多くの方はご存知と思いますが、世界の音楽ビジネスはデジタルへの移行が進み、ダウンロードとストリーミングが音楽消費の柱になろうとしています。一方で日本は依然としてCD中心の消費が中心で、デジタルへの移行が進まない、世界から切り離された特殊な市場に進化しています。
このような日本の市場を世界はどう見ているのか? さらに世界のメディアは日本の音楽市場をどのように伝えているのか?
世界のメディアが日本について触れることは極稀です。大手メディアであるニューヨーク・タイムズに「CD-Loving Japan Resists Move to Online Music」 (CD好きな日本はオンラインミュージックへの移行を拒否)というタイトルの長文記事が掲載されました。
CD-Loving Japan Resists Move to Online Music(9/16 New York Times)
この記事では、世界がダウンロードとストリーミングに向かう中、日本の音楽ビジネスではCDが今でも主流であること、そしてデジタル音楽への移行が困難を極めていることを、業界関係者のインタビューを交えて説明しています。
CDが主流の日本は、ご存知のように音楽売上が過去10年に渡って減少しています。世界第2位の音楽市場ですが、昨年は前年比17%と大幅に減少したことで、世界の音楽市場が3.9%減少する大きな原因となりました。
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また日本のデジタル音楽市場が勢いを失っていること、そして社団法人日本レコード協会の数値として2009年のデジタル音楽の売上が約10億ドルだったのが、2013年には約4億ドルに下がったことを紹介しています。
記事では、デジタル・テクノロジーがアルバム主体のビジネスモデルを変革し始めた時に音楽市場の価値が低下し始めた日本の市場を回復することが世界の音楽ビジネスの最優先事項であるが、一方で、変化を生み出すには、デジタルサービスに疑いの目を向ける日本の保守的な姿勢などが邪魔して難しいだろうとも述べています。
ユニバーサルミュージック・グループの会長兼CEOのルシアン・グレンジ (Lucian Grainge)も
日本は完全に全てがユニークだ。
と日本市場が世界とは全く異なる市場であるとコメントします。
世界では新たな収益源として期待が高まるSpotifyやRdioのような音楽ストリーミングサービスは、2年のレーベルとの交渉が足踏み状態で、現在でも市場に参入することが出来ていません。
デジタル音楽サービスの中には、日本市場の今後を楽観的に見ているサービスもいます。
ニューヨーク・タイムズの取材に対して、Spotifyのチーフ・コンテンツ・オフィサーのケン・パークス(Ken Parks)は同社が前向きな見通しであると述べ、交渉プロセスはどの国でも時間がかかることを指摘しました。例えばSpotifyはアメリカに参入するまで2年以上を交渉期間に費やしてきました。
もし意思決定者達がこれまでと全く異なる何かを実行する必要性に直面して、ようやく機が熟したと感じたのなら、彼らは動くでしょう。私たちはその瞬間に日本で近づいていると思います
しかし、世界の音楽市場の中では、日本市場のビジネスツールとしてのCDに対する愛着から、変化には悲観的な考え方もあります。
現在の日本独自の音楽エコシステムでは、多くの企業にとってCDが最も収益性の高い商品です。CDの販売価格は現在でも20ドル以上(2,000円)に設定されています。
コレクション嗜好の強い日本人消費者を狙ったCDの販売戦略によって、例えばアーティストを個別にフィーチャーしたパッケージのベスト・アルバムなどが販売されています。
CD販売を支える戦略で成功したアーティストといえば、握手券の抱き合わせ販売で成功したAKB48がこの戦略の先駆者であることにも記事は紹介しています。
また日本の音楽市場の特異性として、タワーレコードが未だに存在しCDを販売していること、また未だに85店舗も展開していることにも触れています。
問題の1つとして記事が取り上げられているのは、日本のヒット曲をコントロールしている、複雑に組織された多くの企業が、新しい音楽サービスへのライセンスの許諾に非常に消極的な点です。
ソニーの「Music Unlimited」は日本で展開している音楽ストリーミングサービスの1つですが、多くのヒット曲は未だに配信されていません。日本でiTunesは2005年にサービスを開始しましたが、2012年に入ってようやくソニーミュージックの楽曲の配信を開始しました。
元株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)代表取締役社長の丸山 茂雄さんは、ニューヨーク・タイムズに対して「経営幹部の多くは、彼らの在籍期間中に何が起こるのかを心配しています。しかし必ずしもその後に何が起こるかを心配しているわけではありません。」と答えています。
日本市場2014年とその後の見通し
2014年に入り、日本でも「アナと雪の女王」サウンドトラックと、AKB48の「次の足跡」がミリオンヒットとなるなど、過去に無い盛り上がりが徐々に見えています(昨年ミリオンヒットは無し)。しかし2014年上半期の音楽売上げは昨年比3%減少しています。
社団法人日本レコード協会の畑陽一郎さんは取材に対して、「日本のレコード会社は現状のCD中心の市場規模を維持することを望んでいます。そして新しいデジタルサービスへのライセンスを進めることでデジタル音楽市場を成長させようとしています。」と述べています。
ニューヨーク・タイムズの記事は日本の音楽市場を世界中に知ってもらう、貴重な資料です。現に現在(22日)ですでに200件以上のコメントが付き、日本やアメリカ、インド、オーストラリアなどから読者がコメントを残しています。
デジタル音楽中心に移行した音楽市場は、徐々に勝者を生み出し始めています。フィジカル中心だけの販売手法にぶらさがり続けることは、音楽を所有するモデルから「アクセスする」モデルへと移行しているデジタル時代の中で、消費者に音楽の魅力を伝えにくくしています。CDプレーヤーの付いていないPCやMacbook、iPhoneを持つ消費者に現状の手法で音楽を聴いてもらうことはほぼ不可能に近いといっていいでしょう。CDを買っている消費者も去ってしまう危険性もある中で、この問題を解決するには、早急にデジタルサービスを導入し日本独自のエコシステムを再構築することが、未来への道だと感じているのですが、みなさんはどう思いますか?
簡単に結論がでることではありません。ですが、ニューヨーク・タイムズのような大手メディアが今後も報じてくれることでユーザーの議論が活性化して、デジタル化への期待を高めてくれることに期待したいと同時に、もっと日本の情報を世界とも共有せねばと情報発信の重要性を痛感してしまいました。
ソース
CD-Loving Japan Resists Move to Online Music(9/16 New York Times)