今の時代、ミュージシャンは食っていけるのかの1つの指標になれば。
レーベルに所属せずに世界で活動している、カナダ人のDIYミュージシャン、ゾーイ・キーティング (Zoe Keating)が、2013年にデジタル音楽サービスから得た収益の内訳を公開しています。
ゾーイ・キーティングはラップトップやエレクトロニック機器、サンプリングとチェロをミックスさせたクラシックを演奏する、ジャンルの無いコンテンポラリー・アーティストです。2003年から本格的に音楽活動を始め、レーベルのチカラを借りず、セルフリリースでアーティスト活動を行うその姿勢を通じて世界のDIYアーティストに向けてアーティストが主体の活動を啓蒙しており、その音楽活動が評価され世界経済フォーラムにおいてヤング・グローバル・リーダーズに選ばれたこともあります。
ゾーイ・キーティングは、過去にも自らの音楽活動におけるデジタル音楽サービスの収益を隠すことなく公表することで、デジタル音楽ツールを使ったアーティスト活動を啓発すると同時に、アーティスト支援に対しての問題定義を行ってきました。
数日前にキーティングはGoogle Driveを使って最新のデータを公開しました。その内容によると、収益の92%となる75,341ドル(約7,720,000円)はオンラインストアでの音源売り上げ、6,380ドル(約653,950円)がSpotifyやYouTubeなどストリーミングサービスからの収益となりました。
音源売上
・iTunes:38,195ドル(約3,900,000円)
・BandCamp:25,575ドル(約2,620,000円)
・Amazon:8,710ドル(約890,000円)
・Amazon MP3:2,860ドル(約292,000円)音楽ストリーミング
・Pandora:3,258ドル(約330,000円)
・YouTube:1,247ドル(約127,000円)
・Spotify:1,764ドル(約180,000円)
・Rhapsody:92ドル(約9,400円)
・Medianet:19ドル(約1,940円)
最も大きな収益源はiTunesからの売上で、シングルダウンロード32170ユニット、アルバムダウンロード3862ユニットで合計38,195ドル(約3,900,000円)でした。
Bandcampでは、185トラック、アルバム2899ユニットを売り上げ、25575ドル(約2620000円)という結果でした。フィジカルCDとMP3音源を販売していたAmazonからは11,571ドル(約1,186,000円)でした。
Spotifyでの合計再生回数は403,035回で、このロイヤリティ額は1,764ドルでした。YouTubeでは再生回数が190万回以上を超え、またキーティングの楽曲を使った動画での使用料も含めた時の売上は1,248ドルでした。米国のパーソナライズド・ラジオ最大手Pandoraからのロイヤリティ額は3,258ドルでしたが(SoundExchangeの項目)、再生回数は明らかにされていません。
キーティングはまたSoundCloudでの再生回数が合計266,331回、Bandcampでの再生回数が222,226回でしたが、この二つからロイヤリティは発生しませんでした。
キーティングのSpotifyでの1曲あたりの支払いは、0.0044ドルでした。一方でYouTubeからの支払いは、1曲あたり0.00064ドルと、Spotifyよりも大きく下回っています。またiTunesでの1曲分はSpotifyでの再生回数160回分に当たります。
これまで幾度と公の場でキーティングは、彼女の音楽活動において、音楽ストリーミングがもたらす影響はポジティブであると語ってきたと同時に、音楽サービス・プロバイダーは今後さらにアーティストと協力し持続性のある音楽活動を行うための 支援をしていかなければならないと述べてきました。
音楽ストリーミングは音楽にとって敵ではないと感じてます。音楽を届ける上で、とても良いポジティブな存在だと思います。唯一私が言いたいのは、私と直接交渉してほしいということです。私に契約内容を選択させてください
と2013年10月に語っていました。
アーティスト活動に支援ということにおいては、Spotifyは2013年12月に、アーティストやマネージャー、レーベルに向けてSpotifyのビジネスモデルやロイヤリティ支払いを詳しく説明する特設サイト「Spotify Artists」を公開開始し、またアーティストがSpotifyの活動を分析できるように、音楽データ解析企業Next Big Soundと組み音楽分析ツールも用意しています。
関連記事
・Spotifyのビジネスモデルを説明したミュージシャン、レコード会社、権利関係者向けサイト「Spotify Artists」翻訳を公開します
・ミュージシャンに見て欲しい!音楽ストリーミング「 Spotify 」、支払う楽曲使用料の仕組みを説明するサイトをオープン
こんな混沌としたデジタル音楽時代にゾーイ・キーティングを支えてくれるのは、彼女の大きなファン層です。例えば、彼女はTwitter (@zoecello)で120万人以上のフォロワーを獲得しており、活動報告やアップデートをするなどファンと近い場所に自分を置いたコミュニケーションをソーシャルメディアを通じて行っています。
日本では最近Spotify上陸が話題になってきていますが、このことはアーティストやマネージャー、レーベルの音楽活動にも今後影響を与えることでもあり、音楽を生活としているプロの方たちには、今までとは違った収益の仕組みへと変わっていく事が考えられます。従って、もっと当事者である彼らの中から将来的には声を上げる人たちも増えてくることと思います。もっともSpotifyが始まっても、アーティスト活動そのものを今のデジタル化する時代に合わせて変えていかなければ、収益システムも変わることはありませんので、新たな収益源(つまり第2,第3,第4の)の確保なども戦略的に考える必要があると感じています。
ソース
Musician Zoe Keating reveals iTunes, Spotify and YouTube payouts for 2013 (2/24 The Guardian)