ソーシャルメディア上の音楽データを解析するNext Big Soundが、2013年のオンライン音楽データで分析し、アーティスト活動における注目のトレンドを紹介するレポート「2013: A Year in Rewind」を公開しました。
Next Big Soundとは、ソーシャルメディアやデジタル音楽サービス、ストリーミングサービスにおけるアーティストの口コミやエンゲージメントなどを解析する、音楽データ分析企業です。Next Big Soundのデータは、アメリカの公式チャート「ビルボード」でソーシャルメディアで話題のアーティストをランク付する「Social 50」チャートと、話題性が伸びている新人アーティストをランク付した「Next Big Sound」チャートを提供しています。
世界の音楽マーケティングでは、レコード会社やマネジメント会社、さらにはアーティスト達や企業のマーケティング担当者達が売上データだけでなく、ソーシャルやオンラインの音楽情報いわゆる音楽のビッグデータを活用しながら、ファンとのコミュニケーションやリリース戦略、ブランディングを実施する流れが広がってきています。なぜならソーシャル上の情報や再生回数の動向などから、多様化する消費者の購買行動データを予測するキッカケが出来るからです。
例えば、Next Big Soundで2013年にトラックしたデジタル音楽サービスでの再生回数は2230億回以上に及びます(後述)。これに対し、公式の音楽売上データを発表している調査会社ニールセンSoundScanがトラックした音楽データは、1181億回しかありませんでした。このように、Next Big Soundのソリューションでは公式データでは見えてこない、より詳細な音楽データを見ることができ、アーティストの活動の分析や戦略策定に反映することが可能になります。
Next Big Soundのレポートでは、2013年に集計した音楽データから、アーティストとソーシャルメディアの関係性や、ソーシャルメディアがアーティスト活動に与える影響、さらには音楽マーケティングのトレンドなどを、分析してまとめています。
アーティストの新規ファン数
アーティストのファンになったユーザー数は2012年から継続して上昇傾向にあります。Next Big Soundは2012年に計測した新規ファン数は57億人以上でしたが、2013年はそれを上回る60億人が、Facebook, Twitter, YouTube, SoundCloudやSpotifyなどの音楽サービスでアーティストをフォローしました。
オンラインの音楽再生回数
オンライン上での音楽視聴も増加しています。2013年にSpotifyやYouTube,VEVO、SoundCloudなど音楽サービス上では音楽は2230億回以上再生されており、これは2012年にNext Big Soundが計測した数値を140%上回りました。2013年の結果から、リスナーの間では音楽ストリーミングの利用が確実に拡大していることがうかがえます(注:Next Big Soundは2013年にSpotifyと連携しデータの収集を開始しました。したがってこれが数値の大幅な増加にも寄与しています)
アーティストのソーシャルメディア別新規ファン獲得ランキング
こちらはFacebook, Twitter, Instagram別でアーティストを新規に獲得したフォロワー数を元にランク付けしたチャート。なんだ、みんな有名な大物アーティストじゃないか! と思われるかもしれません。ですが、ソーシャルメディア別に見てみると、3つ全てで伸びている人はほとんどおらず、いずれかのプラットフォームにかたよってファン数を増加させている傾向が見えてきます。
例えばFacebookでトップのシャキラは、Twitter、Instagramではランク外。Twitterでトップのケイティ・ペリーもその他ではランク外。全てにランクインしているのはテイラー・スウィフト(Facebook5位、Twitter3位、Instagram6位)だけという結果になっています。
このことからも、アーティストはやみくもにソーシャルメディアを使うのではなく、ファンとコミュニケーションが最大化できるSNSやプラットフォームを見極めた上で戦略的に活動していると考えられます。
この他Next Big SoundはSoundCloud、VEVO、YouTubeのランキングも発表していますので、気になる方はどうぞ。
ファンを獲得する意味
では100万人のFacebookファンや、YouTube再生回数は、一体何を意味するのでしょうか? 最近ではメディアで記事が露出する時、アーティスト情報としてこれらの数値が示される場面も増えてきたと思います。Next Big Soundのリサーチでは、ソーシャルメディアでのファンとのエンゲージメントが高いアーティストは、より新規フォロワーを獲得しやすいという結果に辿り着きました。
例えばNext Big Soundが計測するアーティストのうち、約80%がFacebookページで1日1いいね!も獲得できていないことが分かりました。
一方で、シャキラのFacebookページでは、毎日平均50000いいね!を獲得しています。
Next Big Soundではリサーチに当たり、メジャーレコード会社との契約、テレビ番組の出演(海外では限られた人しか出れない)、ビルボード200にチャートイン、マルチプラチナを記録するアルバムリリースなど成功のベンチマークを設定、アーティストがこれらのベンチマークを通過した際のフォロワーの変化を調査することでカテゴリー分けして行きました。
上記のベンチマークによってNext Big Soundがアーティストを分類して見たところ、90.7%のアーティストは『未発見』(Undiscovered)のカテゴリーに入るという結果になりました。7%が『成長中』(Developing)、わずか1%が『メインストリーム・メガ級』のアーティストで認知を獲得していることが分かりました。
しかしこのリサーチ結果が全てのアーティストに当てはまるとも言えません。ニュージーランド出身のロード (Lorde)は、わずか8カ月間未満で『未発見』から『メインストリーム』へ変わりました。
アーティストの新たなプロモーション手法
Next Big Soundは、2013年の音楽シーンで起きた動きとして、従来のやり方とは違うアルバムのリリースする手法を実施するアーティストが出現し始めたことを挙げています。その上で、現在アーティストの音楽マーケティングで見られるトレンド3つを示しています。
- ソーシャルメディアの活用
- ブランド・パートナーシップ
- これまでにない音楽体験をファンに提供
Next Big Soundでは、2013年のブランド・パートナーシップの事例として、ジェイZが独占的にサムスンと組んでモバイルアプリを活用したアルバム『Magna Carta Holy Grail』のリリースを挙げています。このパートナーシップでは、ジェイZは新アルバムはプラチナムを達成、サムスンは公開されたプロモ動画によってオンライン上で大きな注目を集めることに成功し、リリース前後にSamsung Mobile USAのYouTube公式アカウントでは動画の再生回数が4000万回以上を記録しました。
2013年は音楽マーケティングが大きく飛躍した年であり、著名なアーティストが新たなプロモーションの手法を本格的に取り込み始めた1年でした。また、音楽ストリーミングと新たな音楽ツールの出現により、人々と音楽との接触の仕方が変化し始めました。
音楽の今後を予測するのは、とてつもなく困難です。しかし、消費者の情報接触頻度が高くなり、音楽の消費サイクルが速くなった今の時代に、戦略を組まないアーティスト活動は、機会の損失以外の何物でもありません。そのために重要になってくるのは、データを読み解くことです。恐らく世界でこのような音楽データが出せるのは、Next Big Soundだけでしょう。
ソーシャルメディアやオンラインのチカラがプロモーションの主軸となり始めた今、音楽マーケティングのイノベーションは、かつてないほどの巨大なバズ、メディアへの露出、ソーシャル上でのエンゲージメントを音楽シーンに作り出し、そしてこれからは無名からスターまで多くのアーティストの活動範囲を大きく飛躍させてくれる、新しい常識になって行くことが今後は期待されます。
ソース
Next Big Sound’s ‘Year in Rewind’ Shows a Skewed Digital Landscape(1/17 Billboard.biz)