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ヒップホップスターが起業家として活躍するヒップホップスターは増えたが、ジェイ・Zほど意欲的な人物は稀有な存在です。中でも、彼が運営権を持つ定額制音楽ストリーミングサービス「TIDAL」は、SpotifyやApple Music、Google Play Musicといったライバルたちと勝負しようと、大胆な考え方とマーケティング、そして若者に人気のアーティストたちの作品を武器に、市場に一石を投じています。

しかし華々しいPRの一方で、TIDALの運営は赤字経営が拡大している内情が明らかになっています。

ウォール・ストリート・ジャーナルがレポートした情報によれば、TIDALを運営するスウェーデンの親会社「Aspiro AB」は2015年度には純損失2億3900万クローネ(約28億1700万円)を計上。これは2014年度の純損失8890万クローネ(約10億4780蔓延)からさらなる増加です。TIDALの収益は4億200万クローネ(約47億3800万円)、前年の3億900万クローネ(約36億4000万円)からは30%増加。
*1クローネ=11.79円換算

Aspiroの収支報告書は、TIDALが2015年にレコード会社や権利団体に支払ったロイヤリティ料は、3億ドルクローネ(約35億円)に上ると報告しています。

しかしノルウェーの経済紙Dagens Naeringslivの分析によれば、未払い延滞金が438,000ドルがあり、さらに約100社のレーベルへの支払いが延滞している状態であると伝えています。

損失をカバーするために短期借入金は1億5800万クローネで、2014年の3470万クローネから大幅に増加しています。Aspiroの取締役は2016年が資金不足だったと分析しつつも「新規の資金調達を実現できると確信できる」と分析しています。

苦戦するTIDALの有料会員戦略

TIDALは月間10ドルの320kbps音質で聴き放題できるプレミアム・プランと、月額20ドルでCD音質の16ビット・44.1kHzFLAC音源で再生できるハイファイ・プランの2オプションがあり、約4000万曲以上と13万以上の動画を広告無しで再生できるサービスです。

しかしながら有料会員の獲得には他社よりも苦戦していることは否めません。Spotifyが4000万人、Apple Musicが1700万人の有料会員を持つ一方で、TIDALはわずか420万人に過ぎないからです。

TIDALが売りにする「独占配信」戦略では、Apple Musicと同様もしくはそれ以上にメディアやしょうひしゃの注目を集めることに成功はしてきました。今年前半だけでもビヨンセの「Lemoade」、カニエ・ウェストの「The Life of Pablo」、リアーナの「ANTI」などがTIDAL独占で配信されています。

ただし、これらの作品をプロモーションに使っても、ライバル社に迫る勢いまでサービスを成長させられない悩みが現状です。今年に入って、アップルがTIDALの買収に乗り出すか、という噂が拡がるほどです。

関連記事:アップルにTIDALは必要なのか? Apple Music責任者ジミー・アイオヴィンが否定した買収の噂 | All Digital Music

昨今注目が集まる音楽ストリーミングの世界では、近年RdioやMOG、Beatportなど、大成しないまま終了するストリーミングサービスが後を経ちません。MOGは後のApple Musicとなる「Beats」が買収、破産したRdioの資産は米国のラジオ型ストリーミングサービス「Pandora」が吸収しています。

TIDALの戦いはまだ2年も経過していませんが、急速に市場が変化して、各社はそれぞれより良いサービスを提供するために、改良を続けています。このまま独自の路線を継続するか、リソース切れとなるまえにエグジットを決めるか、現状の規模感のままだと、それほど遠くないにTIDALの今後が見えてくるのではないでしょうか?

TIDALの現状から考えられることとしては、音楽ストリーミングサービスを運営する経営規模が年々巨大企業と同じに進んでいるということが言えますが、これについてはまた別の機会に考えてみたいと思います。

ソース
Jay Z’s Music Streaming Service Tidal Posts Huge Loss in 2015 (Wall Street Journal)
Tidal i økonomisk trøbbel (Dagens Naeringsliv)


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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