは、高音質の実現です。Songzaはオーディオテクノロジー会社Audysseyラボラトリーズと提携し、使用するイヤホンに最適な高音質オーディオ配信をデータ量を増やすことなく実現しました。

 

第二に、インターフェースが使いやすくシンプルになりました。Songzaアプリのトップ画面になる「Concierge」(コンシェルジュ)機能は、曜日や時間帯に応じて6つのアクティビティを提示し、ユーザーは好きな選択肢からその時の気分やムードに合ったプレイリストを選ぶことが可能になりました。例えば朝なら「寝起き(awakening)」や「コーヒー」などのシチュエーションが表示されるので、曲を探す手間が短縮されます。また新しいSongzaでは「Driving」や「Dance Party」などアクティビティメニューのボタンを長押しするだけで、即座にプレイリストの再生ができるようになりました。さらに、再生したプレイリストで楽曲をスキップする回数が多い場合は、Songzaが自動で別のプレイリストをレコメンドしてくれる機能も追加されました。

via PCMag

第三に、検索機能が強化されました。例えば今回のアップデートでは、検索したアーティストが含まれるプレイリストも同時に検索ができるようになりました。また選択したプレイリストで好きなアーティストがすぐに聴けるように、アプリは自動的に検索したアーティストの曲をプレイリストの先頭に移動してくれます。

 

Songzaの他社と大きく違う特徴は、リスナーのアクティビティやムードに応じた選択肢を提供できる点です。これはアーティストやジャンルだけをベースに曲を流し続けるPandoraやSpotifyなどのオンラインラジオ機能とは完全に違うアプローチです。Songzaのアプローチはまた、アプリの広告収入に対してもプラスに働きます。ユーザーのアクティビティを正確に把握できることで、より正確に最適化された広告を表示させることが可能になるからです。

Songzaでは同社が抱える35人以上の音楽プロフェッショナルに加えて、Songzaコミュニティメンバーがプレイリストを生成しています。またアーティストやセレブリティもプロモーション目的でSongzaでプレイリストを公開しています。例えば今年2月にはジャスティン・ビーバーがバレンタインデー向けにプレイリストを公開しています。

https://twitter.com/justinbieber/status/302086385765072897

今年は世界的に音楽ストリーミングサービスが普及する年になりそうですが、まだ日本国内や世界的に普及するにはいくつかのハードルがあります。まずは、音楽を聴いてもらう理由やキッカケを作らなければ、折角の優れたサービスも音楽を届ける前に使われなくなってしまうでしょう。またどんなに数多くの曲を揃えていても、毎回聴いてもらう音楽が同じアーティストやプレイリストだけでは、カタログ数の規模は全く意味を持たないアピールポイントになってしまいます。

今後重要になってくるのは、リスナーに音楽サービスを使ってもらうキッカケや導線作りと、サービス内で新しい音楽を届けるアプローチの構築、この二つが音楽サービスが成功するカギになると思っています。そんな中で、Songzaのレコメンデーションやキュレーション型アプローチは、普段はなかなか出会うことのない新しい音楽とリスナーが日常的にインタラクトするために、これからの音楽サービスに欠かせない一つの重要な要素になっていくと思いました。

http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=siLVq20s3DU

 

ソース

 Songza’s new iOS app predicts exactly what music you need to hear now(5/2 VentureBeat)


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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