Wikipedia以外では、世界最大の音楽情報データベースである「Discogs」が2017年の活動レポートを公開しました。

http://discogs.com/

Discogsを説明すると、ユーザー参加型の音楽データベース・コミュニティサイトです。世界中のあらゆるリリース情報、アーティスト情報がフォーマット別に執筆・編集・更新され続けている巨大なサイトとして2000年から運営されています。

音楽のリリースに関する情報や、アーティストのクレジットを探す場合は、Discogsに行く回数が圧倒的に多いという人も多いはず。特に、日本語の音楽・エンタメ情報がアップデートされず貧弱なままのWikipediaに比べれば、多少英語に抵抗がない人にとって、音楽に限れば必要な情報を探すのにDiscogsほど便利なツールはありません。

Discogsのデータベースに新しく追加されたリリース情報は1,360,424作品。2016年の1,305,862作品から4.18%増加して、約5万作品が新規に加わりました。最も増加が顕著だったリリースフォーマットはCDで22.94%、次いでカセットの12.13%となっています。

気になるアナログレコードの推移は示されていませんが、2017年のフォーマット別追加チャートを見ると、Discogsでは最も人気のフォーマットに変わりがないようです。

ユーザーが所有する作品の中で、最も人気のジャンルは「ロック」「エレクトロニック」「ポップ」という並びに。

最も人気のタイトルは、1位が1973年リリースのピンク・フロイドの『狂気』(The Dark Side of the Moon)。2位に1967年リリースのザ・ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band)。3位が1975年リリースのピンク・フロイドの『炎〜あなたがここにいてほしい』(Wish You Were Here)。

Discogsが運営する中古レコードの転売サイト「Discogs Marketplace」も昨年は好調で、2016年から売上高が20.42%増加。特にアナログレコードの売上が前年比18.81%伸び、売られた枚数は7,949,932枚に上ります。

最も高値で売却されたレコードは、ザ・ビートルズの「Love Me Do」の7インチプロモ盤で14,757ドル。日本円で約158万円。2位はセックス・ピストルズの「God Save The Queen」7インチで14,690ドル(約157万円)。3位はビリー・ニコルスの「Would you believe」LPが10,324ドル(約11万円)で売買されています。

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以前、Discogs創業者のケヴィン・レヴァンドフスキーにインタビューをさせて頂いた時に話に出たのが、Discogsの事業内容についてで、これほどまで大きなデータベースを抱えているにも関わらず、商用化よりもデータベースとコミュニティの運営がプライオリティだという彼の姿勢でした。

元々Discogsがアナログレコード好きのレヴァンドフスキーの趣味で始まったサイトでした。それが、ユーザー(Discogsではコントリビューターと呼ぶ)の協力で成長してきたことから、使ってくれる音楽好きのためのDiscogsを今も作ろうとしている姿勢には頭が下がります。

ですので「誰のためのDiscogsか」という質問にもユーザーのためと純粋に答えられるサービスは最近では滅多にお目にかかれなさそうです。

もちろんDiscogsにもビジネスはあります。

例えば、Discogs Marketplaceや楽器や音響機材の転売マーケットプレイス「Gearogs」、アナログレコードに特化したイベント「Crate Diggers」を世界各地で開催するなど、音楽好きが集まるコミュニティのためのサイトやリアルのイベントを立ち上げてきました。

2018年1月には250万ドルの資金調達に成功。元ワーナーミュージック・グループの取締役ヨルグ・モハウプト(Jörg Mohaupt)がDiscogsの取締役に加わりました。けれど、これが創業以来初となる外部からの資金調達でした。

つまりDiscogs運営チームは、サイトに集まるユーザーからビジネスに進展させようという戦略には見向きもしないのです。

なぜこんなサービスが生き残れるのか?と思えば、現状でDiscogsに並ぶ競合は市場に見当たりません。「音楽+データベース」というアイデアやユーザー参加型コミュニティサイトという考え方は過去にもありましたが、Discogsほど成功しているサイトはあるのでしょうか?

もう一つは、投資家を経営に入れなかったことで、売上パフォーマンスや有料課金や広告ビジネスといったリターンが求められる成長戦略を必要としてこなかった経営体制の存在も大きかったと感じます。

すでにかなりの数の日本人アーティスト情報やリリース情報もDiscogsでは執筆されています。

何がいいたいかと言うと、音楽+データベースの日本版は現在どこにも存在しません。従って情報が集約されるだけで、音楽情報の蓄積すなわち音楽文化のアーカイブ化に繋がり、音楽情報を調べたい時に調べることができる利便性も生まれ、さらには音楽好きが集まれば集まるほど、情報も増えていくスキームで巨大な音楽コミュニティが作れる可能性があるのではと考えが浮かびました。

ストリーミングサービスが日本に定着した時、「音楽情報」は今よりも圧倒的にニーズは高まるはず。もはやストリーミング拡大は世界的にも明白で、日本にその時が来てから準備をするのでは遅いのです。

情報のデータベースの便利なところは、情報にアクセスすることで、周辺情報に触れたり、関連するコンテンツが見つかったり、人づてで情報をギブアンドテイクできるという、非常にインターネット的な広がりがあることです。

ユーザー数やアクセス数、再生数を重要とする流れに入った音楽業界において、コミュニティの拡大にゆだねられたDiscogsは時代に反対する流れの中を泳いでいるように感じます。

 

ソース
State of Discogs 2017 (Discogs)


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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