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これまでiTunesストアなどデジタル音楽サービスではなかなか解禁されてこなかったザ・ ビートルズの楽曲が、昨年クリスマスに9つの定額制音楽配信サービス(Spotify、Apple Music、Google Play、Tidal、アマゾンPrime Music、Deezer、マイクロソフト Groove、Napster、Slacker Radio)で突如解禁されたことは、音楽業界で大きな衝撃を与えました。

オリジナルアルバム13枚を含むビートルズのカタログが配信することについて、ビートルズのプロデューサーとして音楽の歴史に多大な功績を残したジョージ・マーティンの息子、ジャイルズ・マーティンがFast Companyのインタビューに答えています。父親の意思を引き継ぐ音楽プロデューサーのジャイルズ・マーティンは、ビートルズのDVDコレクション「1+」のプロデュースや「A Hard Day’s Night」のリマスタリングを行い、今回の配信で使われたフォーマットのリマスタリングを統括しています。

僕はApple CorpsのCEO、ジェフ・ジョーンズ (Jeff Jones)と、ユニバーサルミュージックの会長ルシアン・グランジ (Lucien Grange)と同意見で、ビートルズは全ての音楽ストリーミングサービスで配信されるべきだ。新しい世代の音楽ファンに音楽を届けるためにね。ビートルズは40年前と変わらず、現代的なアーティストだ

ビートルズは長年iTunesストアでもダウンロードできなかったアーティストの代表例で、2007年にアップルとApple Corpとの間でトレードマークの訴訟が決着したことを受けて、2010年にようやくiTunesで発売を開始します。

今回のカタログ解禁を受けて、定額制音楽ストリーミングの「Spotify」は、ビートルズのストリーミング再生が12月24日から27日の3日間で7000万回という驚異的なペースでの再生回数を記録したと発表しています。またアマゾンは、CDを購入したユーザーに同じ音源のデジタルデータを無償で提供するサービス「AutoRip」を使って、ビートルズのアルバムは100万以上提供されたと報告しています。

ビートルズの音源をデジタル配信する上で、「音質」の問題を抜きにしては語れません。ビートルズやプロデューサーたちにとって、バンドの作品に関する世界観を高いレベルで維持してきました。そのスタンスはデジタルサービスでMP3音質が普及しても変わっていません。

音質についてジャイルズ・マーティンは次のように語っています。

私たちのアビーロード・スタジオで行った作業では、音質が全てだ。ビートルズが音楽ストリーミングを始めるまでこれほどの時間を要した理由の一つは、音質が対応できるようになるまで待ったからだ

マーティンはまたストリーミングサービス各社と協力して、ビートルズのカタログがアーティストの意図したサウンドをできるだけ再現できるように作業をしたと言います。

ビートルズの定額制音楽配信でのカタログ解禁には、いくつか重要なポイントがあります。まず、音楽ファンに対するポイントとして、これまでビートルズを追いかけてきた熱心なファンの方にとって、これまで再発されてきたCDやアナログレコード購入で楽しんできたカタログが、今後は音楽ストリーミングでも再生できるようになり、好きな音楽がいつでもどこでも聴けるようになりました。また、これまでビートルズの音楽を聴いていない特に若い音楽ファンは、音楽史上で最大の人気を誇るバンドの楽曲に触れる機会が生まれました。

SpotifyやApple Music、Deezerなど定額制音楽配信にとっても、ビートルズのカタログを手に入れたことの重要性は、計り知れません。Spotifyなどの人気が高まり、アップルやグーグルなど大手企業も参入する定額制音楽配信の競争で世界的なアピールができるビートルズが解禁されたことは、ユーザー獲得に欠かせない「コンテンツ」での魅力が一気に拡大できたことだけでなく、定額制音楽配信に対する「正当性」を加えてくれました。ビートルズのカタログを配信することは、サービスが提供するコンテンツの魅力をさらに高めてくれます。

今回の配信が解禁されたのは、SpotifyやApple Musicなど世界規模でサービスを展開する定額制音楽ストリーミングで、AWAやLINE MUSICなどローカルな定額制音楽サービスは含まれていません。

音楽ニュースサイト「Real Sound」でもコメントをさせていただきましたが、ビートルズ関係者の狙いの一つは、新たなファンの開拓、特に音楽ストリーミングのユーザーである若者に向けたアプローチの拡大が念頭に置きながら、今回の決定に至ったと考えています。

ザ・ビートルズ“クリスマス解禁”の衝撃 定額制音楽配信サービスへの楽曲開放は何をもたらす?(Real Sound)

ビートルズのアナログレコードも売上好調と言われています。もしこれまでビートルズを聴いてこなかったリスナーも定額制音楽配信で、聴けるようになれば、新しいビートルズフォロワーを作れることにつながる可能性が高まってきました。ビデオゲームでの楽曲提供、シルク・ドゥ・ソレイユとの「The Beatles LOVE」もその戦略の一つと考えられます。もしかすると、今後も新しい形でビートルズの楽曲に触れる機会が増えてくるのかもしれません。

ソース
It’s Official: The Beatles Coming To Spotify, Apple Music, And More(Fast Company)


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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