ワーナーミュージック・グループは、米国で年内に株式を上場する計画を発表した。

すでにSEC(米証券取引委員会)にForm S-1(IPOに必要な届出書)を提出しており、IPO(新規株式公開)の準備は始まっている。売り出す公開価格や発行株式数は今後公表予定となっている。

ワーナーミュージック・グループはNYSEに上場する公開企業だったが、2011年に非公開企業となった。その際には、現在の親会社である投資家Len Blavatnik率いる投資会社Access Industriesに当時の価格33億ドルで売却された。

ワーナーミュージック・グループと契約するアーティストの例では、エド・シーラン、ブルーノ・マーズ、カーディ・Bなど、世界的なトップアーティストと契約を交わしている。

またA Boogie wit da Hoodie、Charli XCX、Lizzo、Bebe Rexhaなどの新世代アーティストや、Aya Nakamura、TWICEなど国際的なアーティストとも契約する。

さらには、ドレイクのレーベルOVO Soundや、ヒップホップ専門の300 Entertainmentなど、アーバンミュージックに強いレーベルとのジョイントベンチャーやパートナーシップも積極的に行ったり、ダンス・エレクトロニックミュージック専門のSpinni’ Recordsを買収するなど、広いジャンルとデモグラフィックをカバーしている。

ワーナーミュージックの業績

グローバル・メジャーレコード会社3社では、音楽業界最大のユニバーサルミュージック・グループが2019年末に、中国のテンセント率いる投資グループへ株式10%を300億ユーロ(約3兆6600億円、約340億ドル)で売却したことが、今回ワーナーミュージックのIPOにも影響したことが推測できる。

注目したいのは、同社の成長だ。2017年にユニバーサルミュージックの時価総額は235億ドルと評価されていた。

さらに2015年の評価額は150億ドルだった。この5-6年で2倍近く上昇したユニバーサルミュージックの評価額に加えて、音楽ストリーミングで拡大する音楽ビジネスや周辺ビジネスの収益の成長がIPOを実施する背景にあるのは確かだ。

ワーナーミュージックのワーナーミュージック・グループは2019年通年で44億8000万ドルの売上、2億5800万ドルの純利益を増大させた。内訳でみると、音楽ビジネス事業は2019年通年で38億4000万ドルの売上を同社にもたらした。これはワーナーミュージック全体の86%を占める。

ワーナーミュージック・グループ傘下には、ストリーミングで実績を上げているアトランティックレコードやエレクトラレコード、ワーナーレコードなどがレーベルグループを形成して、その中で様々なレーベルを多数運営している。

音楽出版事業の中心を担うワーナーチャペル・ミュージックは140万曲以上の著作権を管理し運用している。音楽出版部門は2019年に6億4300万ドルの売上を達成している。

また同社はインディーレーベルやアーティスト向けのディストリビューター「ADA」や、ユースカルチャーのメディア企業「UPROXX」、ライブ音楽アプリ「Songkick」などを運営している。

成長の見通し

ワーナーミュージック・グループがライバル企業との差別化要因としてあげているのは、次の7つだ。
・世界で成長する音楽ストリーミング市場におけるポジショニング
・中国を含む成長中のグローバルマーケットで確立されたプレゼンス
・音楽業界内でスケール可能な事業基盤
・スターを発掘しカルチャーを動かす能力
・安定した成長率、経営レバレッジ、フリーキャッシュフローを持つ強固な財政
・経験豊富な経営陣と、献身的な戦略的投資家のチーム体制
・自社能力を拡張させる戦略的買収および投資の専門知識

とりわけ同社が強調するのは、ストリーミング市場における成長戦略と、ストリーミングがまだ浸透していない国や地域における市場戦略で、デジタル音楽事業からの収益化をさらに強化しながら、グローバル市場とローカル市場の双方を狙う。

そして、成長戦略として次の5つの柱が挙げられている。
・大御所から新人まで、アーティストとソングライターの発掘、育成、持続
・音楽ストリーミングの利用が進む成長市場への注力
・新興音楽市場のローカル音楽への投資を軸とした世界市場での存在感拡大
・新しいデジタルディストリビューターおよびパートナー企業との連携によるビジネスのイノベーションの推進
・長期成長を実現させるポートフォリオ企業を強化するための買収戦略の実行

これまでの音楽企業にとって、各国の音楽商品の販売や全国流通を自社の管轄下で行うことが、主なビジネスモデルだった。だが、現代そして未来の音楽市場で成長していくためには、今までのアーティストとの関係、音楽消費者との関係、消費環境と需要の関係などビジネスチャンスや産業構造をアップグレードして、長期的な成長を促す時代に見合った戦略と方法論を実践する必要があるはずだ。

そして今後、音楽企業が成長し続ける鍵は、世界戦略の強化にある、という考え方は、昨今の世界の音楽業界での共通認識であり、最重要課題でもある。ワーナーミュージックでも成長の軸となるのは、ローカル音楽を生み出すアーティストやソングライターの育成や発掘、ストリーミングが盛り上がる市場への投資することが優先課題となっている。

特に近年、世界のレコード会社や音楽出版社の間では、ローカルアーティストの育成(A&R)と、音楽ストリーミング市場におけるアーティストサービスの強化は、よく議論されるテーマとなっている。

こうしたアーティスト育成とグローバル市場への投資を実現するために、ワーナーミュージックは同社のエコシステムへの入り口を多様化させている。

その一つはアーティストとの契約内容を拡大して、アーティストをパートナーとして契約しつつ、アーティストのキャリアにおいて多方面で支援する形を実践する。

こうした契約では、アーティストが求めるビジネスやクリエイティブの領域においてレコード会社は「サービス」を提供する。

音楽のマーケティングやプロモーションは当然ながら、ストリーミングでの海外展開、世界へのディストリビューション、フィジカル音楽の販売流通、ツアーのサポート、チケット販売、スポンサーシップやブランドパートナーシップ、ファンクラブ、マネジメントなど、さまざまなプラットフォームや多分野を横断してアーティストの成功を長期的視点でサポートする。

さらにはレコード会社が、アーティストが運営するインディーレーベルに出資したり、共同でジョイントレーベルを立ち上げることも珍しくない。このような契約を望む10代20代のアーティストも最近では増えている。こうした若手アーティストにとって、メジャーレコード会社はビジネスパートナー企業という位置付けになっていく。

このアーティストサービスの提供と、契約のアップデートは、音楽ストリーミングが主な収益源となった今、セットとしてあらゆる市場で展開されるように企業の機能も変化していく。

アーティストやクリエイターを抱え込んだり、包括契約などの条件では、今後はアーティストにデメリットが大きくなり、レコード会社との契約を見送るケースが今後増えるだろう。そこで、どのような機能をストリーミングやプラットフォームに準じて提供するか、どれだけ柔軟にアーティストや消費者が求めるものに上手く対応できるかという戦略は、時代に見合った形と言える。

過去2年で音楽業界は、2018年にはSpotifyのIPOと、Tencent MusicのIPOと、2つの音楽プラットフォームの株式上場で、音楽ストリーミングへの注目がさらに高まってきた。そして、2020年は、ストリーミング市場の収益を加速させる、メジャー3社の動きに、注目が集まるはずだ。

業界最大手のユニバーサルミュージック・グループは、株式売却を目指し、経営体制が現在のフランス企業Vivendiから変わる見込みだ。ソニーミュージック・グループは、音楽出版の業界最大手ソニーATVや、映画会社のソニーピクチャーズ、ゲーム会社のソニーインタラクティブエンタテインメントなど、ソニーが持つエンタメ企業との連携を深めている。そしてワーナーミュージックはIPOでさらに資金調達を目指す。

その間にも、2019年にはディストリビューターや音楽出版企業の買収が実現し、分野を超えた音楽企業の再編が急ピッチで行われているのが、昨今の世界の音楽業界だ。ストリーミングからの収益を見据えるだけでなく、ストリーミングによって変化する音楽市場や消費の未来を捉えて、音楽市場や企業も変わる必要が重要になってきている。

Source:
Warner Music Group Files Registration Statement For An Initial Public Offering (Warner Music Group)
Len Blavatnik-backed Warner Music files for IPO (Financial Times)

Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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