イギリスのチケット販売サービス大手See Ticketsは、同社が運営する額面価格でチケット転売ができるサービス「Fan-to-Fan」で5万枚のチケットが2019年に取引されたことを発表した。Fan-to-Fanで2018年に取引されたチケットは2万5000枚、12カ月で2倍の速度で利用が増加した。
Fan-to-Fanは2017年に、イギリス国内で初めてファン同士がチケットを額面価格で売り買いできる、統合型チケット転売プラットフォームとして始まった。
ユーザーはSee Ticketsで購入したチケットを購入価格またはそれ以下の価格を設定して販売できる。購入価格以上に売値を設定して利益を得ることはできない。See Ticketsはチケットの販売手数料として販売価格の10%を加える。プラットフォームの利用にフィーは発生しない。
ユーザー間の送金手続きはSee Ticketsが管理する。
チケットが購入された場合、売り手にはライブイベント後5日間内に送金が行われる。イベント終了後に金額が支払う仕組みによって、購入者が偽のチケットを買ってしまい、返金できなくなるリスクを無くす。
倫理的なチケット転売の未来
See TicketsはFan-to-Fanを「倫理的チケット転売プラットフォーム」と定義している。
5万枚という数字を少ないと見るかもしれない。しかし、購入価格でチケットを売買したいという人がそれだけいるということは、フェアな価格での転売プラットフォームと、転売を管理するテクノロジーには、今後大きな可能性があると言えるはずだ。
See TicketsのCEOロブ・ウィルムシャースト(Rob Wilmshurst)はFan-to-Fanの実績についてこう語っている。
「私たちは倫理観を重視した完全統合型のチケット転売サイトをイギリスで初めて実現したチケットエージェンシーです。このようなサービスが求められているのは実績が証明しています。買い手と売り手は、お互いが信頼できる公平なチケット転売プラットフォームを望んでいます。私たちの転売サイトでは、チケット購入額と同額でしか転売しません。転売される全てのチケットの信頼性を保証します」
See Ticketsでは2018年だけで2000万枚以上のチケットが購入された。同社のクライアントで有名なのは、グラストンベリー・フェスティバルがある。
それ以外にもユニバーサルミュージック・グループ、独立系プロモーターのKilimanjaroやSJM Concerts、One Inch Badge、Communion Musicなどがいる。
違法転売撲滅と透明性向上を同時に進めるチケットサービス
また同社はイギリスに加えて、アメリカ、フランス、カナダなど、海外拠点を15都市に拡大している。
フランスではPitchfork Music Festivalやエッフェルタワーのチケット販売を手掛けている。
アメリカでは2017年に進出して以降、ロサンゼルスとナッシュビルに拠点を増やしており、See Ticketsのプラットフォームを採用した独立系ライブベニューの数は40を超え事業拡大を進めている。
See Ticketsは長年、悪質なチケット転売業社やフェイクチケットを高額で販売する詐欺問題を解決するための取り組みをアーティストやイベントオーガナイザーと共同で打ち出してきた。ライブビジネス業界では、倫理的なチケット転売を実現するという一貫した姿勢を示している企業として知られている。
2019年夏にSee Ticketsは、エド・シーランのツアーチケット違法転売や詐欺行為を防止するため、プロモーターのDHPとKilimanjaroと連係して、購入者のIDに紐づきパーソナライズできる電子チケット・システムを導入した。
違法チケット転売撲滅を目指すエド・シーラン
エド・シーランと彼のマネージャーのスチュワート・キャンプ(Stuart Camp)は、ライブチケットの高額転売を撲滅するための活動を多岐に渡り行ってきたアーティストの代表格だ。彼のチケットサービス会社やプロモーターも彼と協力してチケット販売をアップデートしている。
2019年夏のツアーではSee TicketsやTicketmaster UK、AXS、Giganticなど公式チケットサービスはいずれも本人認証式の電子チケット・システムを導入しチケットを販売し、紙チケットを完全に廃止した。
エド・シーランと彼のマネージャーが悪質なチケット転売を批難し始めた背景にあるのが、StubhubやViagogo、Seatwaveなど高額転売を容認し防止策を実施しない転売サービスの存在だ。
不正な取引や高額転売、ダフ屋行為を見逃し続けるだけでなく、購入者に安全な取引を謳った誇大広告や嘘の免責条項を使うなど、消費者に対する転売の仕組みの透明性確保にも問題があり、アーティストやプロモーターから批難の対象となっている。
こうした状況において近年、イギリスで活用が増えているのが額面価格(フェイスバリュー)のチケット転売プラットフォームだ。
イギリスでは、額面価格のチケット転売のキッカケを作った「Twickets」というサービスがある。エド・シーランやアデル、ワン・ダイレクション、マムフォード・アンド・サンズ、フー・ファイターズなど多数のアーティストがTwicketsと連携して、額面価格のチケット転売をファンに推進してきた。イギリスのチケットサービスでは額面価格のシステムと考え方が今後進むべき方向性として定着し始めている。
See TicketsのFan-to-Fanや、AXS Official Resaleも、購入したチケットをそのままの価格で転売に出すことができる一元化したシステムだ。GiganticやThe Ticket Factoryの転売はTwicketsが公式パートナー企業として手掛けている。
額面価格の転売に移行する流れが強まる中、SeatwaveやGet Me Inなど高額転売を行ってきた企業はサービス停止となり廃業となった。この2サービスを運営していた親会社がチケット販売最大手のTicketmaster UKだったということも問題だが、その後に同社は額面価格の転売サービスに移行している。
日本で再三問題視される高額なチケット転売問題やチケット詐欺問題。2019年6月から「チケット不正転売禁止法」が施行され、違法転売の取締が強化され、チケット流通環境の改善が進んでいる。
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またボット対策や本人認証などに対しても、チケットサービスであるイープラスや、電子チケット「ticket board」を運営するボードウォークやEMTGチケットトレードといったテクノロジー企業も対策を打ち出している。
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しかしながら、嵐やKing&Princeなどジャニーズのコンサートや、ラグビーW杯など需要の高いコンサートやスポーツイベントのチケットが転売目的で「チケットストリート」や「チケット流通センター」といった転売サイトで多数出回り、高額取引が引き続き行われている。またフリマアプリでのチケット転売も多発しているが、こうした行為を未然に防ぐための対策は日本ではまだまだ進んでいないのが現状となっているため、電子チケットの暗号化や本人認証システムといったチケットテクノロジーの公式チケットでの全面的な導入が早急に求められる。
一方で、イベントやライブに行きたい人々が安心してチケットが探せて定価で買える健全な電子チケット・システムの透明性を高めていくことも重要視すべきだ。日本ではまだ、プロモーターやチケットサービス会社同士の協力体制や、ライブビジネス業界が共通したシステムを導入しようとする企業間の動きが不足している。また、アーティストが違法チケット防止のためにファンへコミュニケーションすることも多くないが、連携を強めることで、結果的にチケット購入のプロセスをデジタル化することは、不正防止やチケット販売の売上向上に繋がる。
違法チケット転売撲滅の啓蒙活動が今後も重要で、常に消費者に訴えかけ続けるべきだ。それに加えて、健全なチケット販売の姿勢を持つチケットサービスと、同じ考えを持つアーティストが賛同し合いチケット販売で協力するといった啓蒙活動も今後日本で増えることに期待したい。
Source:
Ethical Ticket Sales Up 50% at See Tickets (See Tickets)
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