世界的に急成長する定額制音楽ストリーミングサービスの波は、ロシアにまでも広がっています。
ロシアに拠点を置く定額制音楽ストリーミングサービス「Zvooq」(ズヴーク)が、2000万ドル(約20億ドル)の資金を新規調達しました。
ロシアの音楽業界で深刻な問題となっているのは、違法ダウンロードです。この行為によって、YandexやTraav、iTunesやDeezerなど合法音楽サービスらはダメージを受けています。
ロシアの2013年における音楽ビジネスの売上は約6,100万ドル(約634億円)でしたが、音楽業界団体IFPIによれば、ロシア人がデジタルサービスに費やす平均額は一人当たり0.5セントと非常に低く、海賊行為の問題をクリアできれば、さらに市場が拡大する可能性を秘めています。
ロシア語で「音」を意味する Zvooqは、Spotifyらの定額制音楽ストリーミングサービスと異なるアプローチを始めています。
2010年に開始したZvooqでは、サブスクリプションでの聴き放題、音源ダウンロード、キュレーション型プレイリストを用意し、5万組以上のアーティスト、2万5000以上のレーベルの1500万曲を配信しています。
Zvooqのユニークな点は、ロシアを中心に西側の音楽サービスがまだ定着していないウクライナなど旧ソビエト連邦9カ国でサービスを運営しているところです。DeezerやiTunesはすでにロシアで開始していますが、Spotifyはこれからの参入を目指しています。
Zvooqの定額プランでは、月額33ルーブル (0.91ドル)、66ルーブル (1.82ドル)の有料プランを提供し、それぞれのプランで一日3アルバムと7アルバムまでの聴き放題を可能にしています。Spotifyなどの無制限での聴き放題とは異なるアプローチで、違法ダウンロードを行うユーザーを合法サービスに誘導し会員へと変えていく計画です。
またZvooqは地の利を生かし(拠点はモスクワ)、モバイルキャリアやSNS、ハードウェア・メーカーとも連携して合法的な音楽サービスを提供することが可
Zvooqにはフィンランドの投資会社Essedel Capital、ロシアのECサイトUlmartが資金を提供しました。
ロシアでは現在違法ダウンロード撲滅に向けて、新しい法案を可決し、コンテンツビジネスの合法化の整備を急いでいます。3月には著作権のある全ての作品を保護する著作権侵害対策法案を議会が可決、また8月にはユニバーサルミュージック、ソニーミュージック、ワーナーミュージックの大手レコード会社が、ロシア最大のSNS「VKontakte」を著作権を侵害しているとして起訴しました。
海賊行為はヨーロッパや北米、南米、アジアでコンテンツ市場に大きな被害を及ぼしており、この問題を解決することが、音楽産業をはじめエンターテイメント市場の新しいビジネス機会へとつながります。合法サービスを開始し定着させることは、その市場に存在している違法ダウンロード者を合法かつ安全な方法によるコンテンツ消費へ転換させるだけでなく、アーティストやレーベル、権利関係者にサービスの収益を分配し、海賊行為により失われてきた収益源を取り戻すことも可能になり、ユーザーエクスペリエンス面でもビジネス面でもメリットを発揮できます。
海賊行為との戦いは短期的には終わりません。しかし合法サービスと音楽業界が連携していくことで、市場を変えていくことができます。Spotifyなど定額制音楽サービスは「聴き放題」「無料」などが注目されがちですが、健全な音楽市場を構築する「プラットフォーム」としても大きく貢献している点も、もっと注目されるべきではないでしょうか。
ソース
Russian Streaming Music Service Zvooq Closes $20 Million Series A (8/19 TechCrunch)