カリフォルニア出身のソウルシンガー、アロー・ブラック(Aloe Blacc)がWiredに寄稿した記事で、音楽ストリーミングサーヴィスとアーティストのロイヤリティ料の関係について語っています。
アロー・ブラックは2013年にEDMアーティストのアヴィーチー(Avicii)の楽曲「Wake Me Up」に作詞とボーカルで参加、結果的に世界的なヒット曲となり、あらゆる音楽サーヴィスで繰り返し再生され多くの人の耳に届けられました。
しかしブラックによれば、巨大なユーザー規模を誇る世界最大のネットラジオPandoraから分配されたロイヤリティ料は、最終的には4000ドル(47万円)以下と少額になったそうです。
世界最大のネットラジオPandoraでは1曲が約100万回再生されてやっとソングライターに90ドルが支払われるのが現状です。自分がボーカルを務め共同で作詞したアヴィーチーの大ヒットシングル「Wake Me Up」は、Spotifyでは過去最高再生された曲で、Pandoraでは史上13番目に再生された曲で、再生回数は1億6800万回を超えています。
しかし、Pandoraからのロイヤリティ料支払いはたったの1万2,359ドルで、これを3人のソングライターと出版会社で分配します。ヒット曲を共同制作したにもかかわらず、世界最大のデジタル音楽サービスから得た報酬は現在のところ4,000ドル以下にすぎません。
ブラックは、新人アーティストの場合、ロイヤリティ料の分配を受け取るかどうかにかかわらず、音楽ストリーミングサーヴィスで配信されることは、何よりも大きなプロモーションになるため、結果的に大きな恩恵を受けると述べます。しかし一方ですでにアーティストとして成功して大きなプロモーションを必要としない場合、音楽ストリーミングサーヴィスからは巨額のロイヤリティ料の分配を期待してしまいますが、その期待に応えるほど大きな支払いを受け取ることは出来ないと語ります。
急変している現代の音楽市場では、人生をかけて作品を生み出すソングライターとしてそしてクリエイターの価値への対価は不明瞭になる一方と言うブラックは、テイラー・スウィフトが全アルバムを定額制音楽配信Spotifyから削除したことに触れ、彼女は曲をストリーミング再生されるのが嫌だったのではなく、作品に見合った報酬を支払ってもらうことを望んだからであり、Spotifyには価値ある作品として扱って欲しかったからだと述べます。そしてこの問題は音楽の未来を考えるプロからファンまですべての人に関わってくる問題だと読者に問いかけています。
世界のチャートで1位を獲得し、マルチ・プラチナ・ディスクを獲得した「Wake Me Up」の場合でこれくらいの低さであれば、その他の曲は一体どんなロイヤリティ料の分配になるのか、アーティストやレーベルなら考えることも嫌になるかもしれません。
またアロー・ブラックの議論は、音楽出版やソングライターを取り巻く音楽からの収益についての法律の正当性を問う意味合いもあります。今回の場合に適応されるアメリカにおける音楽の法律はiTunesが誕生する以前の2001年に改正されたのを最後に大きなアップデートがありません。アーティストの利益を守るためにも、ストリーミング時代に最適化する規制を見直すことも視野の一つにいれなければならないのかもしれません。
これまでアーティストが音楽からの収益を公開することは、ある種タブーとされてきました。しかしアロー・ブラックのように自身がどれだけ音楽サーヴィスから受け取ったか、細かい数字を発表するアーティストのおかげで、これまで見えにくく、今後音楽業界が解決しなければならない課題が見えるようになってきました。Spotifyもまたロイヤリティ料の分配システムやストリーミング再生毎の支払いなどを詳細に紹介した特設サイト「Spotify for Artists」を公開しています。
本来議論しなければいけないことは音楽サーヴィスの是非ではなく、アーティストを支えるための環境作りとリスナーを増やすための取り組みが重要であるはずです。その議論の中にはあまり語られていないソングライターへの分配や、ロイヤリティ徴収のシステムも含まれます。だから自分はアロー・ブラックの行動を支持したいです。声を上げるアーティストが増えれば、これまで見えにくかった部分を可視化されて、より良い解決法を導き出せる気がします。音楽ストリーミングサーヴィスが市場に一つ登場したからといって、音楽ビジネスの問題全てが解決できるわけではありませんので。
ソース
Aloe Blacc: Streaming Services Need to Pay Songwriters Fairly (11/5 WIRED)