Spotify Press Announcement

定額制音楽配信の「Spotify」は20日にスタートアップ2社の買収を発表しました。

買収したのは「Cord Project」と「Soundwave」の2社で、ニューヨークとダブリンに拠点を置き、メッセージング機能とソーシャル機能に特化した製品を開発しています。まずCord Projectは音声メッセージ・プラットフォームの「Cord」を開発するテクノロジー集団で、スマートフォンやタブレット、スマートウォッチ向けに手軽に音声メッセージを録音して送れる機能を提供しています。2014年創業のCord Projectは、プライベートSNSアプリ「Path」の創業者Dave Morinやグーグルのベンチャーキャピタル部門「GV」などから資金を集めています。

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そしてSoundwaveは、2012年創業の音楽スタートアップで、音楽の「ディスカバリー」機能を強化したアプリをiOSとAndroid、スマートウォッチ向けに開発しています。アプリユーザーがモバイルデバイスの音楽アプリで聴いている楽曲をトラッキングして、Soundwave内のフィードに視聴した楽曲の情報が表示させることで、プライベートグループの中で友人と音楽でフォローし合いインタラクションしたり、ユーザーの位置情報から人気の音楽を見ることができる、音楽ソーシャルネットワークが特徴です。SpotifyはSoundwaveの買収で、Spotifyのユーザー体験が向上できると述べています。

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Soundwaveアプリはこれは190カ国以上で150万回以上ダウンロードされています。またアプリは14ヶ国語にも対応。創業以来4ラウンドの資金調達で290万ドル(約3億3880万円)を集めており、投資家にはマーク・キューバンやACT Venture Capitalなどが名を連ねます。

Spotifyは今回の買収が、音楽ファンの体験向上を実現する戦略の一貫としています。Spotifyの製品担当副社長Shiva Rajaramanは「Spotifyは革新的で魅力的な音楽ディスカバリー体験を数百万人のユーザーに届けることだけに注力しています。Cord ProjectとSoundwaveの買収は、Spotifyに最高に才能があって同じ思想を共有するチームと一緒に働く機会を与えてくれました」と答えています。

近年注目がより高まっている定額制音楽配信は、IFPIの調べによれば2014年には世界で20億ドル以上の売上を挙げており、この額はデジタル音楽からの売上の約3分の一に値します。アップルやグーグルが参入してきた定額制音楽配信でSpotifyは有料会員数2000万人以上を有する、業界トップのサービスです。

これまでもSpotifyはメッセージアプリとの連携を米国のモバイルアプリTangoとの提携で実現してきました。またFacebookとの連携などによりSpotifyのユーザーはソーシャル機能を活用して聴いている音楽を簡単に共有できる仕組みはすでに実装されています。

仮にSpotifyが今回買収した2つのスタートアップをSpotifyのモバイルアプリと連携させるとすれば、どうなるでしょうか? Cord Projectの音声メッセージング機能とSoundwaveのソーシャル機能が実装されたSpotifyで、ユーザー同士が視聴中の音楽をプライベートの空間で共有したり会話し合ったりすることが可能になり、これは今まで1人で楽しんできた音楽ストリーミングの聴き方に新しい側面が加わります。

この可能性は、よく考えればすでにLINE MUSICが実現していることに似ていますね。LINE MUSICも視聴中の楽曲をアプリ内からLINEに直接送り、友人とメッセージを通じて共有することができる機能がサービスの中心としてあります。しかしSoundwaveのような視聴中の音楽をフィードへ流す機能までは備えていません。

特に、聴いている音楽を共有したり、音楽を見つけたりできるSoundwaveは、これまでSpotifyが実現させてきた新しい音楽との出会いについての哲学とも合致します。

また音声メッセージのCord Projectは、Spotifyに新しい音楽体験の実現に向けた実験的な役割を担うかもしれません。これまでは、アプリ内だけの操作で音楽を聴かせてきたSpotifyですが、ビッグデータの活用や、Echo Nestなどによるリスナーに最適化されたレコメンデーションに加えて、音声やセンサー、位置情報を取り込んでリアルな世界においても今まで以上に没入感の高い音楽体験を作っていく可能性があります。

Spotifyのような大きなプラットフォームがアプリのスタートアップを買収する戦略があると、何かSpotifyと一緒にやりたいと思う起業家やスタートアップがますます増えて、面白い連携がさらに期待できます。この流れから、音楽とテクノロジーのSpotifyエコシステムが拡張していきそうですね。

Spotifyのロードマップには、音楽視聴に加えて動画やニュース、ポッドキャストが計画されています。Spotify、またApple Musicを使っていれば、「数千万の楽曲が聴き放題できる音楽サービス」という存在から飛躍していることに気が付いている方は多いはずです。楽曲数や、最新リリースがあることの重要性に加えて、最高の音楽体験と音楽ディスカバリー体験を作り、最高の機能で届けていくかが、音楽ストリーミングの競争では重要になってきました。

Spotifyはこれまでも「Running」や「Party」など生活のアクティビティと親和性の高い機能をビッグデータとキュレーションを活用して提供して、音楽体験を進化させています。Cord ProjectとSoundwaveの買収と機能が音楽体験にどんな変化を与えるのか、注目していきたいと思います。

ソース
Spotify Buys Music Social Network Apps Soundwave, Cord Project(Bloomberg)

Spotify acquires Cord Project and Soundwave(Spotify)

Spotify acquires Soundwave!


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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