アマゾンは音楽ストリーミングとダウンロードストアを運営する「Amazon Music」サービスに、メジャーレコード会社ワーナーミュージック傘下のワーナー・ブラザース・レコードの前社長ダン・マッキャロル(Dan McCarroll)が、オリジナル・アーティスト・リレーションのグローバル責任者(Global Head of Originals and Artist Relations)に就任する人事を発表しました。

Amazon Musicにおけるマッキャロルは、アーティストやレコード会社、音楽業界とアマゾンの関係を構築して、音楽と音声のイノベーションを融合したコンテンツの戦略や、世界独占配信、マーケティング戦略を強化していきます。

マッキャロルはAmazon Musicで、プログラミング・コンテンツ戦略のグローバル責任者(Global Head of Programming and Content Strategy)であるアレックス・ルーク(Alex Luke)にレポートします。

Dan McCarroll (President EMI recording)
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マッキャロルの経歴は、2013年から2017年7月までの4年間ワーナー・ブラザース・レコードの社長を務め、それ以前はキャピトル・レコードの社長を務めていました。

彼が就任したワーナー・ブラザース・レコードは、親会社のワーナーミュージックによるパーロフォン(Parlophone)の買収が完了した直後で、デイモン・アルバーンやリリー・アレンなどの新作や、BlurやGorillaz、レディオヘッド、Kraftwerk、ピンク・フロイドなどのカタログの取扱いを始めてレーベルビジネスが拡大し始めた時期を迎えていました。

ワーナー・ブラザース・レコードの社長時代には、クリエイティブの戦略とA&Rの統括も担当。

彼の在籍期間中の実績としては、2016年から2017年にかけてグリーンデイの『Revolution Radio』とリンキン・パークの『One More Light』がビルボードのアルバム・チャートで1位を獲得。

その他にも2017年にGorillaz、プリンス、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、Mac Miller、Mastodon、Fleet Foxes、マイケル・ブーブレ、The Head & the Heartのアルバムがビルボード・チャートでトップ10入りを果たすほど、アーティストをヒットへと導き、レーベルビジネスを成長させてきました。

就任についてマッキャロルは次のようにコメントしています。

短期間で急成長を遂げたにもかかわらず、お客様のためにイノベーションを続けているAmazon Musicにこのタイミングで入社できるのをとても嬉しく思っています。このすばらしい、情熱を持ったチームの一員として、クリエイティブ コミュニティと一丸になり、最高の音楽体験をお客様に提供していくことを楽しみにしております

アマゾンは音楽ストリーミングの黒船だった

いまアマゾンは、定額制音楽ストリーミングで第三勢力になりつつあります。マッキャロルという音楽業界のベテランの指名は、彼らの音楽戦略を今後さらに加速させ、SpotifyとApple Musicを超えるための基盤作りに入ったことを示唆しています。

音楽・エンターテインメント業界を専門にするリサーチ会社「MIDiA Research」が昨年10月に発表したレポートの一部がこちら。

Amazon Musicはグローバルで、Spotify、Apple Musicに次いで推定定額ユーザー数が多いとされる音楽ストリーミングサービスで、定額ユーザー数は推定1600万人を超えたというレポートを発表しました。

これによってアマゾンが定額制音楽ストリーミングの中で、SpotifyとApple Musicの二強に着実に迫り、黒船として成長してきたフェーズからいよいよ抜け出し、音楽ストリーミングの中心的存在の1つへと変わる可能性を示し始めたとレポートでは説明されています。

アマゾンはこれまでに音楽サービスのユーザー数や、Prime会員数を公表したことがありません。

あらゆるアマゾンの数字は一般の目には伏せられるため、どれほどの規模で成長しているかは、一部の業界関係者だけが感じてきたことでした。

黒船Spotifyが日本の音楽文化を救う? 田中宗一郎インタビュー (FUZE)

以前自分が編集協力するカルチャーメディア「FUZE」で、Spotifyの日本における「黒船」的存在価値を解説する記事を掲載したことがあります。

しかし、もはやSpotifyは、グローバルスタンダードであり、「黒船」時代はとうの昔に過ぎ去っているのでした。

業界はアマゾンの音楽ストリーミング戦略と向き合わなければいけない

いま世界的に急成長している音楽ストリーミング・ビジネスにおいて、日本を含む世界の音楽業界が考えるべき1つの可能性は、いかにアマゾンを音楽ビジネスに結び付けられるか、どうかの議論をいつ始めるかではないでしょうか?

アマゾンがアーティストやレコード会社、コンテンツホルダーに提供するプラットフォーム力やマーケティングパワーは、SpotifyともApple Musicとも異なりユニークです。

その1例は、Amazon Musicではストリーミングだけでなく、ダウンロードストア、さらにはCDやDVDの販売とも連携が可能にできるため、あらゆるファンのニーズに対応できる横展開を押さえられることが挙げられます。すでにアマゾンは世界最大のCDストアと呼ばれるほど、CDを購入する際の一番のオプションとして認知されており、それは日本でも変わらないはずです。

また「Prime」会員向けの「Prime Music」や、フルカタログを揃えて、誰でも利用可能な「Amazon Music Unlimited」と、同じ音楽ストリーミングでもプレイリストや聴きたい音楽に応じて消費者が選べる選択肢を提供していることも、アマゾンのユニークな音楽戦略です。

もう一つ、アマゾンのポテンシャルは、スマートスピーカー「Amazon Echo」と音声AI「Alexa」との音楽ビジネスが挙げられます。独自ブランド製品と、そこに付随する自社開発の音楽ストリーミングサービス、そしてそこから消費者に音楽を届けるAI(とAlexaを軸としたサードパーティ製品)。音楽業界で今後もアマゾンが着実に成長する競争力がAmazon EchoとAlexaに眠っていることを考えると、その将来性は計り知れません。

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アマゾンが今後の音楽業界にもたらす最大のイノベーションかもしれないスマートスピーカーと音声AI。 好きな音楽が呼び出せたり、気分に合わせて音楽を再生してくれる対話型スマートスピーカーは、音楽再生のユーザーを拡大させる可能性を秘めています。

ストリーミングでの音楽再生体験にAIを活用する体験の創出は、単純な音楽再生からレコメンデーション、プレイリストの自動生成などさまざまな応用が期待されており、こうしたAIによる音楽業界の活性化のフロントランナーは現段階ではアマゾンだと言って間違いありません。

マッキャロルの指名のタイミングは、アマゾンがAIを使った音楽消費体験を含めて、ファン、アーティスト、音楽業界がつながるエコシステムを育てる戦略に本気で注力するため、動き出したサインだと考えることができそうです。

オリジナルコンテンツの提供に向けたアーティストリレーションというプラットフォーム内での動きでは、Apple MusicにはBeats by Dreの共同創業者で音楽プロデューサーのジミー・アイオヴィン(Jimmy Iovine)や、Spotifyでアーティスト向けサービスを統括するトロイ・カーター(Troy Carter)、YouTubeのリオ・コーエン(Lyor Cohen)と、世界でヒットを作り、ビジネスを生んできた音楽業界の人間をアーティスト戦略の中心に置く組織作りがストリーミング業界では当たり前となっています。

アマゾンにおけるマッキャロルが担う役割は、まさに他社が行っている音楽業界とプラットフォーム戦略をつなぎ、エコシステムを作るかの役割が期待されています。

今回の指名を見ると、アマゾンが本格的に音楽業界と接点をつくり、音楽ビジネス拡大のシナリオに向かって動き出したことが見えてきます。2018年は音楽ストリーミングが世界的にさらに拡大すると予想される中、アマゾンがどれほどの音楽消費体験を生み出せるか、興味が高まります。

ソース Amazon Music Hires Ex-WBR President Dan McCarroll as Global Head of Originals, Artist Relations (Billboard)

Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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