アナログレコード市場の売上が1週間で100万枚を突破するという過去最高記録が樹立された。

アメリカでは12月20日から26日の週にかけて124万3000万枚のアナログレコードが購入された。これは1991年以降、過去29年で最高の売上記録となった。1991年からはニールセン・ミュージックがアメリカ国内の音楽売上高を毎週記録し始めてきたが、そこにはアナログレコード市場の売上も含まれる。

また1991年以降、1週間で100万枚のアナログレコードが売れたのはアメリカでも初めてだ

ハリー・スタイルズの『Fine Line』が歴代4位の売上記録

アナログレコード人気は近年、世界各国に拡がってきたが、今年のアメリカではクリスマス向けの買い物でアナログレコード需要が高まったことが売上急上昇の要因だ。

さらに需要高を牽引したもう一つの理由は、元ワン・ダイレクションのメンバーで、ソロアーティストとして2枚目のアルバムを12月13日にリリースしたハリー・スタイルズ『Fine Line』(コロムビア・レコード)の人気だった。

『Fine Line』のリリースは2019年最大の成功を収めた作品の一つで、デビューから2週続けてビルボード200アルバムチャートで1位を獲得した。

デビュー週には音楽ストリーミング、ダウンロード、フィジカルを換算したアルバム合算セールスで478,000ユニットを達成。これは男性ソロ・ポップスアーティストでは過去4年で最高の記録となった。

アルバム合算セールスで478,000ユニットの内訳は、音楽ストリーミングの再生数は1億870万再生。トラックダウンロードは3,000回。ダウンロードおよびフィジカルアルバムの購入が393,000枚だった。

またアルバム合算セールスの478,000ユニットは、2019年にリリースされたアルバムではテイラー・スウィフトの『Lover』(869,000ユニット)、ポスト・マローンの『Hollywood’s Bleeding』(489,000ユニット)に次ぐ3位の週間セールス記録を達成した。

さらにコロムビア・レコードと親会社のソニー・ミュージックにとっても『Fine Line』の成功は、過去3年間で最大の週間セールスの快挙となった。コロムビア・レコードで最後にヒットアルバムとなったのは2016年のビヨンセの『Lemonade』が記録した653,000ユニットだった。また『Fine Line』はソニー・ミュージックにおける今年最大の週間ヒットアルバムでもある。

人気アルバムのアナログレコード化に勝機がある

『Fine Line』のアナログレコード記録を見てみると、12月13日から19日のデビュー週だけで28,000枚が買われた。このセールスは、アメリカのアナログレコード市場では歴代4位の週間売上記録となる。

アナログの週間売上での過去最高記録は、ジャック・ホワイトの『Lazaretto』(Third Man Records、XL Recordings、コロムビアレコード)の40,000枚

『Fine Line』はパール・ジャムの『Vitalogy』(エピック・レコード)の34,000枚、アデルの『25』(XL Recordings、コロムビアレコード)の31,000枚に続く歴史的快挙を達成。男性ソロポップスアーティストでは最高の記録を樹立したこととなる。

そして12月20日から26日の週でもこの勢いは続き、アナログレコードは16,000枚が購入されたことが、前述の週間セールス記録を牽引したのだった。

この他に購入されたアナログレコードは、2位にビリー・アイリッシュの『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』。3位はビートルズの『アビー・ロード』。4位は映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』サウンドトラック。5位はクイーンの『グレイテスト・ヒッツ』だった。

ちなみに、『Fine Line』のアナログレコードは通常版と、限定カラー盤の2種類がある。通常版はアマゾンなどでも買えるが、限定版はアーティストサイトや、ローカルのレコードストアで販売されている。

アメリカの音楽業界ではアナログレコードが18年連続で成長してきただけに、2019年の売上高は2018年より更なる飛躍が期待されている。BuzzAngle調べでは、2018年のアメリカでのアナログレコード売上は970万枚と、2017年から12%も増加した。

その中でも、クリスマス商戦の人気を2019年の話題作が1、2位を占める結果となったことも、アナログ人気と需要が若い層に拡大してきたことを象徴している。

これまでアナログレコードでは再発盤や復刻版、記念盤が注目されてきた。だが最近では、最新アルバムをアナログレコードでリリースする流れがアメリカの音楽業界では高まっている。

アナログレコードの売上がCDを上回る可能性 全米レコード協会が発表 (block.fm)

その需要の背景には、アーティストグッズ/マーチャンダイジングを購入するライトなファン層から、限定品を買い求めるコアなファン層にリーチするファンダムビジネスのための商品としてアナログレコードの価値が再認識され始めたことや、アメリカの音楽チャートにランクインするためにストリーミングよりもチャート換算率の高いフィジカル音楽を大量に購入してもらうマーケティング施策、さらにレコード会社やアーティストにとって高い利益率に繋がるリリース戦略など、ストリーミングとフィジカル音楽を取り巻く音楽消費環境に最適化させるレコード会社の戦略の進化が大きい。

そのため、近年はアメリカでアナログレコードを販売するリリース戦略が、どのジャンルでも定着した。アーティストは、アナログレコードをアパレルやアクセサリーと並べてアーティストサイトで販売する。

限定盤は予約受注生産。さらにアナログのプレス枚数はストリーミング再生数やアルバム購入から予測するため、無駄な在庫を抱える必要も減った。

これらの状況の変化は新しいビジネスチャンスでもある。そしてレコード会社やアーティストにとって、アナログレコード人気と需要をもはや偶然の産物として捉えたり、ストリーミングのオプションとして捉えることは、時代遅れになりつつある。

勿論、アナログレコードのリリースには今でも予算と人員が必要になる。それらを確保できるメジャーレコード会社のアーティストであれば、問題をクリアしてもらえるだろう。また、ストリーミングで圧倒的な人気を誇る現代アーティストのアナログでのリリースは今後増えるはずだ。

数字の面では、需要の高いアナログの大半をメジャーレコード会社のリリースが占めているのが海外のレコード市場の現状でもある。

一方インディーズアーティストやレーベルは、収益面でのメリットでは価値が大きい反面、コストや流通面、プロモーションでは現在も今後も苦戦する。より戦略的なアプローチや、ディストリビューターやパートナー企業との連携、効果的なツールの活用などがさらに重要となるだけに、インディーズアーティストに最適なソリューションの出現に期待が高まる。アーティストとファンとの親和性が高まるアナログレコード・ビジネスは2020年代に新たな変革期を迎えることとなる。

source:
Weekly Vinyl Album Sales Top 1 Million for First Time in Nielsen Era, Thanks to Harry Styles & More(Billboard)
Harry Styles’ ‘Fine Line’ Album Earns Huge No. 1 Debut on Billboard 200 Chart(Billboard)
BuzzAngle Music 2018 Report on Music Consumption (BuzzAngle Music)
アナログレコードの売上がCDを上回る可能性 全米レコード協会が発表 (block.fm)

Photo by Phillip Blocker on Unsplash

Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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