アメリカで11月27日に「レコード・ストア・デイ」のブラックフライデーが全国規模で開催されました。新型コロナウィルスによる被害が留まる所を知らないアメリカですが、今回のセールイベントは大成功に終わっただけでなく、アメリカの音楽史上、過去最高のアナログ売上を達成した記録的な1週間を実現しました。
コロナの影響によって、日本でも音楽小売店、特にCDの売上低迷が深刻化しています。米国のアナログレコード市場も同様に悪影響を受けると見られていましたが、予想を覆す勢いで売上が拡大し、人気健在を象徴することとなりました。オンラインプラットフォームやD2Cを活用して、昨年よりもオンライン販売で業績を伸ばすストア経営者も現れています。
またレコード・ストア・デイも、毎年4月に開催するイベントを”分散化”させ、年に複数回イベントを開催する施策にシフト。こうしたレコードストアの成功と、レコード・ストア・デイの取り組みは、今年の音楽業界では明るい話題の一つでしょう。
過去30年最高の125万枚が購入される
11月27日から12月3日の1週間におけるアナログレコードの売上規模は、125万3000枚。これは、ニールセンが米国の音楽売上数を集計し始めた1991年以降、週単位で過去最高の売上枚数となっています。これまで米国での過去最高記録は、昨年のクリスマス週の124万3000枚でした。
1991年以降、レコードの週売上が100万枚を越えたのは、今年で2回目です。
ブラックフライデーにおける独立系レコードストアでの売上枚数は驚異的な54万2000枚。これまで独立系レコードストアで販売された週単位での過去最高記録は、2019年4月のレコード・ストア・デイ週で67万3000枚。今年は過去2番目に多いレコード購入枚数が達成したのです。
独立系レコードストアと合わせて、Amazonやターゲット、ウォールマート、Barnes & Nobleなど大手小売店でも多くレコードが購入され、それぞれブラックフライデーに伴ったセールスプロモーションが数多く展開されました。
コロナ禍においても、未だにレコード売上を牽引しているのは、独立系レコードストアの根強い人気であり、全体売上の43%を占めました。
新譜と限定カタログが購入を促す
最も購入されたアナログLPは、ハリー・スタイルズの『ファイン・ライン』で1万5000枚。2位はビンス・ガラルディの『A Charlie Brown Christmas TV Speical』と定番のジャズアルバムが1万1000枚購入されました。
3位はクイーンの『グレイテスト・ヒッツ』(11000枚)、4位はビリー・アイリッシュの『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』が1万枚。5位はテイラー・スウィフトの今年リリースしたばかりの『Folklore』が1万枚と、アナログレコードでもテイラー・スウィフトの人気が伺えます。
6位はフィッシュの『Sigma Oasis』。ビートルズの『アビーロード』が9000枚で7位になっています。
レコード・ストア・デイ・ブラックフライデー限定のリリースも人気でした。Alice In Chainsの『Sap EP』は8500枚が買われ8位。U2の『Boy』は8000枚。My Chamical Romanceの『Life on the Murder Scene』は8000枚で10位にランクインしました。
上記3作は、これまでCDやDVDセットのみで販売されてきた作品で、アナログ化は初となる作品でもあったため、ファンや音楽好きの間で人気を集めました。
売上順でトップ10を並べると以下の通り。ハリー・スタイルズ、ビリー・アイリッシュ、テイラー・スウィフト、フィッシュの2019年、2020年リリース作品が並ぶ中で、定番ともなったクイーンとビートルズ。さらに、これまでアナログ未発表だった作品がリリースされているところをみると、カタログのアナログ需要には投資する価値があることが見えてきます。
1.ハリー・スタイルズ『ファイン・ライン』1万5000枚
2.ビンス・ガラルディ『A Charlie Brown Christmas TV Speical』1万1000枚
3.クイーン『グレイテスト・ヒッツ』(1万1000枚)
4.ビリー・アイリッシュ『When We All Fall Asleep,Where Do We Go?』1万枚
5.テイラー・スウィフト『Folklore』1万枚
6.フィッシュ『Sigma Oasis』9000枚
7.ビートルズの『アビーロード』9000枚
8.Alice In Chains『Sap EP』8500枚
9.U2『Boy』8000枚
10.My Chamical Romance『Life on the Murder Scene』8000枚
レコード売上がCDを超える
全米レコード協会(RIAA)によれば、新型コロナウイルスの感染拡大が始まる前、2019年のアナログレコード売上は5億400万ドル、売上枚数は14.5%増加して188万枚が購入されました。前年比19%の勢いで成長し続けていたアナログレコード市場は、売上が前年比12%減少したCDの売上規模6億1500万ドルに迫る勢いで、成長してきたフォーマットでした。
そしてRIAAが発表した2020年上半期の実績で、ついにアナログレコードは2億3210万ドルの売上を記録し、CDの1億2990万ドルを超えました。コロナ禍にも関わらず、フィジカル音楽フォーマットでは、アナログレコードが1986年以来初めてCDを売上で逆転しました。
アメリカでは、2020年上半期には、音楽ストリーミングからの売上が市場の85%を占めるまで拡大しました。メジャーレコード会社をはじめ、多くの音楽企業やアーティストにとって、不可欠な存在になってきた音楽ストリーミングが独占的な地位を強化しています。
そんな米国で音楽ストリーミングと並び奮闘しているのが、アナログレコード市場。前述の通り、フィジカル音楽市場の売上高を牽引するまで、毎年成長を続けてきました。
アナログレコードのマーケットプレイスで世界展開するDiscogsのデータでも、2020年に入ってからコロナ感染拡大後にアナログレコード消費が上昇したことが示されています。
2020年上半期、Discogs経由では、5,814,855枚のレコードが購入され、売上は昨年比33.72%増加してきました。2020年5月には、単月での販売枚数が160万枚を突破、Discogs過去最高の売上を達成するという、マイルストーンも生まれました。
何もアクションを起こさなければ、ストアは閉鎖に追い込まれたり、アーティストたちは収入が無い生活が続いていたはずです。ですが、ストアオーナーやプラットフォームの対応が非常に素早かったこと、オンライン販売の強化にシフトすることで、コロナによる売上減少を最小限に食い止め、過去最高の売上を実現することへと繋がったと言えます。
こうした動きは、セールスイベントをオーガナイズするだけでは実現不可能だったはずです。「レコード・ストア・デイ」運営者に代表されるように、アナログレコードの世界では、普段から、レコードストアの経営者や、ディストリビューターなどで、B2Bのコミュニティが形成されており、店舗運営やオンライン販売に役立つビジネス用ツールを開発してきたことが、危機に瀕する店舗でも迅速に対処できた要因として挙げられます。
source:
RECORD STORE DAY BLACK FRIDAY (RECORD STORE DAY)
RIAA RELEASES 2020 MID-YEAR DATA ON U.S. CONSUMER LISTENING AND RECORDED MUSIC REVENUES (RIAA)
The Surprising Comeback of Vinyl Records (Statista
Discogs Mid-Year Report: Music Sales in 2020 (Discogs)