日本発の音楽サービス「Qrates」(クレイツ)が、メジャーレーベルの米ワーナーミュージック・グループと提携したことを発表した。今後Qratesはワーナーミュージックが世界展開するアナログレコード専門レーベル「Run Out Groove」のレコード製造および販売を支援する。

Qratesは、オンデマンドでレコードのプレス製造と販売を手がける日本発のグローバルサービスとして、2015年のローンチ以来2000以上のインディーズアーティストによる作品のレコード製造販売を行ってきた。メジャーレコード会社との提携は今回が初めてとなる。

https://qrates.com/

ワーナーミュージックが2017年にローンチしたレーベル「Run Out Groove」は、ファンの人気投票でレコード化を決める、クラウドソース型の音楽ビジネスだ。毎月Run out Grooveでは、過去未発表作品や絶盤、レコード化されていない作品、オリジナルパッケージを付けたコンピレーションアルバムなどをファン投票によって選び、数量限定で米国や世界に向けて販売している。

http://www.runoutgroovevinyl.com/

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QratesのCMOである福山泰史は、協業について次のように答えた 「最小100枚からレコードをプレスして届けられるQratesは、ROGのエクスクルーシブな作品にとってベストなパートナーになるでしょう。またレコードの音質のみならず私たちのサービスが提供する10万を超えるバリエーションから選択可能なレコード盤のカラーデザインはROGのレコードをこれからもユニークなものにし続けると考えています」

ワーナーミュージック・グループでセールス&マネージメント本部長を務める、ビリー・フィールズ(Billy Fields)​は、Qratesとの提携の狙いをこう説明している 「私たちはROGは、熱狂的なレコードファンの要望に応えるためこのレーベルをローンチし、現在に至るまで素晴らしい反応をいただいてきました。そして現在、次のステップに進む準備ができたと考えています。Qratesとのパートナーシップは、ROGを利用する音楽ファンにさらに多くのレコードを楽しむ体験をもたらすでしょう。私たちは、インディペンデントな精神でレコードカルチャーに情熱を注ぐQratesとその愛すべきスタッフとともにこのパートナシップに取り組むことをとても楽しみにしています」

Qratesが目指すレコードビジネスの未来


協業開始時の初期のカタログとして、​Ronnie Hawkinsの『Mr. Dynamo』(1960年発売) 、Fred Neilの『Bleecker & MacDougal』、Better Than Erzraの『Friction Baby」、Little Richardの『The Rill Thing』、The Incredible String Bandの『The Hangman’s Beautiful Daughter』の発売が決定した。今後もリリースは順次発表される予定。

Qratesの強みは、インディーズアーティストやレーベルビジネスが直面しやすい、コスト高なレコード製造販売ビジネスの問題を解決できることだ。最小100枚からのオーダーを発注可能な上に、製造から配送までを一元的にシステム管理できるQratesのサービスは、初期投資や流通コスト、在庫リスクを削減することができる。

また、Qrates内で展開できるアーティスト毎のEC機能や、世界各地のQrates提携ストアへ配送する「Store Delivery」ディストリビューションシステムなど、レコード販売におけるコスト削減と効率化を実現するサービスを組み合わせ、新時代のレコードビジネスのモデルとして注目されてきた。

今回のワーナーミュージックとの協業において、Qratesはこう答えてくれた。

今回のパートナーシップ実現に至るまで、2段階で様々な試行錯誤がありました。まず、そもそも検討いただくまでオンライン、オフライン含め、Qratesのサービスを理解してもらうフェーズは特に慎重にアプローチを重ねました。その後ローンチまでも米メジャーレーベルならではの様々なステークホルダーの理解、協力を調整するのにもたくさん学びありました。最終的には、Qratesが提供するサービスがワーナーのビジネスを拡張するものと理解いただき4作品をアーカイブから提供いただきました。

メジャーレーベルであるワーナーミュージックと組むことで、どのような音楽ビジネスをQratesは見据えているのか。そのヒントは中古転売市場にあると答える。

Qratesは世界初のオンデマンドレコード製造販売サービスとして、ローンチから現在まで主にインディペンダントなアーティストのレコードビジネスをサポートしながら成長を遂げてきました。一方で、中古市場が掌握する旧譜作品の販売は巨大なマーケットではありながら、ロングテールにおいては非常に非効率的で多くの販売の機会損失が起きている環境だと捉えています。Qratesはプレス製造から販売、流通、まで一元的に提供するワンストップサービスですが、他社のレーベル事業者、アーティストマネージメント会社、様々な音楽サービス事業者などと役割を分割し柔軟にチームアップすることで、世界中の巨万の旧譜カタログをオンデマンドによって効率的にプレス製造し販売できると考えています。今回のワーナー社との取り組みはその第一歩になると確信しています。

なぜストリーミング時代にレコードが人気なのか

なぜSpotifyやApple Music、Amazon Musicといったサブスクリプション型音楽ストリーミングサービスが世界的に定着しつつある今、レコードビジネスにメジャーレーベルやファンが注目していることは、非常に興味深い。アクセス型の音楽消費と、ストック型の音楽消費が共存する音楽市場について、Qratesは次のように考えている。

背景としては、30代以下のデジタルネイティブなリスナーの「音楽をコレクトしたい所有欲」がデジタルでリプレイスされるCDではなく、レコードに集中的に向かっているという事実です。ストリーミングサービス上でのプレイリスト作成だけでは満たされることがない音楽の収集欲やアーティストをサポートする精神は世代を超えて普遍的であり、またストリーミングの恩恵により音楽へのアクセスが無料かつ自由になったこの時代に、人々のモチベーションはより幅広く加速してきているのではと思っています。レコードの需要はいずれ緩やかになる時を迎えることは間違いないが、最も人気の高いフィジカル製品として一定量のマーケットをキープし続けるであると確信してます。

米国では、レコードビジネスの人気が2018年も引き続き好調だった。ニールセンによれば、レコードのアルバム売上枚数は1680万枚で、2017年からは15%も増加し、13年連続でプラス成長を達成している。さらに1991年以降、年間に購入されたレコードの枚数では最大だった。

一方、米国のフィジカル音楽ビジネスは減少傾向が顕著だ。フィジカル・アルバムの購入枚数は8800万枚で、2017年から15.8%減少した。CDアルバムに限れば20.9%減少して7070万枚と需要は更に減っている。

そんな中、レコードビジネスはフィジカル音楽市場における成長分野であるため、音楽業界やレーベル運営者にとって、大きなビジネス機会となっている。そして、音楽ストリーミングで見つけた作品やアーティストを、レコードで買い集める。新しい音楽消費の形に、音楽リスナーは目を向け始めている。

Qratesはこのような市場の課題を解決する音楽テクノロジー会社だ。アーティストと音楽業界、リスナーをつなぐテクノロジー・プラットフォームとして、レコードという媒体を介して新しい音楽体験と音楽ビジネスを発展させてきた。

CDは終わった、フィジカルは終わったという議論が毎年のように起こる現在の音楽シーンにおいて今、「レコード」が音楽ストリーミング時代における新たなビジネス領域として、音楽業界のフィジカルに対する考え方を変容させている。今後、レコードビジネスのグローバル化、多様化がますます進んだ時、業界だけでなくリスナーのフィジカル音楽に対する見方は今とは比べ物にならないほどに一変するだろう。

source:
Qrates
Run Out Groove
Total Album Equivalent Consumption in the U.S. Increased 23% in 2018 (Nielsen)


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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