クラウドファンディング・プラットフォームの「Kickstarter」は、アメリカ人パンクアーティストのメレディス・グレーブス(Meredith Graves)が音楽ディレクターに就任したことを発表しました。

グレーブスは2012年結成のパンクバンド、Perfect Pussyのヴォーカリストとして活動する現役アーティスト。これまでもPitchfork FestivalやCMJ Music Festivalなどのインディーズ系フェスなどに出演し、カルチャー系メディアなどで高い評価を集めてきました。

さらにソロアーティストとして活躍する傍ら、自身が主宰するレーベル「Honor Press」を2015年に設立しアンダーグラウンドな音楽活動の幅を広げています。

Kickstarterの思想に近いメレディス・グレーブス

グレーブスは音楽ジャーナリストとして、メインストリームなメディアでも活躍しています。「MTVニュース」のレポーターとしてテレビ出演したり、PitchforkやVillage Voice、i-Dなどでアンダーグラウンドな音楽カルチャーを紹介する多才な活動を行なってきました。

Kickstarterは、「音楽」カテゴリーがプラットフォームで最も資金を獲得したカテゴリーで、これまで資金調達に成功したアルバムリリースやライブ活動、独立系イベント、再発、実験的イベントの数は27,488件に上ると述べています。クラウドファンディングの影響力はメインストリームにも拡大しています。今年の第60回グラミー賞にはKickstarterで支援された2作品がノミネーションを獲得しました。

グレーブスは音楽ディレクター就任に合わせて、クラウドファンディングにはアーティストのクリエイティブ活動を民主化するパワーがあるという力強い内容のオープンレターを公開しました。

オープンレターはこちらでご覧いただけます。

DIY音楽シーンのアーティストを重要なポジションに置くのは、アーティストやレーベルとの関係性構築や、DIYなクリエイティブプロセスの可能性、さらには音楽ビジネスの可能性を音楽コミュニティに結びつけ、ファンが直接支援する創作活動のエコシステムの強化へと繋がります。

Kickstarterはアーティストを音楽ディレクターに起用するのは、初めてではありません。

グレーブスの前には、1991年にワシントン州オリンピアで結成したパンクロックバンドで、フェミニシズム思想を男性中心のロックシーンに持ち込んだ「Riot Grrrl」ムーブメントのパイオニア的存在であるBratmobileの結成メンバーでドラマーのモリー・ニューマン(Molly Neumann)が音楽ディレクターを務めてきました。

ニューマンがKickstarterに在籍したのは、わずか2年という短期間でした。

KickstarterのようなDIYクリエイターや無名アーティストが集まるプラットフォームが、ニューマンのようにミュージシャンと音楽業界関係者として二つのユニークな顔を持つクリエイターを採用したことは、大きな変化でもあります。

ニューマンはKickstarter参加以前は、アメリカのインディーズレーベルを代表して音楽業界と交渉する業界団体「American Association of Independent Music」通称A2IMの副社長というキャリアを積んできました。

自らDIYな音楽活動を続けるだけでなく、無名なアーティストやレーベルのビジネス支援活動に従事してきた経験がKickstarterの音楽プロジェクト戦略に反映されたのでした。

グリーバスやニューマンは、同じ要素をいくつも含んでいます。アーティストとしてDIYな音楽活動を行い、音楽ビジネスやメディアの領域から無名クリエイターやシーンの発掘成長を長年に渡って支援してきたキャリアパスは、Kickstarterに集まるクリエイターやアーティストにとってより良い音楽向けプラットフォームにしてくれると期待が高まるはずです。

日本でもクリエイター向けサービスの重要職にアーティストやクリエイターがジョインする未来がきて欲しいところです。

世界では音楽サービスが、アーティストやレーベル、音楽業界との橋渡し役に、アーティスト活動やレーベルビジネスの専門家を置くことは、昨今当たり前になりつつあります。

Apple Musicにはジミー・アイオヴィン(Jimmy Iovine)、YouTubeにはリオ・コーエン(Lyor Cohen)、Spotifyにはトロイ・カーターと、それぞれメジャーレーベルのCEOを務めた重鎮や、有名アーティストの育成を統括するエージェントなどがいます。

変わったところでは、Instagramには、ビヨンセ主宰のマネジメント会社Parkwood Entertainmentでデジタル戦略責任者を務めた経験を持つローレン・ワーツァー・シーウッド(Lauren Wirtzer-Seawood)が音楽パートナーシップ責任者としています。

だが、音楽ストリーミングとクラウドファンディングは全く異なるビジネスモデル。そのため、アーティスト活動や音楽ビジネスに精通している人物でも、クリエイターのニーズを汲み取りプラットフォームの方向性を決める作業は複雑になっていくはずでしょう。

ソース
Introducing Kickstarter’s New Director of Music — Meredith Graves (Kickstarter)
I’ve Joined Songtrust (Medium)
On Joining Kickstarter (Medium)
image via Kickstarter blog

Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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