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YouTubeと、メジャーレコード会社のワーナーミュージックグループが、グローバルでのライセンス契約の延長で合意したことが、ワーナーミュージック社内向けのメールで明らかになりました。

The Varietyが入手したワーナーミュージックのCEO、スティーブ・クーパー (Steve Cooper)が社員宛に送ったメールによれば、ワーナーミュージックとYouTubeのライセンス契約はレコード音楽事業と音楽出版事業での契約で、ワーナーミュージックとその傘下レーベルがリリースする作品の権利に加えて、音楽出版事業であるワーナー/チャペル・ミュージックが契約する作曲家やアーティストたちの著作権まで網羅します。

ワーナーミュージックは、メジャーレコード会社3社で最も早くYouTubeと2006年9月にライセンス契約を締結しました。YouTubeはその1カ月後にグーグルが当時のレートで16.5億ドルで買収します。

YouTubeとワーナーミュージックのライセンス契約を仕掛けたキーパーソンは、ヒップホップレーベル「デフ・ジャム・レコーディングス」を運営した後、ワーナーミュージックのCEO兼会長に就任したリオ・コーエン (Lyor Cohen)。評価が別れるコーエンは、現在YouTube初の音楽部門グローバル統括職(Global Head of Music)についていることも、レコード会社との契約交渉に影響があることに間違いはないでしょう。

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その後もワーナーミュージックとYouTubeの関係は続きますが、必ずしも順風満帆ではありませんでした。2008年にワーナーミュージックはYouTubeが放置する違法にアップされた音楽コンテンツに抗議する形で、YouTube上からワーナーミュージックのコンテンツを引き上げる強硬手段に出ました。

両社によって契約の見直しが行われた結果、9カ月間のサイレント状態からワーナーミュージックのコンテンツが再公開された歴史があります。

その他のメジャーレコード会社であるユニバーサルミュージックとソニーミュージックは、YouTubeとライセンス契約の協議を進めていますが、まだ更新はされていません。2社の契約交渉が進まない理由の一つは、海外で展開される動画配信サービス「Vevo」との契約が含まれるからです。Vevoは2009年にユニバーサルミュージックとソニーミュージックが立ち上げた合弁会社です。

バリューギャップ問題

国際レコード産業協会(IFPI)が先日発表した、2016年における全世界での音楽業界の実績では、「バリューギャップ」の問題がデータとして昨年よりも深刻化していることが明らかになっています。

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YouTubeとその他のユーザー投稿型サービスは、2016年に音楽コンテンツの権利保有者への支払いは総額5億5300万ドルの支払いが発生しています(ストリーミング再生1曲あたり0.001ドル換算)。

しかし、SpotifyやApple Music、Tidal、Deezerなどオンデマンド型の有料音楽ストリーミングサービスと広告型音楽ストリーミングサービスが、音楽権利者に支払ったロイヤリティ総額は39億ドルとなり、これはユーザー投稿型サービスの7倍以上で、いかに定額制音楽ストリーミングが音楽業界のマネタイズを支えているかが浮かび上がります(ストリーミング再生1曲あたり0.008ドル換算)。

さらに顕著な結果として浮かび上がってきたのは、ユーザー数とライセンス料分配の比率です。オンデマンド型音楽ストリーミングがわずか2億1200万人以上で前述の分配額を達成している一方で、YouTubeなどユーザー投稿型サービスは世界で9億人以上のユーザーを抱えるほど巨大なプラットフォームですが分配総額は劣るのです。

つまりユーザー数の規模、そしてコンテンツの利用時間を、音楽業界へ直接的に還元できていないビジネス的な課題が起きており、音楽業界団体ではこの問題を「バリューギャップ」(価値の乖離)として、2015年から本格的に問題視し、状況の改善をプラットフォーム側に迫っているのが現状です。

つまるところ、コンテンツからの収益化に本腰を入れ始めている昨今の音楽業界では、プロモーションや認知拡大が目的で動画を公開するだけだった状態から、より収益性の高い定額制音楽ストリーミングでのマネタイゼーションを求める動きや、戦略的に併用する手法が目立ってきています。かといってプロモーション効果としての動画コンテンツや、YouTubeのユーザー規模は無視できないことは現在も変わらず、音楽業界にとって、今後この2つの全く異なるプラットフォームとマネタイズ手法に取り組むかが議論の的になりそうです。

ワーナーミュージックが指摘するセーフハーバー問題

スティーブ・クーパーはメールでこれまでと比べて短期契約であることに触れていることから、今回の契約が1-2年で失効することを示唆しています。

私たちは、非常に困難な状況において考えられる最高の内容で契約に達しました。新しい契約はこれまでの契約よりも短期的で、これにより私たちは未来に向けて多くの選択肢を選ぶことができます。
We secured the best possible deals under very difficult circumstances. Our new deals are also shorter than usual, giving us more options in the future.

特にクーパーが強調するのは、YouTubeやその他のユーザー投稿型サービスを保護する「セーフハーバー条項」の存在が、アーティストや作曲家の収益と権利を奪い続けており、レコード会社はこの状況を改善するために戦わなければならないという点です。

参考記事:DMCAのおかげでYouTubeは10億ドルの著作権使用料を回避している? – P2Pとかその辺のお話R

音楽業界においてレコード会社と一部のアーティストたちは、YouTubeがセーフハーバー条項によってコンテンツの違法投稿や悪用に対して法的責任から保護されているため、違法コンテンツを野放し状態でYouTube上に放置しているという指摘を幾度となく行ってきました。現状によって、アーティストや作曲家、レコード会社など音楽産業が本来得られる利益が大きく損なわれているとするこの問題をクーパーは再度強調します。

YouTubeはどのストリーミングサービスよりも多くのユーザーを抱えています。これはクリエイティブコミュニティにとって巨大なチャンスであり、私たちは期待を寄せています。しかし今回の交渉で私たちは、米国およびEU著作権法が定める「セーフハーバー」を明確にさせる必要があると確固たる確証に変わりました。それが、YouTubeが得る利益と、作曲家やアーティスト、音楽出版社やレーベルが受け取る分配料の格差を縮める、唯一の方法です。
YouTube has a bigger audience than any other streaming service, which presents huge opportunities for the creative community, and we’re always hopeful about the future. But our experiences during these negotiations were proof positive of the acute need to clarify ‘safe harbor’ provisions under US and EU copyright legislation. That’s the only way to conclusively close the gap between the revenue YouTube generates and what songwriters, artists, publishers and labels make in return.

YouTubeも対策として「コンテンツID」のソリューションをコンテンツ側に提供し、あらゆる規模のクリエイターやコンテンツホルダーが違法アップロードやコンテンツの悪用を防止し、広告の表示から広告料の一部を受け取るためのコンテンツ管理プログラムを長年展開し、YouTubeからのマネタイズ支援を図っています。それでも現状では、コンテンツの著作権を全てモニタリングする術は皆無に等しく、昨年から続く音楽業界と、YouTube(とグーグル)の収益分配に関する議論は深まっていくと見られます。

参考:YouTube Content ID の仕組み

ソース
Warner Music Extends Deal With YouTube (Variety)


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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