定額制音楽ストリーミングサービスSpotifyのCEO、ダニエル・エク(Daniel Ek)がアメリカで人気のインタビュー番組「チャーリー・ローズ」に出演し、司会でインタビュアーのチャーリー・ローズとSpotifyや現代の音楽ビジネスについて議論を交わしています。

ダニエル・エクは番組では「ヨーロッパ最高のデジタル・インフルエンサー」(Wired.co.uk)と紹介され、オンエアされた20分強のインタビューの中でエクは、Spotifyの基本的な理念やあり方、Spotifyの現在と未来、競合企業やストリーミングサービスについての考え、さらにはIPOや中国についてまでも答えています。

チャーリー・ローズはアメリカでも著名なインタビュアーであり、特にビジネス界で影響力のある経営者や起業家の多くがこれまで彼の番組に出演しインタビューを受けています。ことし3月にはソフトバングの孫正義CEOも登場しています。

去年、今年になってダニエル・エクCEOがメディアに露出する回数が増えてきましたが、チャーリー・ローズほど長時間インタビューに出ることはおそらく今回が初めてになります。またこれは、一般的なメディアからも音楽ストリーミングとSpotifyに注目と関心が高まってきている証拠でしょう。日本でもSpotifyが注目を集めているように聴かれますが、実際には一部の音楽界隈やテクノロジー業界で騒がれているだけで、一般的な認知はまだまだ低いままです。日本での開始が噂されるSpotifyですが、本当の意味で開始するためには、音楽業界でもりあがるだけでなく、より幅広い層に訴えかけるPRが必要になっていくでしょう。

今回はインタビューから気になる点を抜き出し抄訳でご紹介します。Spotifyがどのようなサービスでどこに向かっているのか、そして何が他社と違うのかが、少しでも見えてくれば嬉しいです。

●音楽業界はかつて450億ドルの価値があった。今はおそらく150億ドルほどでしょう。10年前と比べて約1/3のサイズになってしまった。

●僕の場合、音楽への情熱と、テクノロジーを融合させることに興味がありました。

Q. Spotifyとは何ですか?

Spotifyは世界の音楽を持ち寄り、いつでもどこでもどんなデバイスでも聴けるようにしてくれます。

Spotifyは2つの領域でのイノベーションです。1つは製品サイド。もう1つはビジネスサイドです。

Spotify以前は皆がサブスクリプション・ビジネスのコンセプトを語るだけで、消費者目線で考えたことはなかった。これがビジネス観点でのイノベーションです。なぜなら昔は海賊サイトが猛威を振るっていたけれど、それに対抗するアーティストと音楽業界のためのビジネスモデルが存在していなかったからです。

僕たちには2つの課題を解決する必要があった。1つは海賊サイトよりも良い製品を作ること。2つ目はミュージシャンや音楽業界が恩恵を受けられるビジネスモデルを作ることでした。

Spotifyの核はフリーミアムモデルです。このモデルは議論の的にもなっています。なぜなら僕らはみんなに「音楽にフリーでアクセスできますよー」といっているようなものだからです。ですが私たちは人々は音楽を聴きはじめるともっと聴きたくなる衝動に駆られ、そうなった時に広告を消したりオフラインでアクセスができるようにするなど追加のメリットが欲しくなると信じていました。

Q. あなたはiTunesキラーですか?

僕はそんなふうにSpotifyを見ていません。海賊サイトキラーにはなりたいですね。

Q. なぜダウンロードの代わりに、毎月10ドルを音楽サービスに支払うべきなのでしょうか?

僕たちのモデルのほうが、iTunesよりも良いモデルだと思います。僕の母国スウェーデンを見ると、音楽業界全体の70%がSpotifyからの売上で成り立っています。しかし一方ではスウェーデンにもまだiTunesは存在し、重要な収益源の1つです。

音楽業界の未来では、もっとお金を音楽に払いたい人が増えると思います。Spotifyのようなサービスでは、人は音楽を今以上に聴くようになります。そこから人は音楽に対して愛情が膨らみ、ライブに行ったり、バックカタログを聴いたり、アナログレコードを集めたり、本当に好きだったらダウンロードするでしょう。これはとても明るい未来です。

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Q. ストリーミングは将来主役になりますか?

そう思います。現時点でも音楽だけでなく映像もストリーミング配信されています。ニュースに至っても、部分的に動画配信され始めていますよね。

将来はストリーミングの時代だと思っています。ネットワーク環境とスマホの普及率がよくなればね。

多くの人は理解していないけれど、Spotifyが実現する裏では何千時間もエンジニアリングに時間が割かれています。例えばクラウドから音楽を配信するために、200000分の1秒のディレイを発生させないようにしたり、「音楽レコメンデーション」を最適化したり。これは非常に大きな課題です。

Q. フォーブス誌はかつて「ダニエル・エクはサウンドトラックを提供したい」と書きました。サウンドトラックとは?

サウンドトラックというのは、人生のサウンドトラックだと思います。スマートフォンやInternet of Things (IOT)などでネットが身近なものになるなら、そしてもし音楽で朝の寝起きが10%でも気分のいいものになるなら、そのシーンに合ったパーフェクトな曲を聴きたくないですか?僕はもしパーフェクトな音楽を提供できれば、それぞれ個人のパーソナルな瞬間がより良くなると信じています。

Q. 10年後にはSpotifyをどうしたいですか?

僕はインターネットをまず「ユティリティ」として考えます。検索も以前はユティリティをベースにして成り立っていました。しかし今では検索は「パーソナル・アシスタント」になり始めました。僕はこれを「ユティリティから体験への変化」と読んでいます。

Spotifyの場合、僕たちは音楽を再生するユティリティとして始まりました。そして今Spotifyは人の全ての瞬間の体験になりつつあります。

将来のことを考えると、この技術的進化を、音楽を聴くことだけでなく、音楽を作ることにさえ拡張させたいと思っています。なぜなら音楽は長年決まった形式によって制限されてきました。例えば60分テープや80分CDなどがそうです。ですがインターネットは、オーディオでもありビジュアルでもありインタラクティブでもあります。もし僕たちがミュージシャンがよりクリエイティブになれるプラットフォームを提供できるなら、そして人にとって音楽とは何かを変えられるなら、それはぼくにとっては至高の探求ですね。

Q. Sprintとの提携、Echo Nest買収などからSpotifyはIPOするのではという噂もありますが?

時間を使って考えていることではありません。誤解のないように言っておくけど、僕たちにも投資家がいます。だから可能性を除外はしません。ですが、今僕たちは現在のポジションからさらにインパクトのあることをどうやったら起こせるかを考えています。

僕にとってはマーケットシェアを拡大するのではなく、マーケットそのものを拡大させたいと思っています。

Q. Spotifyのビジネスモデルには売上もあれば出費もあり、その中の多くはレコード会社との契約ですよね。Netflixが登場した当初は彼らにとって有利な契約が結べましたが、徐々に競合も増えて交渉が難しくなりました。

Netflixの観点から推測するに、難しくなったでしょうね。私たちのケースで言うと、レコード会社と契約内容を何度も再交渉してきました。2008年にローンチした後、2011年にはアメリカに参入しました。2013年には20数カ国から56カ国まで市場を拡大しました。ですので私たちの場合、音楽業界からの支援を受けています。そしてレコード会社との交渉の席でも、テーマが「このサービスは我々にとって収益を上げてくれるのか?」から、「どうすればもっと迅速に成長できるよう支援できるのか?」に変わってきています。

Q. この姿勢にはレコード会社そしてアーティストも同意権ですか?

大部分はレコード会社からです。ですが私たちは常にアーティストとも「どうすればもっと作品のプロモーションができるか?」「どうやってメッセージや活動をリスナーに伝えていけるのか」など議論を交わしています。

Q. 大手企業なら、この領域に参入することは簡単だと思いますか? これらの企業に心配していませんか?

アマゾンもグーグルもすでに同じような音楽サービスを提供しています。ですがDropboxを例えに考えてみると、どんな競合が存在してもDropboxは今でも成長を続けています。

この状況は、メディアが騒ぐほど自滅を招く状況ではありません。ユーザーは本当に使いたいと思うブランドに引き寄せられると思います。私たちの強みは、「音楽」に注力していることであって、何十個も製品を開発している企業ではありません。私たちがユーザーに伝えたいことは明確です。

Q. これらの企業はお金を持っています。アップルは底知れない現金を持っています。グーグルも同じです。もしアップルが「買収したいです」と連絡があれば、あなたは「ノー」といいますか?「詳しく聴かせて」といいますか?「いくら?」と聞きますか?

もう一度言うけれど、僕のモチベーションはお金じゃありません。

Q. アップルとSpotifyは自然の組み合わせだと思いますか?

わかりませんね。アップルの人達を詳しく知らないから答えられないし。

でも僕たちの観点からすると、僕たちは世界の人がどうすればもっと音楽を聴けるか、そのことに関心があるんです。それが私たちの唯一のゴールです。

もしより良いサウンドトラックがあれば、もっといい体験ができたと思ったことは誰もがありますよね? 僕たちはどうしたら人々により大きな影響を与えることができるのかについていつも考えています。これは金持ちを目指すゲームではありません。ユーザーを満足させ、より多くの音楽を提供することに注力しています。

Q. 2000万曲が聴けるって?

国によってことなりますが、例えばアメリカでは2000万曲以上あります。そして、毎日10,000曲の割合で増えていっています。

Q. 中国は視野に入れていますか?

中国は関心の高い市場です。ですが著作権問題やローカル市場を理解するとなると、非常に難しい市場でもあります。僕たちは様子見アプローチを取っていますが、将来的には、ね。僕たちは世界中全ての市場に参入したい

ソース
Charlie Rose


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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