定額制音楽配信は、CDやダウンロードのビジネスが低下する現代において、今後の市場を支える新たな収益源として大きな期待と注目が集まっています。しかし、サービスを提供する企業が十分な運営体制と資金力を確保できなければ、サービスそのものを永続させることも難しくなってしまいます。
フランスに拠点を億定額制音楽配信の「Deezer」は10月半ばに、パリの証券取引所に上場(IPO)し、最低3億ユーロ(約400億円)を調達するプランを発表しました。しかし、10月終わりになってDeezerはプランを180度撤回し、IPOを無期限で延期するとウォール・ストリート・ジャーナルに告げました。
Deezerが予定通りIPOを行えば、定額制音楽配信サービスのIPOとしてだけでなく、音楽サービスのIPOとしても米国のパーソナルラジオ「Pandora」が2011年にIPOして以来最も注目を集めるはずでした。
フランスの定額制音楽配信「Deezer」が年内にIPOへ。SpotifyやApple Musicに対抗、展開国数は世界最大
IPO中止の理由としてDeezerはコンテンツプラットフォーム企業の業績が芳しくないことを挙げています。Deezerのライバル企業でもある、パーソナルラジオのPandoraはApple Musicの開始の影響でリスナー数と視聴時間が伸び悩んだことをQ3決算で明らかにしています。
またAppleは10月に入り、7月からの3カ月無料トライアルが終了した結果、世界100カ国以上でユーザー数1500万人、有料会員650万人を獲得したことからも、新規ユーザー獲得競争が今後さらに激化する傾向にあることを音楽業界は見据えています。
今回DeezerはIPO申請書類を提出したために、これまで非公開にしてきた同社の内情が他社へ伝わってしまう不利な立場にも直面しています。Deezerのユーザー層を見ると、2015年6月までに獲得した月額料金を支払う有料会員数は634万人で、これはApple Musicの数値はもちろん、定額制音楽配信の領域をリードするSpotifyの2000万人以上には遠く及ばない数字で、これは投資家を残念がらせる要素の一つとなりました。
さらにDeezerの634万人の内334万人は、アカウントを持ち月額料金を払っているがサービスを利用していない、非アクティブな有料会員に分類されていることが分かりました。
Deezerの売上は2012年は6360万ユーロ、2013年は9280万ユーロ、2014年は1億4190万ユーロと年々増加しています。しかし業績は2012年は純損失2880万ユーロ、2013年は純損失2210万ユーロ、2014年も純損失2720万ユーロと赤字経営が続き、事態の打開は見えていないこともまた、投資家のDeezerに対する将来性を疑う結果が見えてきました。
DeezerのIPO申請書類は定額制音楽配信がどのように運営しているのか、現状が知りたい人は参考になると思いますので、一目ご覧ください。
今回のDeezerの決断は(+Pandoraの決算)、定額制音楽配信や音楽サービスビジネスの将来性に不安を投げかける決断と捉えかねるので、今後投資家や提携するビジネスに悪影響を与えないか、気になります。Deezerに今後残された道は、IPOをいずれ実施するか、非公開企業として投資家から資金を調達しつつ市場が好転する機会を待つか、に迫られています。アップルやグーグルが定額制音楽配信に積極的な動きを見せ始め、競争相手のSpotifyもユーザーを増やし続けているところで、Deezerが他社を上回る優位性と収益性を作り出せるか、ユーザーだけでなく投資家も懸念するところではないかと思います。
Deezerには、ワーナーミュージック・グループの親会社Access Industries、Idinvest Partners、フランスのモバイルキャリアOrange、そして大手レコード会社のユニバーサル・ミュージック・グループやワーナーミュージックが投資をしています。
ソース
Music streaming service Deezer abandons IPO plans(The Guardian)
Music streaming service Deezer abandons IPO(FT.com)