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アップルの定額制音楽ストリーミングサービス「Apple Music」が、また人気のコンテンツを独占配信することが決定しました。

かつてはアップルのやり方をも批判して、その後関係を修復したテイラー・スウィフトが、先日終了したばかりの世界ツアー「1989 World Tour」の模様を捉えたドキュメンタリービデオをApple Musicで12月20日に独占公開することを、テイラー自身のSNSで発表しました(Facebookの投稿はこちらから)。

ライブツアーの様子やこれまで公開されていない舞台裏の様子、リハーサルの模様を捉えた「The 1989 World Tour LIVE」はApple Musicの有料会員(または3カ月のトライアル会員)のみが視聴でき、iPhoneやiPad、Mac、Apple TVからアクセスができます。監督は今年のグラミー賞にもノミネートされた、ジェイ・Zとビヨンセのジョイントツアーのドキュメンタリー「On the Run Tour: Beyoncé and Jay Z」を制作したJonas Akerlund。

12月13日はテイラー・スウィフト26歳の誕生日。ファンとのコミュニケーションに積極的な彼女からのサプライズギフトが音楽ストリーミングサービスで届けられた形になりました。

テイラー・スウィフトはドキュメンタリーのプロモーションで、アメリカ時間14日にApple Musicの24時間ラジオ局「Beats 1」に出演、Beats 1のメインDJ、ゼイン・ロウ(Zane Lowe)による単独インタビューがオンエアされます。

「独占」=エクスクルーシブ感も、ひとえにサービス上でただ配信するよりは、DJのようなガイドや盛り上げ役が存在していたほうが、「もう少しで来るぞ」のワクワク感が増してくることがBeats 1が始まってから改めて感じた個人的な音楽の楽しみ方で、できればBeats 1の日本語バージョンが実現してくれれば、日本の音楽も面白くなるのではと密かに期待しています。

CDやデジタルダウンロードが低迷する中、世界中で注目され利用者が広がる定額制音楽ストリーミングにアップルが進出し、SpotifyやDeezerなど先行するスタートアップを追い越すために始めたサービスがApple Musicです。

Apple Musicは今年6月に始まった月額課金の音楽ストリーミングサービスで、この分野では後発になりますが、有名アーティストたちの作品を独占で先行公開するコンテンツ戦略を数多く実施して、リスナーにApple Musicを使う楽しさをアピールしています。

特にテイラー・スウィフトは、Spotifyなど定額制音楽ストリーミングでは十分なロイヤリティが分配されないと主張して全ての楽曲カタログをサービスから削除するほど、徹底して音楽ストリーミングに反対するアーティストの1人です。

彼女もApple Music開始直後は、3カ月間の無料トライアル期間に再生された楽曲にロイヤリティがアーティストへ支払われない不公平な条件を指摘するなどアクティブに発言して、アーティストとサービスの関係改善を主張してきました。

アップルはその後、テイラー・スウィフトの申し出に応じ(芝居だったとの噂もありますが)フリートライアル期間でもアーティストや権利関係者にロイヤリティを支払うと方針を180度転換して、結果的にテイラー・スウィフトとのアルバム「1989」配信の合意を取り付けた歴史があります。現在でも「1989」を配信する定額制音楽ストリーミングは、Apple Musicのみとなっています。

「The 1989 World Tour LIVE」の配信をApple Musicがどれくらいの期間独占できるのかは、明らかになっていません。クリスマス直前ということからも、20日の配信と同時に、小売店やオンラインショップでの予約が始まり、数日以内に購入可能になるのかもしれません。いずれにしてもテイラー・スウィフトにとって今回のApple Musicでの独占配信は、コンサートドキュメンタリーの売上を最大化させる短期的なマーケティングツールとして活用することが見込まれます。

また今回のように、ドキュメンタリーやコンサートビデオをアップルのApple Music、またはグーグルのGoogle Play MusicやYouTube Red、さらにはSpotify(が開発中と言われる動画配信サービス)やTidalの中から独占的に配信していく流れは今後も強まると感じます。

音楽をサービスに提供するアーティストが、その楽曲を配信するプラットフォームとパートナーシップを結ぶことは、マスメディアで広告を打つよりも魅力的な話題を作り、多くのファンまでリーチできる可能性があるマーケティング戦略の一つとして活用していくフェーズが始まりつつあるようです。

恐らくビジネスの面でも、巨額のアドバンスをアーティスト側に支払ってでも独占配信を実現させたい大手企業は思うはずで、これはアーティストにとって優位な立場となるでしょう。また定額制音楽ストリーミングの場合、コアな音楽ファンからライトな音楽ファンまで幅広い層に、プレイリストやアプリ内PR、SNS、通知機能などさまざまな手法を使ってリーチができます。これによって、これまで音楽のプロモーションに割いて来たコストも低く抑えられ、適切な客層へのリーチが見込めます。

この定額制音楽ストリーミングを使ったプロモーションは、まだ始まったばかりの段階にあると言え、今後に大きな可能性を残していると考えられます。当然ながら、テイラー・スウィフトのようなコンテンツ力を持ったクリエイターの動向や主張に左右されるところが大きいので、今後このモデルが全てのアーティストに適合するとは断言できません。

ですがテイラー・スウィフトの主張でアップルでさえも動いたという音楽業界の勢力図が塗り替わろうとしている今、アーティストと音楽ストリーミングの関係については黎明期を迎えていると言ってもいいかもしれませんね。来年はこの関係が音楽ストリーミングだけでなく、動画配信プラットフォームやメディアにまで広がるかもと期待したいところです。

ソース
Apple Pays Taylor Swift For 1989 Tour Concert Video Exclusive(Re/code)
The 1989 World Tour LIVE coming to Apple Music(Taylor Swift)


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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