カントリーミュージック歌手で第55回グラミー賞でも最多6部門にノミネートされた、23歳の歌姫テイラー・スウィフトが所属するカントリー・ミュージックのインディーズ系レーベル、ビッグ・マシーン・レーベル・グループ(Big Machine Label Group)は、「Spotify」(スポティファイ)において、レーベルの新作を今後全て配信しないことを宣言しました。
ビッグ・マシーンの社長でCEOのスコット・ボルチェッタ(Scott Borchetta)は、ローリングストーン誌でのインタビューで、欧米で人気を集める月額定額制の聴き放題音楽ストリーミングサービスのSpotifyに対する自身の考えと米映画業界に共通する考えを示しています。「新しいリリースは配信しない。なぜ映画業界のようになっちゃいけないんだ?映画は、映画館があって、次にケーブルテレビでも配給する。それぞれ役割分担ができている。作品全てを一度にぶちまければ、俺たちに明日はない」
興味深いアプローチなので少しだけ整理してみました。1800万曲以上にアクセス可能なSpotifyでも、配信されていないアーティストもいることをご存知でしたか? ここで現在Spotifyで聴くことが出来ないアーティストの状況を簡単にまとめてみます。
1) 最新リリースの配信回避 (Windowing)
2) アーティストの全カタログ配信回避
3) レーベルの不参加による配信回避
1) 過去にもコールドプレイやアデルなど、これまでもアーティスト単位や作品単位で、Spotifyでの配信を止めるまたは遅らせるケースは存在しました。これは「Windowing (ウィンドウイング)」という戦略で、配信時期を意図的にずらすことで、無料サービスのリスナーを回避し、有料でも音楽を聴くコアなファンへ別の手段で音楽を確実に届ける戦略です。この場合はCDだったりダウンロードだったりします。
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2) アーティスト自身が配信サービスに消極的なケースもあります。代表的なものでいえば、ビートルズではないでしょうか? またピンク・フロイド、レッド・ゼッペリンなども同じく配信していません。無料の配信サービスによる低いロイヤリティ料や楽曲売上低下のリスクを懸念する場合だったり、上記と同じ理由が考えられます。
3) レーベルが全てのカタログを配信サービスから取り下げるケースもあります。その場合は、所属アーティスト全てが配信されませんし、過去に所属していたアーティストの作品も対象だったりします。
ただ一つだけ言えることは、新興ビジネスモデルの配信サービスに対してそれぞれが独自の考えを持っているため、まだまだ試行錯誤している印象があります。
ビッグ・マシーンの戦略は、これらを更に一段拡張してレーベル全体の戦略へと引き上げます。例えばビッグ・マシーンが先月リリースしたテイラー・スウィフトの新作「Red」は、Spotifyなど音楽ストリーミングでの配信を回避することを選択しました。「Red」は2002年以降最大の初週で100万枚以上をCDとダウンロードで売り上げ、現在では240万枚以上を売り上げる2012年最大のアルバムリリースの一つになり、チャート上位を占めています。
レコード会社としては、Spotifyでの配信がプロモーションとなり、より多くのユーザーに届き購入へとつながって欲しいと考えるところですが、テイラー・スウィフトのような需要の高い一部のアーティストになれば、Spotifyでわざわざ無料で聴かせるよりも、確実に購入へと誘導することがより重要になります。ですのでSpotifyでの配信を回避する決定も、勝算があればこそ実現できる戦略と言えます。
Spotifyは無料会員にフリーで音楽を提供し、更なるプラスアルファを望む利用者には有料会員へと誘導する形の『フリーミアムモデル』ビジネスモデルを採用しており、このモデルはこれまでCDやデジタルダウンロードの販売でビジネスをしてきたアーティスト側にとっては、作品をタダで配布することへの不満や不確定要素、損失のリスクが考えられています。
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一方で、Spotifyリスナーにとって、人気アーティストや人気作がサービスで聴けなければそれだけサービス利用の価値が下がるため、より多くの人気作品を充実させて欲しいところが、本音だと思います。この部分の検証と議論は今後も継続するでしょうか、テイラー・スウィフトやビッグ・マシーンに共感し配信を回避するレコード会社が増えることだけは、避けてもらいたいですね。
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ビッグ・マシーンは、ティム・マクグロウ、ラスカル・フラッツなど人気カントリーミュージック・アーティストの作品をリリースしています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。