定額制音楽ストリーミングサービスのApple Musicのビジネス戦略での最重要人物の音楽プロデューサー、ジミー・アイオヴィン(Jimmy Iovine)が、アップルを2018年夏に退社することが明らかになりました。

アイオヴィンは、2014年にオーディオブランド「Beats by Dre」の運営会社Beats Electronicsと、Apple Musicの前身Beats Musicをパートナーであるヒップホップ・プロデューサーのドクター・ドレ―(Dr. Dre)と共にアップルへ当時のレートで約3000億円(32億ドル)で売却し、Apple Musicローンチと成長戦略の中心的役割を担ってきたキーパーソンです。

アイオヴィンがアップルを去るのは契約上の理由。今年8月に満了となるアイオヴィンの契約については、音楽業界でこれまでも議論されてきた話でした。

Apple Musicの戦略を担う主力チームにはアイオヴィンの他に、アップルのインターネットソフトウェア&サービス担当上級副社長であるエディ・キュー(Eddy Cue)、メディアアプリおよびコンテンツ担当副社長のロバート・コンドラック(Robert Kondrk)、「ナイン・インチ・ネイルズ」で知られるアーティストでプロデューサーのトレント・レズナー(Trent Reznor)、「Beats 1」のDJでありクリエイティブ・ディレクターのゼイン・ロウ(Zane Lowe)、そしてアイオヴィンの片腕的存在で、インタースコープ・レコードのA&Rを経てApple MusicとiTunesのオリジナルコンテンツの責任者であるラリー・ジャクソン(Larry Jackson)が活動しています。

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「インタースコープ・レコード」の共同創業者であり、CEOを務めたアイオヴィンは、ユニバーサルミュージック・グループ傘下のレーベルで最も強力なレコード会社「インタースコープ・ゲフィン・A&M」の会長兼CEOとして、ドクター・ドレ―の「The Chronic」を世界に知らしめたり、スヌープ・ドッグや2パック、そしてエミネムを成功させるなど、数々のレーベルやアーティストを成功に導いてきた人物として知られてきました。

その一方で、2003年にスティーブ・ジョブズにiTunes ストアとiPodのローンチにおいて音楽業界との橋渡し役になるなど、レーベル以外の音楽ビジネスの可能性を信じてリスクを背負ってきた人でもあるだけに、そうした活動がBeat by Dre.やBeats Music立ち上げの原動力になっていることは間違いありません。

「WIRED.jp」に掲載されたジミー・アイオヴィンとドクター・ドレ―の記事で、南カリフォルニア大学に設立した次世代の音楽ビジネスパーソンを育成する学校「Jimmy Iovine and Andre Young Academy」の話は、音楽業界にいる経営者とは思えないビジョンが見えてくる内容ですので、オススメです。
Beatsから学校へ:ジミーとドレーの未来のカリキュラム | WIRED.jp
https://wired.jp/special/2017/jimmy-and-dre/

アイオヴィンがいるApple Musicと同じく、YouTubeには、元ワーナーミュージックのCEOで、ヒップホップの一大勢力レーベル、デフ・ジャムのトップだったリオ・コーエン(Lyor Cohen)がいます。アップルの音楽ビジネス参入にアイオヴィンがいたように、コーエンはYouTubeが初めてメジャーレコード会社とライセンス契約をした時にワーナーミュージックのデジタル戦略を担っていました。

共にレーベルビジネスの枠組みに囚われない新しい音楽業界の経営者像を打ち出してきたプロフェッショナルとしての二人が、同時期に音楽ストリーミングビジネスへと辿り着いたという経路は、いま音楽業界が迎えている大変革が点ではなく線でつながっていると捉えることができて大変興味深いキャリアです。

Apple MusicはSpotifyと並ぶ定額制音楽ストリーミングサービスの大手となることに成功し、テイラー・スウィフトやドレイク、フランク・オーシャンなどとコラボレーションを実現させるなど、音楽ストリーミングのビジネスモデルとコンテンツ戦略の確立する瞬間に、再びアイオヴィンがスポットライトの中心にいたのは、彼の恐ろしいほど未来的なビジネスセンスの表れでしょう。

ソース
Apple Music’s Jimmy Iovine Plans Departure in August (Bloomberg)
Jimmy Iovine will leave Apple in August, four years after his $3 billion deal (Recode)
image by tua ulamac


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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