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アップルが音楽企業のBeatsを約3000億円(30億ドル)で買収したことは、音楽業界だけでなくIT業界にも大きな驚きを持って迎えられた。なぜなら30億ドルという巨額の買収額はアップルの過去最高額であり、世界の音楽戦略を大きく転換させるかもしれない可能性を秘めた買収劇だった。

Beats買収だけでなく、ここ近年アップルは、Kinectのシステムを構築したPrimeSenseや、Touch IDのベースとなったAuthenTecなどスタートアップの買収を強化してきている。数々の買収を成立させた裏には、1人のM&A交渉者が存在する。メディアから常に注目を浴びるアップルの中にいながら、これまでこの人物について多くは語られていなかった。

その人物とは、エイドリアン・ペリカ(Adrian Perica)。アップル初のM&A専任担当者である。今年で42歳になるペリカは、元ゴールドマン・サックスの投資銀行家で、その前は米陸軍士官を務めており、ウェストポイント(アメリカ陸軍士官学校)の卒業生である。

2009年にアップルに入社して以来、ペリカは30億ドルのBeats買収をふくめてアップルの買収戦略を加速させてきた。

同社市場最大額となった30億ドル(3000億円)を支払いBeatsを買収したアップルは、2014年度第2四半期決算において買収に費やした支出は87%増加し、5億5900億ドル(約573億円)になった。アップルのCEO、ティム・クックは過去18カ月で24社を買収したと発表した。2009年にアップルが買収したのはわずか2社であることから、明らかにアップルが近年買収を戦略的に加速化していることが見受けられる。

しかしである。アップルは他のIT企業と違い、大規模な買収に興じることはめったにない。例えばFacebookは190億ドルでWhatsAppを買収し、マイクロソフトは72億ドルでノキアの端末事業を買収、グーグルは32億ドルでスマート・サーモスタットのNest Labsを買収した。

反対にアップルの過去最大の買収は、1997年にスティーブ・ジョブズのNext Computerを買収した4億40万ドルだった。

一方でティム・クックはスティーブ・ジョブズと違い、iPhoneやiPadの売上が伸び悩む中、製品やサービスを開発するためにアップルの1510億ドルの現金を企業買収に使うことをためらわない。したがってティム・クックの下でペリカの責任はより一層大きくなってきている。

スティーブ・ジョブズが1997年に帰還してからアップルは52社を買収した。ペリカがアップルに入社した2009年以来、5年でアップルは29社を買収している。

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ペリカは、アップルがモバイル向け広告技術のAdMobをライバルのグーグルに横取りされた直後(2009年)にやって来た。それ以前アップルの買収に関するアプローチは、スティーブ・ジョブズの気まぐれに左右されてきたと言っていい。ペリカが呼ばれたのは、アップルが契約をより迅速に取りまとめることであった。そしてペリカは銀行家やMBA取得者達による対策チームを作り上げた。ペリカのチームは取引のケースによっては社内から100人以上のスタッフを集結させ、その系統だった体制のためアップルはウォール・ストリートのアドバイザーを呼び寄せる必要なく契約を進められるようになったと言われている。

ペリカはメディアのインタビューを滅多に受けることはなく、またアップルもペリカについての情報を開示することはない。米軍で情報部員として活動した後、Deloitteでコンサルタントとして働き、その後MITでMBAを取得した。

アップル社内でペリカは経営幹部チームと近しい関係にあり、ゴールデンステイト・ウォリアーズのゲームではアップルの上級副社長エディー・キューが保有するシーズンシートに座っていることがある。シリコンバレーのVC、クライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズ (KPCB) のパートナー、マット・マーフィー曰く

エイドリアンは、シリコンバレーに多い企業人間とは全く違う

とコメントしている。

ペリカと交渉のテーブルについたことがある人に言わせると、彼は「率直な人間で、支払い過ぎることに注意している」という。ある起業家によれば、ペリカは彼に向かって(アップルでの)ペリカの上司は起業家の製品やテクノロジーには全く興味が無く、将来の製品開発のために人材が欲しいだけだと伝えてきたという。

ソース
The Ex-Banker Behind the $3 Billion Apple-Beats Deal(5/28 Businessweek)

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Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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