音楽著作権ビジネスの独立系大手Reservoir (レザボア)は、アメリカのインディーレーベルで音楽出版社の「Tommy Boy Music」の買収を発表しました。買収額は約1億ドル(約110億円)。取引は2021年Q3に完了予定です。なおReservoirは2021年Q3に、米国ナスダック上場する準備を進めています。

1981年にトム・シルバーマンのよって設立され、1980年代と1990年代のヒップホップにおける重要レーベルとして有名なTommy Boyは、1982にリリースしたAfrika Bambaataa & The Soulsonic Forceの「Planet Rock」の成功に代表されるように、De La SoulやQueen Latifah、Coolio、House of Pain、Naughty By Natureなど、音楽史に名を残す多くのアーティストをサポートして、ヒップホップをメインストリートへ押し上げてきました。

Tommy Boyはヒップホップに加えて、ラテン系ヒップホップやダンスミュージックのカタログも保有します。

またAmherst Records、Harlem Music、Halwill Musicの原盤権及び著作権を抱えています。これらのレーベルは70年代、80年代のディスコやソウル、ジャズ、ダンスミュージックなどのカタログ楽曲の権利を大量に抱えているため、Reservoirの著作権ビジネスの幅を広げます。

6,000曲以上の権利を買収

Reservoirへの買収の目的の一つはTommy Boyの持つ原盤権と著作権の取得です。

ReservoirはTommy Boyから約6,000曲以上の原盤権を取得するとされ、前述の「Planet Rock」や、Coolioの「Gangsta’s Paradise」、House of Painの「Jump Around」など、ストリーミングを中心に多方面で人気のカタログ楽曲の権利が含まれます。

音楽出版業界のReservoirにとって、インディーレーベルの大型買収は二件目になります。2019年には、イギリスのインディーレーベルのクリサリス・レコード(Chrysalis Records)を運営するBlue Raincoat Musicを買収して傘下に収めました。

Chrysalis Recordsは1960年代から1990年代を代表するインディーポップやインディーロックに定評あるレーベルで、2万曲以上の原盤権を持ちます。

Reservoirは自社が管理する楽曲にChrysalis RecordsとTommy Boyを加えることで、展開できるカタログ楽曲の権利ポートフォリオを大きく広げ、同社の「著作権買収戦略」を加速させています。

買収後もTommy Boyブランドは継続され、ReservoirのA&Rチームとクリエイティブチームがマーケティングを行い、ロンドンのChrysalis Recordsが海外マーケティングを行います。

Reservoirの立ち上げ

2007年にゴルナー・コスロシャヒ (Golnar Khosrowshahi)が立ち上げたReservoirは、メジャーの資金援助を受けない独立系音楽出版社として、著作権の管理運用ビジネスや、作曲家/プロデューサー向けのA&Rビジネスを中心に、企業規模を広げてきました。

現在、ニューヨークやロサンゼルス、ナッシュビル、ロンドンにオフィスを構え、世界中のクリエイターをクライアントに持つReservoirは、13万曲以上の楽曲著作権、26,000曲以上の原盤権を保有しています。

Reservoirと契約する作曲家やプロデューサーの中にはAli Tamposi、James Fauntleroy、Jamie Hartman、2Chainz、Young Thug、A Boogie Wit Da Hoodieなど、業界内で評価の高いトップレベルのクリエイターがいます。

Reservoirは、SPAC (特別買収目的会社、Special Purpose Acquisition Company)による合併で、ナスダックに上場する計画を発表しています。

SPACのRoth CH Acquisition IIと合併後、7億8800万ドル (約863億円)の評価額で今年Q3の上場を目指します。

上場で調達した資金で、Reservoirは作曲家やプロデューサーの発掘と契約、カタログ楽曲の買収を強化していきます。

IFPI_2021_Global_Revenue

コロナ禍の音楽業界では、ストリーミングの世界的な需要高と、今後の成長速度を見据えて、さらにカタログ楽曲の権利売買ビジネスが活性化しています。

CDビジネスと大きく異なり、ストリーミングにおける権利ビジネスの収益は予測可能です。音楽消費が右肩上がりで加速する中、権利を売りたいアーティストや作曲家と、権利を買いたい音楽出版社やファンドによって、かつて無い巨額の取引が頻繁に行われるようになりました。

2020年12月に、ユニバーサルミュージック・パブリッシングは3億ドル (約329億円)という巨額のオファーで、ボブ・ディランから600曲に及ぶ全カタログ楽曲の出版権を買い取りました。この買収は、アーティストの著作権取得で支払われた額では、音楽業界で最高額と言われています。

参考記事:
ボブ・ディラン、全キャリアの楽曲の出版権を300億円以上で売却 (NME Japan)

2021年1月には、ロンドンの音楽権利ファンドのHipgnosis Music Fundが、ニール・ヤングのカタログ楽曲の著作権の50%を買収しました。買収額は公表されていませんが、約1億5000万ドル (約164億円)規模と言われています。

De La Soulのストリーミング解禁問題

Tommy Boyは1985年にワーナーブラザーズ・レコードとジョイントベンチャー契約で合意し、レーベルの所有権がワーナーミュージックに移りますが、2002年にシルバーマンが経営権を再び買い戻し、インディーレーベルとして再出発します。さらに2017年には、ワーナーミュージックがParlophoneを買収するために同社の資産の売却が行われた際に、シルバーマンによって2002年以前のTommy Boyのカタログ楽曲の権利がワーナーミュージックから買い戻されました。

Reservoir買収によって変わるかもしれないことは、De La Soulのカタログの扱いです。

長年、音楽ストリーミングで配信されていない楽曲で特に有名なのがDe La Soulのカタログ楽曲です。De La Soulの原盤権はアーティストではなく、Tommy Boyが保有しています。

Tommy Boyも2019年に配信し始めようと、アーティストと交渉を始めました。

参考記事:

アーティストへの配分はたった10%!De La Soulとレーベルの間で深まる「配信収益」問題 (block.fm)

しかし、Tommy Boyは、De La Soulがティーネイジャーだった大昔に結んだレコード契約と同じ契約内容での配信を望みました。その提案は、売上の90%がレーベルの取り分となり、10%がアーティストに分配されるという不公平な契約内容でした。

この契約内容を拒絶したDe La Soulは、Tommy Boyに反対する「ボイコットTommy Boy」キャンペーンを起こしました。これには多くのヒップホップアーティストやファンが賛同し、7-8カ月に及ぶ抗議活動が続きました。

その結果、現在もDe La Soulの楽曲配信は合意に至っていません。

しかしReservoirはすでにDe La Soulと連絡を取り始めたと述べており、ストリーミング解禁に向けた動きが進む可能性があります。

Source:

Reservoir Acquires Iconic Tommy Boy Music, Groundbreaking Hip-Hop Label, for $100 Million (Variety)
Reservoir to List on NASDAQ With $788 Million Valuation (Variety)
De La Soul Ends Relationship With Tommy Boy Over Unequitable Contract From 1981 (Forbes)
Questlove, Nas, Pete Rock, Jarobi & More Boycott Tommy Boy Over De La Soul Controversy (Okayplayer)


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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