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ロンドンに拠点を置く、ソーシャル音楽サービスの開発を目指してきた音楽スタートアップ「Crowdmix」が、ビジネスの継続が困難と判断し、破産手続きに入り事業を縮小することが明らかになりました。

Crowdmixは、音楽リスナーをつなぐ”音楽のソーシャルネットワーク”アプリを2014年から開発し、今年5月にようやく招待制でアプリをローンチしたばかりでした。ロンドンのグーグル・キャンパスに拠点を置いていることや、これまで1400万ポンド(約1850万ドル、約19億円)の資金調達に成功、さらに2000-3000万ポンドを調達するとも噂されてきたことで、今最も注目を集めていた音楽スタートアップの一つで、2015年10月にはユニバーサル・ミュージック・グループのグローバル・デジタル・ビジネスの責任者だったロブ・ウェルズ(Rob Wells)が米国事業のトップに就任したニュースも、勢いに拍車をかけていました。

しかし今年に入って状況が一変。共同創業者のイアン・ロバーツ(Ian Roberts)は財務問題が表面化した後の6月に同社を去っています。またCrowdmix社内では160人いた総従業員の約30人を解雇しコストカットを目指していました。しかし新たに資金注入に失敗し、未払いの給料を含む事業の継続が困難になったことで、経営陣が今回の決定を下しました。

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音楽スタートアップのジレンマ

SpotifyやApple Musicなどデジタル音楽サービスが世界の潮流となっている影響から、数多くの音楽スタートアップへの投資やメディアからの注目が高まり、音楽やエンターテインメントでの起業が起こりやすい環境が徐々に出来つつあります。しかし、大成するビジネスモデルや収益化への道は未だに険しく、スケールできるスタートアップは未だにわずかなのが現状です。

特に「ソーシャル・ネットワーク」にフォーカスした音楽アプリやサービスは、FacebookやTwitter、Instagram、Snapchatとの連携が欠かせない一方で、彼らが直接的な競合になってしまいユーザー獲得が困難になってしまう、音楽スタートアップのジレンマを抱えています。

小さなコミュニティや、ロイヤルユーザーを重要にするサービスやスタートアップであれば、ファン同士の高い熱度とアクティブさを保ちやすくできるはずです。しかし、注目度も資金額も大きなスタートアップであればあるほど、早くスケールすることが一つの大きなゴールになることに間違いありません。例え、ワン・ダイレクションのような人気アーティスト好き同士が集まりコミュニケーションするサービスを作ったとしても、Twitter内で会話する以外の楽しみ方や機能がなければ、アクティブなコミュニティを維持することが難しくなるはず。そのアーティストがSNSで情報発信をしないアーティストであるなら、クローズドなコミュニティがサービスやアプリで成立しますが、なら「どうすれば既存のファンを出来たばかりの新製品を信頼してもらい使ってもらうのか」、と新たな疑問も浮上し現実的ではありません。

アップルのApple Musicに存在する(そして今後消える予定の)「Connect」や、レディーガガが出資したコミュニティサービス「Backplane」も、スケールに問題があったことと、今回のCrowdmixの失敗はリンクするはずです。

ソーシャル・ネットワークを主体にした製品やサービスを目指す音楽スタートアップは、アーティストやユーザー同士をコミュニケーションさせたいというアイデアを抱きながら、解決できない問題に常に直面していると感じます。

別の場所で、日本の音楽スタートアップの未来についてさまざま視点から考え、議論を深める機会を作ってもいいのではないでしょうか? ぜひ興味がある人が読んでいれば、継続して議論したいテーマですのでご連絡お待ちしています

いつかはこの問題も解決するスタートアップが出現するか、「ソーシャル機能」と割りきった製品開発になるのか。それとも今までに無い製品が結果として問題を解決してくれるのか? 音楽スタートアップの領域で新たなトレンドが生まれてくれることに期待したいです。

ソース
How Crowdmix collapsed into administration after raising over £14 million (Business Insider)


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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