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熱狂的なファンに支えられ長年様々な形で活動を続けてきたアメリカのジャムバンド、グレイトフル・デッドがバンド最後のコンサートを今週末シカゴで開催します。

7月3、4、5日(現地時間)、NFLのシカゴ・ベアーズの本拠地であるフットボールスタジアム「ソルジャー・フィールド」で開催する3時間のライブは、バンドの50周年を記念する「Fare Thee well」ツアーであると同時に、ジェリー・ガルシア死去20年という節目のライブでもあります。6月末にサンタ・クララで開催された2回の追加公演ライブと合わせて、今回のツアーはCNNやABC、タイムやニューヨーク・タイムズなど大手メディアまでカバーするほどで、アメリカ国内だけでなく、世界中のDeadheads(バンドの熱狂的ファン)から高い注目を集めています。

当然のことながら全てのライブは数分以内に完売。シカゴ3日、サンタ・クララ2日のライブは、それぞれ21万枚、13万枚が購入されました。

グレイトフル・デッドはこのライブ体験をチケットを購入できなかったファンとも共有しようとさまざまな取り組みを用意し、ストリーミング配信、衛星ラジオ、ケーブルテレビなどを巻き込みながら「ライブ」をコンテンツとした音楽マーケティングを実施しています。

決して最新のテクノロジーを使っている訳ではないこのバンドが、日本の音楽産業、コンテンツ産業にもヒントになるのではないでしょうか?

これらの取り組みには、日本からでも参加ができます。グレイトフル・デッドのファンの方で最後のライブを楽しみたい人は下のオプションからどうぞ。

「有料配信」からのマネタイゼーション

http://www.dead50.net/watch-listen/

まずバンドの公式サイトに行くと、ライブのストリーミング配信を公式サイト上で販売しています。終わってしまいましたがサンタ・クララのライブは1日分が19.95ドル、シカゴのライブは1日分が29.95ドルで購入ができます。こちらの配信には、メジャーリーグ「MLB.com」の配信テクノロジー会社がパートナーとして参加しています。

またライブを5日分全てをまとめて見たいファンは、109.95ドルで動画パッケージを購入できます(通常価格から20ドルお得)。さらにシカゴのライブ3日分をまとめて見たい人には79.95ドルの「ソルジャー・フィールド」パッケージを購入することができます(10ドルお得)。これらのライブは、ストリーミング配信されるほか、30日間はオンデマンドでいつでも見ることが可能。

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Spotifyのグレイトフル・デッドのアーティストページからもストリーミング配信へのリンクが導線として張ってあります。

YouTubeでストリーミング配信

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http://youtube.com/dead50

バンドのYouTubeチャンネルでもライブをストリーミング配信します。価格は上記と同じ。iPhone、Android、Apple TV、Chromecast、Xbox、PS4/3などでも視聴可能。ですがYouTubeの場合は、ライブのストリーミング配信のみ。アーカイブを見たい場合は、バンドのサイトでストリーミングをお楽しみ下さい。

さらにアメリカで人気の衛星ラジオプラットフォームSirius XMでもライブの模様をストリーミング配信します。

アメリカ、カナダ、イギリスのファン向けには、映画館でもライブをストリーミング中継が決定。またアメリカではケーブルテレビでPay-Per-View放送も決定しています。

一度のみの有料配信(Pay-Per-View)は、昔からアメリカではボクシングのヘビー級マッチなどを放送する時に使われる仕組みです。また最近はNBAのファイナルなどスポーツイベントではデジタル配信のパッケージ販売も行われています。これらの有料配信は、注目度の高いコンテンツやファンが多いイベントであればあるほど売上も大きくなります。

今回グレイトフル・デッドも、「最終ライブ」というコンテンツを軸に、ライブの有料配信というツールを使ってマネタイズの方法を実践しています。誰もがアクセスできる公式サイトやYouTubeなど複数のプラットフォームを用意することで、会場に行けないファンがそれぞれが好きな環境から気軽にアクセスできる提供していることも、当然と思われがちですが、音楽配信に関しては権利などの問題によって、複数のプラットフォームで配信を行うことは今でも難しく、なかなか実現されていません。

ここでのカギは「有料配信」です。近年音楽フェスティバルなどは無料配信を積極的に行い、世界中のファンにフェス体験を届けることによって、フェスのブランド価値を高める結果となっています。グレイトフル・デッドの場合、決して無料配信することなく(テープ録音は今でも存在する模様)、お金を払ってでも見たいファンに向けたライブ配信であるために有料配信を行い、その替りに価格帯を増やしたり、プラットフォームを複数用意するなど、ファンが見たい環境に沿ったオプションを提供することが重要になっています。

すでにライブ音源も発売

音楽メディアBillboardは、グレイトフル・デッドは今回のツアーでチケットだけで5000万ドルを売り上げたと推定しています(チケットだけなので、グッズ販売、ストリーミングは除く)。ですがバンドはその他のコンテンツ販売でもマネタイズしています。ライブがまだ終わってもいないにも関わらず、グレイトフル・デッドはすでに50周年記念ライブの音源を公式サイト上で発売開始しています。

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例えば最終日5日のライブの音源はCD4枚組/DVD2枚がセットの54.98ドル、またはCD4枚組/Blu-ray2枚の59.98ドルで発売。

また3-5日のベスト盤は19.98ドル。3日全ての音源が入った「コンプリート・ボックスセット」はCD12枚組/DVD7枚組で174.98ドル。またはCD12枚/Blu-ray7枚で189.98ドル。ボックスセットは数量限定で公式サイトでしか販売しないようになっています。

これもライブへの期待や感動、熱狂が最大化している勢いを止めることなく、体験をアーカイブしたいと願うロイヤルなファンに対するファンサービスとも言えるマーケティングです。数カ月後に音源が発売(予約開始)されるのでは、ライブの熱気はすでに去ってしまい、コンテンツに対する共感も薄れてしまうでしょう。

デジタル音楽時代にアーティストができるマーケティング活動は、ファンとアーティストが近づくユニークな機会の選択肢を増やすことが重要だと感じます。特にテクノロジーを使うことで、ライブに参加できない場所にいるファン、リアルタイムで参加したいファン、スマホで見たいファンなどさまざまなファンをつなぐことができます。

テイラー・スウィフトが、アーティストに対価を支払う課題を音楽ストリーミングサービスと音楽業界に突きつけました。無料に背を向けたテイラーに対して、グレイトフル・デッドは以前と同様にフリーの文化には寛大で、Spotifyでも音源を配信しています。

その代わりにグレイトフル・デッドはお金を払いたくなるコンテンツや体験への直接的なつながりを配信や音源販売、アーカイブ活用といった方法を自らが実現し、マネタイゼーションで成功を収めています。決して全てが新しいテクノロジーを採用しているわけではありません。しかしこのバンドは時代とともに新たなテクノロジーやモデルを受け入れてきており、2015年になってもその考え方は変わっていません。これが50年前に誕生したバンドの考えかと思うと、時代に取り残されていくのがもったいないと思えるほど柔軟思考。いつの時代のファンに対して、最大価値を提供するためのテクノロジーの活用、マーケティングの実施で結果的に強いファンとのつながりを作って成功してきた方法は、とても現実的で本質的と言っていいと思います。

テイラーの発言で巻き起こったアーティストの収益性の課題から見た場合、全く違うアプローチをとりながら、ファンとの関係を構築して増幅させ、ロイヤルファン化させている点は興味深く感じます。音楽活動においてテクノロジーも収益モデルも時代に合わせて変化させるグレイトフル・デッドの活動は、まだファンにユニークな音楽体験を提供できる可能性を秘めた日本市場において、ヒントになるのではないでしょうか?

テクノロジーが変化すれば、収益化モデルも変化します。その変化が与える影響を見定めながら、サービスとアーティストは変化しながら、マネタイズできる最適なモデルを見つける必要があります。世界中のアーティストには、業界の形式に縛られた活動を行うのではなく、音楽テクノロジーの活用とマーケティングを積極的に実践する機会が増えてくれることに期待したいですね。

ソース
グレイトフル・デッド
Grateful Dead’s 50th anniversary concerts are generating big money(Fortune)
Grateful Dead Fare Thee Well Debuts: Concert Review Grateful Dead Fare Thee Well Arrives & Thrives with Trey Anastasio on the Side(Billboard)


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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