世界のインディーズレーベルとアーティストのデジタル権利交渉を行う非営利団体「Merlin」(マーリン)は、新CEOに元Facebookの音楽チームからジェレミー・サイロータ(Jeremy Sirota)が就任する人事を発表した。サイロータはMerlin設立者で、前CEOを12年以上務めたチャールズ・カルダス(Charles Caldas)の後任となる。

Merlinは、世界各地のインディーズレーベルに代わり、利益分配率や契約条件を音楽ストリーミングサービスやデジタルサービスに対して交渉する世界唯一の団体で、25以上のプラットフォームとライセンス契約をこれまで行い、累計20億ドル以上(約2170億円以上)の収益をパートナーであるインディーズコミュニティに還元している。

Merlinが還元する売上は、世界のデジタル音楽市場の15%以上を占めており、世界の音楽市場ではメジャーレコード3社に次ぐ音楽組織として認知されるほどグローバルな活動が評価されている。つまりMerlinに参加するパートナー企業であれば、メジャーレコード会社ほどの規模やビジネスが無くとも、公平でグローバルなライセンス契約をプラットフォームと結べるようになっている。

近年ではMerlinは、中国のNetEase、テンセント・ミュージック、アリババ、アフリカのBoomplayなどの音楽ストリーミングサービスとのライセンス契約や、MixcloudやDubsetといったサービスとパートナーシップで合意している。

Merlinは2019年に日本で正式にオフィスを設立した。

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Facebook、ワーナーミュージックでの経歴

新たにCEOに就任するサイロータは音楽業界とテクノロジーの分野で、複雑で戦略的な商用パートナー契約の交渉を実現させ、音楽ビジネスを横断したデジタルイノベーションを推進させてきたことが高く評価されている。

2017年に参画したFacebookの音楽チームでは、世界各地のインディーズレーベルやディストリビューターとのライセンス契約を統括し、FacebookやInstagram、Oculus、Facebookメッセンジャーなどでのソーシャル音楽機能を実現するための戦略に多大な貢献を果たしてきた。

サイロータはFacebook在籍中から、音楽系スタートアップの世界的アクセラレーター・プログラム「Techstars Music」に、起業家を支援する業界のメンターの1人に選ばれている。

インディペンデント・コミュニティとの関係

Facebook以前はワーナーミュージックのレーベル・グループ「ワーナー・エレクトラ・アトランティック」(WEA)のアーティスト・レーベルサービス部門、さらに同社のディストリビューター「ADA」のビジネス業務および法務部門上級副社長などを長年歴任してきた。

彼の在籍中、ADAは影響力あるインディーズレーベルとの契約で合意し、世界中のインディーズ音楽コミュニティとの持続的な関係構築を実現することに成功している。

ADAではレーベルパートナーであるベガーズ・グループやBMG、Dim Mak、ドミノ・レコーディング、Dualtone Records、エピタフ・レコード、マージ・レコード、Nettwerk Music、Polyvinyl Records、サブ・ポップ、Tommy Boy、Triple Crownなど、世界各地のインディーズレーベルと直接仕事をしている。

サイロータはCEO就任について次のように語っている。

Merlinをリードする、また世界中のインディペンデントに奉仕できる機会を光栄に思います。Merlinの取締役と従業員によるチームは、音楽またDSPコミュニティーにおいて高く評価されており、次なるチャプターを描くため彼らと共に働けることを楽しみにしいます。デジタル音楽市場は更なる変革にさらされる可能性がある中で、インディペンデントは、自らの利益を代理し、その音楽レパートリーが尊重され、イノベーションと共に歩むことが出来る組織を保持することは非常に重要であると考えています。

Merlinのボードメンバーの一員で、「ベガーズ・グループ」会長兼CEOのマーティン・ミルズ(Martin Mills)はサイロータのCEO就任について次のようにコメントしている。

チャールズ・カルダスによる卓越した仕事に基づき、テックと音楽の両方に深い造詣を持つジェレミーを取締役に迎えることが出来、大変うれしく思っております。Merlinの次なる章を描くのに必要な技能を全て兼ね備えている人物です。新CEO、適切な経営陣、また強力な新たに選任された理事会とともに、Merlinはこの新しい10年にインディペンデントを引き続き成長させ、力となることでしょう。

世界的に広がるMerlinのネットワーク

Merlinはまた、新たなボードメンバーに8名が新任したことも発表した。計15名のボードメンバーには、世界各地のインディーズレーベルやディストリビューション・サービスが名を連ねている。

新たなボードメンバーは以下の通り。
・Alexandria Hock(米国Better Noise Music)
・Carlos Mills (ブラジル Milles Records)
・Chan Kim(韓国 FLUXUS)
・Katie Alberts (米国 Reach Records)
・Marie Clausen(イギリス Ninja Tune)
・Merida Sussex(オーストラリア Stolen Recordings)
・Michael Ugwu(ナイジェリア Freeme Digital)
・Pieter van Rijn(オランダ FUGA)

さらにMerlinは、米国エピタフ・レコードのゼネラルマネージャーを務めていたデイヴ・ハンセンが新たにエグゼクティブ・チェアパーソンに就任する人事も発表した。

Merlinのボードメンバーは、グローバルなネットワークと各地域の意見を共有するため、地域ごとに分けられている。

現在のMerlinのボードメンバーと組織はこのように分割される。

北米
・Alexandria Hock(Better Noise Music)
・Darius Van Arman(Secretly Group)
・Justin West(カナダ Secret City Records)
・Katie Alberts(Reach Records)
・Marie Clausen(Ninja Tune)

ヨーロッパ
・Emmanuel De Buretel(フランス Because Group)
・Horst Weidenmueller(ドイツ !K7 Records)
・Martin Mills(イギリス Beggars Group)
・Michel Lambot(ベルギー PIAS Group)
・Pieter van Rijn(オランダ FUGA)

ROW(その他の地域)
・Carlos Mills(ブラジル Mills Records)
・Chan Kim(韓国 FLUXUS)
・Masahiro “Jack” Oishi(日本 Danger Crue)
・Merida Sussex(オーストラリア Stolen Recordings)
・Michael Ugwu(ナイジェリア Freeme Digital)

アドバイザリー・ボード
・Chris Maund (オーストラリア Mushroom Group)
・Jason Peterson (米国 Cinq Music)
・Nando Luaces (スペイン Altafonte Network)
・Paul Hitchman (イギリス AWAL)

2019年にMerlinが発表した調査レポートによれば、メンバーレーベルの54%がデジタルビジネスからの収益が自社の75%以上の売上を占めていると答えている。その中でも、デジタルビジネスの売上の75%以上音楽ストリーミングサービスからの収益だった。

近年のレーベルビジネスは、デジタルの売上がフィジカルを抜いただけでなく割合も拡大しているが、その流れはインディーズレーベルにもが顕著に現れているのが現実だ。さらにインディーズ・アーティストやレーベルは今、世界で最も急速に成長している領域で、音楽消費やテクノロジーの変化や、ヒット曲の重要と創出、権利や収益分配などのシステムへの対応などにも敏感に対処できることがメリットとなっているため、ビジネスとして今後さらに拡大が期待されている。

source:
MERLIN APPOINTS JEREMY SIROTA AS THE NEW CHIEF EXECUTIVE OFFICER


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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