サッカーのイギリス・プレミアリーグの競合チェルシーFCが、アップルが世界展開するオーディオブランド「Beats by Dre」と、クラブ初の公式サウンド・パートナーの契約で合意しました。
「Beats by Dre」は、2014年にアップルが約3000億円で買収した、ヘッドフォンなどのオーディオ機器の開発販売を行うBeats Electronicsのブランドで、カラフルなデザインやハイエンドな価格帯で「高級ヘッドフォン」のトレンドを世界中に生み出しました。
Beats by Dreはまた、サッカー選手を始め、アメフトやプロバスケ、テニス選手などアスリートに、毎日のトレーニングや試合前に集中するためのアイテムとして人気のヘッドフォンとして有名です。
チェルシーのマネージングディレクター、クリスチャン・パースロー(Christian Purslow)はパートナーシップについて次のように説明しています。
今回のイノベーティブなパートナーシップで最も重要な目的な、Beatsの「b」をチェルシーというフットボールクラブの心臓部に据えることで、世界中のファンは最高峰のフットボールの舞台でクラブを代表するために準備をするチェルシーのプレーヤー達をさらに深く知ってもらうことができるでしょう
チェルシーはアディダスやヨコハマタイヤとメインスポンサー契約を結ぶほかにも、EA Sportsとはビデオゲーム・パートナー、Wiproとはデジタル・ITパートナー、Hacketとスタイル・パートナーなどグローバル契約をむすんでいます。日本企業は前出のヨコハマタイヤに加えてORICOがフィナンシャルサービスパートナーとしてスポンサーシップしています。
チェルシーと提携することによってBeats by Dreが得るビジネス的なメリットは、ヨーロッパ市場への進出そして世界的な潜在的消費者の開拓に繋がる可能性があります。特に、各国への放送権ビジネスで市場を世界規模に広げ続けるプレミアリーグで強豪のチェルシーは、アメリカやアジアでも遠征試合を行うほど世界展開を進めるクラブの一つとして、まだBeatsが手を出せていない市場に進出することも期待ができます。フォーブスが発表する「世界で最も市場価値の高いクラブ」の2015年度ランキングで13.7億ドルで6位に入っています。
世界中に放送されるテレビ中継を通じて、視聴者はチェルシー選手が付けるBeats製品を目にすることが増えるはず。また、限定ヘッドフォンなど製品展開も行うことでしょう。またアップルと関係ができれば、定額制音楽配信「Apple Music」とも連携が可能になるはずで、チェルシー選手がキュレーターとなってプレイリストを公開したり、「Beats 1」がチェルシーをフィーチャーするプロモーションが実施されるなど、ヘッドフォン以外でもユニークなマーケティングがどのように展開されるか、注目が高まります。
2014年のブラジルワールドカップ期間でBeats by Dreが公開したプロモーション動画「The Game Before The Game」はネイマールやバスティアン・シュヴァインシュタイガー、ルイス・スアレス、セスク・ファブレガスなど、W杯に参加する強豪国の主力プレーヤーたちが登場して、音楽PVのようなクオリティに仕上がっています。
登場したプレーヤーの中でも、2014年の時点ではバルセロナ所属だったセスク・ファブレガスはその後チェルシーに移籍してきました。
またルイス・スアレス(元リバプール、現在バルセロナ)、ロビン・ファン・ペルシ(元マンチェスター・ユナイテッド、現在フェネルバフチェ)、ハビエル・エルナンデス(元マンチェスター・ユナイテッド、現在レバークーゼン)、ジョジー・アルティドール(元サンダーランド、現在トロントFC)は、元プレミアリーグ所属の選手。ワールドカップでの成績がいつもイマイチなイングランドとは真逆に、プレミアリーグに対するBeatsの思い入れはもしかするとこの時点から始まっていたのかもしれません。
この動画を始め、Beats by Dreのサッカーに関するプロモーションはマーケティングとして大きな成功となって注目を集めました。その理由には、ワールドカップの公式スポンサーはソニーだったため、Beats by Dreの利用をW杯期間中に禁止にするとFIFAが発表したことがあります。
Beats by Dreは公式スポンサーではなかったため、「ワールドカップ」の文字をプロモーションで使うことは出来ませんでした。その一方で、選手たちはホテルからスタジアムへの移動や、試合前などに集中力を高めるためにBeatsのヘッドフォンを付けてメディアの前に現れ、その様子がオンラインやSNSを通じて世界中のサッカーファンに届けられていきました。人気選手が付けるヘッドフォンの組み合わせだけで、Beatsのブランドイメージは増幅して行く結果となったことで、FIFAが処置に乗り出したということです。Beats by Dreは同じように2012年のロンドン五輪でも、有名なアスリートやアメリカ人選手にヘッドフォンを贈って同じ効果を引き出し、五輪スポンサーのパナソニックを出し抜くマーケティング戦略を実施した過去があります。
チェルシーが戦う英国プレミアリーグには、現在オーディオ/テクノロジーの分野でパートナー契約を結ぶ企業はありません。
ただしヨーロッパの舞台となるUEFAチャンピオンズリーグで公式パートナーとなるのは、「ソニー」です。ワールドカップでもBeats by Dreに出し抜かれたソニーなわけですが、果たしてUEFAもチェルシーの選手にチャンピオンズリーグの試合でBeatsヘッドフォンの着用を禁止させるのでしょうか?
ちなみに、現代サッカー最高のプレーヤーの1人、レアル・マドリーのクリスティアーノ・ロナウドは、Beats by Dreのかつてのパートナー企業「Monster」と契約、自身がキュレーションする「ROC Live Life Loud」ブランドの高級ヘッドフォン(小売価格300ドル)を使っています。
ソース
Chelsea partners with Beats(News)
Banned headphones, a World Cup fashion beat(Reuters)