U2がアップルの発表会で突如開始した最新アルバム「Songs of Innocence」のフリーダウンロードに、音楽業界は騒然となりました。アップルのティム・クックCEOは「音楽史上、過去最大規模のアルバムリリース」と宣言するほど、世界のiTunesユーザー5億人に向けての大規模なリリースですが、このアルバムがアルバムチャートに載らないことが決定しました。
アメリカの公式チャートを運営するBillboardは、5億コピー分の「Songs of Innocence」を売上チャートのデータとして換算はしないと公式に発表しました。
Billboardのチャート担当副ディレクターのキース・コーフィールド(Keith Caulfield)は、
最新アルバム「Songs of Innocence」のiTunesアカウントホルダーへのフリーダウンロードとBeats Musicのストリーミング配信で世界中を驚かせました。しかし、Billboard 200アルバム・チャートには、1カ月半後まで反映されません
基本的に、アルバムのフリーダウンロードやギブアウェイはBillboardのアルバムチャートに計算されることはなく、また音楽売上データを集計するNielsen SoundScanの売上にも反映されません。
この計算は、2013年にジェイZがサムスンとパートナーシップを組んでアルバム「Magna Carta Holy Graml」をサムスンのスマホユーザー向けにフリーダウンロードで配信した際にも同じ処置が取られました。
また「Songs of Innocence」は、来年のグラミー賞の対象にも該当しません。
今回のアルバムも、10月14日の公式リリースを皮切りに、アルバムチャートの対象として計算されます。今回のアルバムは売上に加えて、ラジオのエアプレイやソーシャル、ストリーミングでの露出も増えると予想され、これまでと同様にチャート上位に上がってくると思われます。10月14日はスタンダード版とデラックス版がデジタルとフィジカル・コピーの両方でリリースされる予定です。
U2はこれまでアメリカのアルバム・チャートで7回1位を獲得しています。2004年の「How to Dismantle an Atomic Bomb」、2009年の「No Line on the Horizon.」も1位を獲得しています。
アップルとのプロモーションの効果
しかし今回のアップルとのプロモーション効果は、最新アルバムの注目だけにとどまりませんでした。Mashableによれば、iTunesトップ200アルバムランキングに9月12日の段階で、U2の過去のアルバム26作品がランクインしたことが明らかになりました。
またU2のシングル18曲が世界46カ国でトップ10入りしたことも判明しました。
U2はアップルの発表会(9月12日)以前は、iTunesチャートに1枚もアルバムはランクインしていませんでした。
U2のマネージャー、ガイ・オセアリー(Guy Oseary)はMashableの取材でアルバムリリースについて
これは破壊的なことであり、過去に前例が無い。今後長い間この手法は研究対象になるだろう。たくさんの人がこのアルバムを聞いてくれたことを嬉しく思う。
とコメントしています。
このアルバムリリースでは、音楽のマーケティングにおいてU2のブランド価値を高められたことが重要な要素だと感じます。その結果が、フリーダウンロードから他のアルバムの購入へとつながった消費者行動です。これは言ってみれば「フリーミアム」と同じだったと言えます。フリーで最新アルバムを提供し、有料でその他のアルバムを購入してもらう。このモデルがアルバムリリースでも可能なことを、今回U2が実証してくれたと言えるのではないでしょうか。
ソース
U2’s free downloads won’t qualify for Billboard album charts, Grammys (9/10 Los Angeles Times)
26 U2 Albums Hit iTunes Top Albums Chart at Once After Apple Stunt (9/12 Mashable)