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PCゲーマー向けにPCやマウス、キーボードを開発販売するRazerが、音楽クリエイター向けにデジタル・コンテンツ・プラットフォーム「Razer Music」を立ち上げ、音楽をターゲットにした取り組みを開始しました。

Razer Music

Razer Music開始に合わせてRazerは専用のポータルサイトをローンチしました。Razer Musicは、数多くの著名なプロデューサーやエレクトロニックアーティストと協力して、コンテンツの配信から音楽制作のチュートリアルを、このサイトを通じて行います。

Razer Musicにはdeadmau5、オランダ人DJのDyro、Carnage、Project 46、Zircon、さらにドレイクやトラヴィス・スコットのプロデューサーMetro Bloominが参加し、音楽制作や音楽テクノロジーについて情報発信していきます。

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またDAWソフトウェア開発メーカーのImage-Lineと提携し、2015年版Razer Bladeラップトップに無償でDAWソフト「FL Studio Producer Edition」を提供します。

Razerの共同創業者でCEO、Min-Liang Tanは、Razer Music立ち上げについてFortuneに対して「私たちはみんな音楽が好きで、ゲームを通じて友人と知り合う楽しみ方と同じ流れから音楽にも夢中になりました。私たちはまたテクノロジーの熱心な愛好家でもあります。EDMは私たちがいるゲームの世界と、ソーシャル、音楽、テクノロジーへの関心が交差する分野でもあります。CNNによると、2014年のEDM市場は62億ドルの価値がありました。ゲーム市場は米国だけでも200億ドルの市場規模があります。ゲーマーと音楽ファンを、人材育成また技術的な資産にアクセスが可能なRazer Musicの視点を通じてつなぐという提案は、私たちの存在そのものの面白く健全な拡張だと言えます」と語っています。

PCゲーマー向けラップトップを音楽制作やライブに用いるアイデアは実用性もあり、現実的な組み合わせです。しかしRazerの戦略は、もっとその先のバーチャルリアリティとの組み合わせまでを見据えているようです。

Razerのシステム・マーケティング担当グローバル・ディレクターKevin Satherによれば、大半の音楽プロデューサーはWindowsマシンを使っているため、ハイエンドなRazerのラップトップは、現行の音楽制作に必要なスペックやパフォーマンスにも適応できるといいます。Razerは広いジャンルのアーティストやプロデューサーたちに今年始め頃からコンタクトを取り、Razer Musicの戦略を説明していったそうです。

そしてTanは音楽とゲームのつながりは、Razerが取り組んでいるVRコンテンツ制作のためのプラットフォーム「Open Source Virtual Reality」(OSVR)でもビジネスのチャンスが広がると見ています。TanによればRazerのOSVRチームはRazer Musicの立ち上げにコンテンツ開発の観点から支持しており、VRによってより高度な没入感とエンターテイメント性を兼ね備えた体験を提供できることに期待を高めています。

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Razerのゲーム・コミュニティには現在370万人以上のゲーマーが存在しているため、新たな音楽ビジネスには、EDMアーティストやプロデューサーたちが直接熱狂的なユーザーとつながるプラットフォームが構築できるメリットもあります。

Tanは「VR開発の大半はゲーム用途に注力されていますが、ライブ・コンサートを自宅で体験するなど音楽への応用にも大きなチャンスがあります。VRコンテンツはゲームが音楽に影響を与えられる最も具体的な方法の一つでしょう」と答えています。

VRの話は随分未来の話と思われているが、実際には音楽クリエイターでも高い関心を持っている人には、何人も出会ってきました。小室哲哉さんやFlying Lotusにお話を聴いた時も、VRの技術が音楽体験を変えると発言されており、音楽を作る人たちの目にもITの世界で騒がれているVRの可能性は、未来の音楽コンテンツ制作で重要な役割を担う技術として見ています。

ですが、なぜか未だにVRのような先進技術が、日本の音楽の世界で語られることが少ないことが気になります。音楽の世界とITの世界での共通言語を見つけることが難しいから、この問題が生まれているとも言えるでしょう。しかし音楽制作がPCやネット無しでは出来なくなったことや、製品やサービスのプロモーションにSNSを使う点など、共通するポイントは数多く存在するはずです。Razerのように音楽に歩み寄る企業が日本でも出てきても、全く違和感はないはずです。恐らく、アップルもBeats買収後のハードウェア戦略に音楽クリエイターを採用するはずですし、Razerに負けじとマイクロソフトも音楽とWindowsの連携を再度強めるかもしれません。そろそろテクノロジーと音楽が歩み寄った企業連携や取り組みが一般的に日本でもなると、ビジネスもクリエイティブも進化する速度がスピードアップします。ですので、Razerのような考えを持つ企業の出現と、テクノロジーにオープンな日本人アーティストが1人でも増えることに来年以降も期待したいです。

音楽制作や配信にテクノロジーが必要不可欠になった今の時代、ただ音楽を作っていくだけよりも、他業種と協力しながらコンテンツを作る方法を考えることは、音楽以外のターゲットへリーチができ、音楽の世界では手に入りにくいテクノロジーや製品、開発者に触れる機会が増えると感じています。このアプローチは、音楽クリエイターに音楽の世界で凝り固まるよりも大きな機会創出を提供し、ビジネスやクリエイティブなコラボレーションの幅を広げる可能性を高めるので、より早く新たな戦略と施策を考えるスピードとアイデアを手に入れられるはずだと思っています。

これは何もクリエイターだけではなく、サポートしてくれるマーケティングやプロモーション、ソーシャルメディアの担当者にとってもメリットとなるはずで、このようなアプローチが増えれば、音楽だけでなくゲームやVR、ウェブの世界でも面白いコンテンツが将来的に生まれることも大いにありえるのではないかと思います。

ソース
Razer is connecting its gaming audience to music production(Fortune)


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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