初代iPodがリリースされて2013年11月10日で12周年を迎えました。人間にしてみれば、当時小学生1年だったのが中学を卒業するのと同じ歳月が流れたことになります。

2001年10月23日にアップル本社で前CEOのスティーブ・ジョブズは、アップルが音楽ビジネスに本格参入すると宣言。

そしてそのプレゼンから約半月の11月10日にiPodの出荷が始まりました。

当時のデジタル音楽マーケットはまだCDプレーヤーが健在の上に、ソニックブルー社のブランド「Rio」やCREATIVEがMP3プレーヤーやMP3 CDプレーヤー、ハードディスク・プレーヤーをすでに展開していました。しかし、どのプレーヤーも保存できるメモリー容量が少なかったり焼いたCDを持ち運ばなければならなかったりと一長一短で、市場をリードする企業は存在しませんでした。

初代iPodは今では考えられないスペックですが、当時としては画期的な技術を搭載していました。5GBのハードドライブ、Firewireケーブル接続による高速同期、160×128ピクセルのモノクロスクリーン(当時は「高精細ディスプレイ」と呼ばれていた)、見たこともなくクリックホイール。Windows非対応で、iTunesインストール用の2枚のCDがついて、メディアには不評だった破格の399ドルという高額な値段。

Apple Music Event 2001-The First Ever iPod Introduction - YouTube
それでもジョブズは

iPodは持っている音楽コレクション全て(1000曲)入るウルトラ・ポータブルなデバイス。

と自信を持って紹介しました。その後10年以上に渡るiPodの成長とアップルの音楽ビジネスは皆さんご存知の通り。

今では、テレビでもiPodのコマーシャルが流れることもありません。iPhoneの音楽プレーヤーとして残っていた「iPod」アプリは、iOS 7の登場で「Music」に置き換えられてしまいました。そして当のアップルも新しいiPodを発表する兆しは全く見せていません。そう考えると、アップルがこれからiPodをストップすることも、もしかしたら遠くないのかもしれないのかもしれません。

今のデジタル音楽を語る上でiPodとiTunesの存在抜きで語ることは難しいと思います。コンテンツが身近なモノに変われば変わるほど、必ずといっていいほどiPodとiTunesの作ったコンテンツ・プラットフォームの存在価値が無意識のうちに考えてしまいます。しかし今でも、まだかつてのiPodとiTunesほど消費者に需要をもたらしたハードウェアとソフトウェアの組み合わせは存在していないと思います。

iPodは既に過去の遺物のようになってしまいました。ですが、デジタル音楽の世界が今ほど爆発的に成長することになるキッカケを作った功績を無視することはできません。音楽配信サービス「iTunes Music Store」の誕生、デジタル著作権管理(DRM)技術のFairPlay、そしてiTunesが世界No.1の音楽ストアになるとも予想はしていなかったし、HMVやCDストアはずっと続くものだと思っていた人は多いはず(タワーレコードさんは健在ですが)。

今後iPodがどう変わっていくのか、自分には想像がつきません。ですがスマホやクラウドで音楽を身近に聴けるようになった今、かつてのiPodがそうしてきたようにエコシステムを作り、ユーザーの行動や価値観を変える音楽のイノベーションをこれからのリスナーは再び求めている時期にいると自分は勝手に思っています。


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
取材、記事執筆、リサーチ、音楽ビジネスやストリーミング、海外PRに関するコンサルティングのご相談は、お問い合わせからご連絡を宜しくお願い致します。

  • プロフィール
  • お問い合わせ