ニューヨークでは現在、コミュニケーション業界向けカンファレンス「Advertising Week」が開催されています。Advertising Weekは9月29〜10月3日の期間中に、世界中の広告業界、デジタルマーケティング業界、メディア、ブランドのインフルエンサーが集まり、現在のトレンドやビジネスの未来について隔て無く議論する1週間のイベントです。
スピーカーの一部。カンファレンスの模様はライブ配信で見れます
Yahoo!やFacebook、Googleなど大手企業を初め、有力なコミュニケーション企業が数多く集まる中、音楽マーケティングについてのセッションも複数開催されており、企業やエージェンシーのエンターテインメントへの注目の高さが伺えます。
音楽サービスのセッション
カンファレンス期間中に最も注目を集めそうなセッションは、9月30日にネットラジオで全米最大の「Pandora」創業者ティム・ウェスターグレンが、グラミー賞アーティストのナイル・ロジャースを招き開催する「Transforming The Future Of Music」(音楽の未来を変える)と題したトークセッションです。
PandoraはAdvertising Week期間中に最もアクティブな音楽サービスで、合計6つのトークセッションやパネルディスカッションに幹部が参加しています。音楽サービスとして登録ユーザー数2億人以上、アクティブユーザー数7500万人以上を誇るPandoraにとって最大の収益源は広告収入であるため、広告業界やブランドへプレゼンスを発揮しています。
また音楽ストリーミングサービスの最大手「Spotify」もこのカンファレンスに参加しています。Spotifyでグローバル・ビジネス開発担当のJorge Espinelは「Media Partnerships of the Future」というパネルで、メディアの展望と将来について、セカンドスクリーンやOTT、テレビや広告体験の観点から議論します。また「Out of Touch but Still Connected: Today’s Ultramobile Consumers」とウルトラモバイル中心の消費者にリーチするための革新的なオーディオ広告体験について広告販売副社長のBrian Benedikが登壇します。
アーティストとマーケッターのセッション
この他にもアーティストがマーケッターと一緒に登壇し、音楽マーケティングを議論するセッションも開催しています。9月29日には「Engaging Music Fans Through Brands in the Digital Age」(デジタル時代にブランドを通じて音楽ファンとつながる方法)というタイトルでパネルディスカッションが開催され、DJでプロデューサーのA-TRAK、音楽/カルチャー系メディア「FADER」社長のアンディ・コーン、EDMアーティストのマネジメント会社TMWRK ManagementのCEOアンドリュー・マキネスが参加し、ストリーミングやダウンロード、YouTubeの時代において、音楽業界がどのようにしてブランドと連携しアーティスト体験をオフライン・オンラインのファンへ届け、売上やパートナーシップ関係、音楽へのアクセスを向上できるかについて議論しています。
A-TRAKは自身のレーベル「Fools’s Gold Records」を運営し、ダニー・ブラウンやキッド・カディなどを発掘しブレイクさせてきました。またA-TRAKはペプシやアディダスなどブランドのマーケティング・キャンペーンと連携し、最近では自動車ブランド「キャデラック」と組み、音楽を使ったマーケティングで2015ATS Coupeとキャデラックのブランド力向上に貢献してきました。
10月1日にはEDMの有名DJ, Kaskadeが「Video Today: Where Culture for Brands is Born」というYouTubeカルチャーとブランドに焦点を当てたセッションに参加します。
マーケティング業界視点のセッション
また29日には、「The Curtain Rises」(幕が開く)と題して、エンターテインメント業界で影響力の高い大物が集まったパネルディスカッションが開催されました。ゲストには前ライブ・ネイション・エンターテイメントの会長でAMSG Entertainmentの会長兼CEOを務めるアーヴィン・エイゾフ(Irving Azoff)、ニューヨークで有名なアリーナ「マディソン・スクエア・ガーデン」を運営するThe Madison Square Garden Company会長のジェームス・ドーラン(James Dolan)、映画会社ワインスタイン・カンパニーの共同会長ハーヴェイ・ワインスタインが登場し、アーティストやアスリートそしてブランドなど各ステークホルダーが消費者へコンテンツを最大化して届けられるか、エンターテインメントとブランドの未来はどうなっていくかについて語るセッションを開催しています。
10月2日には、音楽をマーケティング側から議論するパネル「Breaking The Sound Barrier」が開催されています。このセッションは、PRエージェンシーKetchumの音楽マーケティング部門Ketchum Soundsの上級副社長Marcus Peterzellをモデレーターに、音楽スポンサーシップ・エージェンシーMAC Presentsの創業者で社長のMarcie Allen、チケット転売サービスSTUBHUB!のシニアマネージャーJessica Erskine、「Absolut」などブランドを運営する酒類メーカー、ペルノ・リカールのPR/イベント/ライフスタイル・マーケティング担当副社長Jeffrey Moranのブランドやブランドを支援する立場から、音楽を使ってビジネスを変えていけるかを議論するセッションです。
この他にも有名な経営者や業界の大物が登場するイベントですので、広告やマーケティングに関心のある方にはオススメです。
EDMのスター、アヴィーチーとラルフローレンのブランドコラボレーション。
企業やブランドが音楽をマーケティングとして活用することは、世界では広く知れ渡っているトレンドですが、今はその範囲がキャンペーンの枠を超えて、総合的なオンライン体験やイベント、インタラクティブまで拡大し、アーティストの世界観を消費者と共感させるマーケティングへ広がりを見せています。このトレンドは日本で一般的なタイアップとは全く異なり、アーティストとそのファンを巻き込み、オンラインやイベント、広告やPR、メディアを連動させた統合的なマーケティング戦略を作り、消費者へ音楽を通じてブランドや商品、企業の価値を共有する戦略から売上やブランド価値向上を目指す動きです。
またEDMアーティストやヒップホップ・アーティストのように、アーティストやレーベルがブランドとコラボレーションして、自らの音楽プロモーションを仕掛けることで企業のマーケティングを最大化するWin-Winの関係を目指すケースも徐々に増えてきており、このトレンドは世界的に今後も拡大していくと予想されます。
1つ気になるのは、このスピーカーの中にレコード会社から誰一人参加していないことですが、いずれこの業界でもマーケティング志向の音楽業界人が必要になってくるでしょう。広告/マーケティング業界も注目する音楽ビジネスは、実現が難しいことが数多くあると思いますが、デジタル時代において情報を届けたくても届けられなかった消費者にもリーチできる手法として音楽を再定義していると言えるはずです。アメリカやヨーロッパだけでなく、日本でもマーケティング的志向の音楽ビジネスの認知が広がり企業やブランドとの戦略的な連携が作れれば、音楽業界も盛り上がるはずと思います。
ソース
Advertising Week