sonos_black

音楽ストリーミングサービスとの連携でシェアを拡大している、ワイヤレスのスマートスピーカー・ブランド「Sonos」は、共同創業者でCEOのジョン・マクファーレーン(John MacFarlane)が、辞任したことを発表しました。

マクファーレーンの後任には、これまで社長やチーフ・コマーシャル・オフィサーを勤めたパトリック・スペンス(Patrick Spence)がCEOに就任しました。マクファーレーンはSonosの取締役も辞任。ただしアドバイザー役として同社にとどまります。

こちらの記事もオススメ:音質は5倍アップ。定額制音楽配信Deezer、「Sonos」と提携して高音質ストリーミング「Deezer Elite」を開始へ

2002年にマクファーレーン、トラン・マイ(Trung Mai)、トーマス・カレン(Thomas Cullen)、クレイグ・シェルバーン(Craig Shelburne)の4人が共に創業したSonosは、スマートフォンと無線通信を活用して、自宅のあらゆる場所で難しい設定の必要無く、音楽再生を可能にするワイヤレスのスピーカーを業界でいち早く開発し、「スマートスピーカー」分野のリーダーとして成功を収めてきました。Sonosを自宅に設置するだけで、スマートフォンで再生する音楽以外にも、PCに保存された音楽もワイヤレスで再生可能にできる利便性から、欧米で強い支持を集めている「オーディオIoT」のブランドです。

現在は、Spotifyのスピーカー連携機能「Spotify Connect」、Apple Music、Google Play Music、Prime Music、Deezer、Pandora、TIDAL、SoundCloudなど、音楽ストリーミングサービスへの対応を拡張して、あらゆる音楽サービスの有料オプションとして、リビングのスピーカー連携を実現しています。

Sonosの販売台数はこれまで公表されていません。しかし、ニューヨーク・タイムズによれば、マクファーレーンはSonosの2015年の売上が約10億ドル(約1145億円)に達し、過去最高を記録したことを明らかにしています。またスペンスはSonosは黒字経営であることもニューヨーク・タイムズに伝えています。

無視できないライバル「Amazon Echo」

amazonecho

これまでスマートスピーカー市場を独占してきたSonosは、近年、数々の競合製品に直面しています。特に急速に迫ってきているのが、アマゾンが独自に開発している音声認識機能搭載のスマートスピーカー「Amazon Echo」です。

Amazon Echoの音声アシスタント「Alexa」は、スピーカーと音声コマンドの新しいジャンルを開拓して、これまで必要だったスマートフォンやPCなどハードウェアによる操作を排除、その代わりに、ユーザーは声で音楽を再生したり情報を探したりすることができるという、全く新しいスピーカーのインターフェースを確立しました。これによって、音声入力機能を搭載したスピーカーやイヤホンなどオーディオデバイスへの注目が高まり、グーグルは独自に音声アシスタント機能の付いたスマートスピーカー「Google Home」を市場に投入し始めました。

こうした市場の変化に乗り遅れまいと、Sonosも、2016年から音声認識機能の連携をSonosスピーカーでも取り入れ始め、現在はAmazon EchoのAlexaでSonosをコントロールする音声入力をアマゾンと協力して実装しています。

新CEOのスペンスも音声入力機能は無視できない存在で、今後は純粋なオーディオ企業以外が競合となることを認識しています。ニューヨーク・タイムズでは、「アマゾンとグーグルが進めている製品によって、完全にこれまでと違う世界が生まれた。私たちは新しい世界の一部なのです」とSonosが置かれた現状を答えています。

SonosのCEO交代は、このアマゾンとEchoの急成長に対応するための戦略強化の一貫ではないかと推測されます。特に、定額制音楽ストリーミングサービスとの連携では業界で先手を打つことに成功したものの、音声入力の連携では、AlexaやSiri、Cortana、Google Assistantといった、インテリジェントパーソナルアシスタントは、大手テック企業がそれぞれクロスプラットフォームでの導入が進んでいるため、Sonosは不利な立場に置かれます。ただし、現在はSiri、Cortana
がベースのオーディオデバイスは存在しておらず、Google Assistant搭載のGoogle Homeも2016年11月にようやくアメリカで販売が開始され、世界展開はまだ進んでいません。

「音楽を全ての部屋で鳴らす」スマートスピーカーという市場の可能性を、「定額制音楽ストリーミング連携」で業界や一般消費者に気付かせたとすれば、「音声認識」はスマートスピーカーを未来へ進化させる次のフェーズに各社の製品開発が入ったことを、AlexaやGoogle Assistantの登場が示しています。

ソース
Chief Executive of Audio Firm Sonos Steps Down (New York Times)
The Next Generation of Sonos Leadership (Sonos)


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
取材、記事執筆、リサーチ、音楽ビジネスやストリーミング、海外PRに関するコンサルティングのご相談は、お問い合わせからご連絡を宜しくお願い致します。

  • プロフィール
  • お問い合わせ