この2年間を振り返ると、ニール・ヤングほど音質にこだわり続けたアーティストはいないかもしれません。
音楽配信に対して、自身の考えを臆することなく主張し続け、SpotifyやApple Musicなど音楽ストリーミングサービスから自身の楽曲カタログを排除するなど、徹底抗戦してきました。しかしながら、その戦いもどうやら終わりに近づいているようです。
Spotify、Apple Music、Deezerなど定額制音楽ストリーミングサービスは一斉にニール・ヤングの過去アルバムの配信を再開しました。
2015年にヤングは次の台詞を残して、音楽配信との決別を宣言します。「私の中で音楽ストリーミングは終わりました。ファンの皆さんには理解してほしい。音質の問題なのです。放送や流通の歴史上、最悪の音質で私の音楽の価値が下がるのは耐えられません」
その後、ニール・ヤングは2016年4月に「TIDAL」でカタログの配信を始めます。TIDALは高音質配信を売りにした定額制音楽ストリーミングで、CD音質での配信が可能です。
今回の配信解禁について、理由や背景はまだ明らかにされていません。
ニール・ヤングの音質へのこだわりは、独自で音楽配信サービス「PonoMusic」を立ち上げるほど、力を入れています。PonoMusicは、クラウドファンディングサービスKickstarterのテクノロジー部門で過去最高の資金額623万ドルを調達して有名となり、期待値も高く始まるも、最近ではサービスの運営に暗雲が立ち込めているようです。
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大物歌手までも配信に参加
昨今で音楽ストリーミングサービスに楽曲を配信し出した大物アーティストは、なにもニール・ヤングだけではありません。
アメリカの音楽史において、売上で最高記録を誇るガース・ブルックスは、先日アマゾンと組み、「Amazon Music Unlimited」で最新リリースやベストアルバムを配信解禁しました。
ガース・ブルックスって誰?と思われる人も多いと思いますが、カントリーミュージックで数々の記録を打ち立ててきたスーパースターがガース・ブルックス。全米レコード協会(RIAA)の記録によれば、彼がこれまでに売り上げた音楽は、実に1億3800万枚で、これはマイケル・ジャクソンやエルヴィス・プレスリーを上回るソロアーティストとして過去最高の記録です。
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ガース・ブルックスもまた、音楽ストリーミングサービスでの配信を長い間拒絶してきた大物アーティストの一人でした。特に彼の場合、SpotifyやApple Musicだけでなく、iTunesなどダウンロードサービスでのダウンロード販売も断るほど、デジタル配信に拒否反応を示していました。
ところが今年に入って、事態が好転し、急遽11月25日から最新アルバム「Gunslinger」をAmazon Music Unlimitedで独占配信する予定です。
ガース・ブルックスが唯一デジタル・ダウンロードで配信したのは、2014年9月に自身が立ち上げた音楽ダウンロードサービス「GhostTunes」のみでした。ですが、現在GhostTunesの将来について、ガース・ブルックスはいずれ自分の楽曲は削除するだろうとBillboardのインタビューで明言しています。
ニール・ヤングの場合も、ガース・ブルックスの場合も共通して言えるのは、アップルやSpotify、グーグルなど大規模なプラットフォームの制限に縛られることなく、自身のこだわりを追求しようと、独自サービスへの投資と開発へと目を向けました。しかしながら、彼らほどの大物アーティストでも結局は自主サービスへの固執から離れ、プラットフォームへ戻る決断を下し、楽曲配信の流れに乗ってきます。「サービスに屈した」「アーティストが心変わりした」と、事情はいくつかあると思います。しかし、ここで問題になるべきことは、「アーティストたちに選択肢は残されているのか」、ということだと思います。
SpotifyやApple Musicが急成長する中で、現在の音楽業界では、PonoMusicのような小規模の音楽サービスがどれだけ成功するか、よりも、果たしてどれくらい生き残れるか、のほうに注目が集まる傾向があります。それだけ、音楽ストリーミングサービスなどプラットフォームの影響力が無視できないほど大きく波及して、ビジネスの一部と認識されているのです。音楽ファンとしては、ニール・ヤングのように独自の哲学を貫いているアーティストたちの存在そのものに魅力を感じるものですが、現実問題としてそうするスタイル自体の大部分も時代と共に過去のものになってきているのでしょう。
一般的な音楽消費者にとっては、複数のサービスを異なるアカウントで利用することが面倒なことに気がついているはずです。アーティストたちは、どこで自身の音楽をどんなフォーマットでリスナーに聴いてもらいたいか、を考える時代に直面しています。特に、フリーで聴かせるべきか、何に対価をしはらうべきかの問題は、アーティストの声を聴き、サービスも交えて議論を続け、リスナーの意識を変えることが重要なのではないかと感じます。
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image: NRK P3 via Flickr