YouTubeはオンラインチケット販売サービス「Eventbrite」と提携を発表した。
YouTubeのビューワーは、動画のページからEventbriteのライブイベントページに飛び、ワンクリックでチケットを購入することができる。対象は、YouTube Official Artist Channelsに登録したアーティストの動画となる。YouTubeで動画を配信すると動画下部に「Tickets」のボタンが表示されている。
2017年11月の約1年前、YouTubeは世界最大のチケット販売会社「Ticketmaster」との提携を発表し、動画と連携したチケット購入機能の提供に着手し始めた。それから1年が経ち、Ticketmasterのライバル企業でもあるEventbriteと提携することで、より多くのアーティストがチケット販売を手がけるための選択肢を増やそうとしている。YouTubeによれば、TicketmasterとEventbriteは米国チケット販売市場でシェア70%以上を占めている。
YouTubeが機能追加を進める背景
YouTubeからの直接的なチケット販売は、アーティストやクリエイター、マネジメントにとって新しい収益源とプロモーションになるはずだ。
特に新人アーティストや無名アーティストにとってライブビジネスは重要な収益源となっている。
TicketmasterやEventbriteへの導線を簡単に設定して、チケット購入を促す背景には、モバイルでの利用拡大が、理由の一つと考えられる。
チケットサービスと連携した「チケット」ボタンを設置できれば、管理者は動画の説明欄にテキストで常に情報をアップデートする手間が減らせることができる。ユーザーも動画の詳細を掘り下げて情報を探すよりも、視認性の高いボタンを押すことで、手軽にチケット情報にたどり着ける。YouTubeのモバイル利用におけるUXの向上が大きなメリットとなるはずだ。
もう一つの背景は、サブスクリプション型音楽ストリーミングサービス「YouTube Music」での価値拡大を訴求し、ユーザー増加を目指す戦略の一環と考えることができる。
YouTubeは今年、新たにサブスクリプション型音楽サービス「YouTube Music」をローンチして、月額制でSpotifyとApple Music、Amazonと競合する音楽ストリーミング市場に本格参入した。YouTube Musicでの楽曲配信は、従来の動画に加え、一般的に配信される楽曲の再生が、広告無しやバックグラウンド再生など、これまでのYouTubeアプリではできなかった設定で実現可能になった。
YouTubeは膨大な無料ユーザーを抱えているが、有料のYouTube MusicはSpotifyやApple Musicから大きく遅れてスタートしたため、無料ユーザーを有料会員にコンバージョンし続けるための、惹きとなるサービス体験が必要だ。
手軽なチケット購入は、好きなアーティストと楽曲視聴を超えた音楽体験へつなげつことができる。しかも今まで以上にハードルを低くしてだ。
さらに、チケット販売をYouTubeが強化する背景からは、Google HomeやGoogle Assistantを使った音声でのチケット購入の可能性も見えてくるはずだ。
すでにTicketmasterは音声でのチケットのレコメンデーションを始めている。チケット業界でも音声AIの活用が望まれる今、YouTube Musicを聴きながら、チケット情報が流れたり、チケット購入ができるのは、時間の問題だ。
YouTubeと世界の音楽業界とは決して良い関係にあるとは言えないのが現状だ。
音楽業界は、著作権を侵害する違法コンテンツなどでアーティストが得られる収益が低くなっている現状を改善しようとしないYouTubeに対して、サブスクリプションと広告型の音楽ストリーミングでの収益の格差を示す「バリューギャップ」問題や、法改正案を突きつけて環境の変化を求めるなど、音楽ストリーミングサービスとしてのビジネス的価値を示すよう強く要求している。
こうした関係を改善するため、YouTubeはアーティストコミュニティやクリエイターに対して動画や楽曲からの収益拡大を実現する手段を実装してきた。
なおYouTubeとEventbriteとが提供するチケット販売は、今は米国のみに限られているが、YouTubeはチケット販売を北米と世界各地のあらゆるサイズのライブ会場に拡大していくと述べている。