広告・マーケティング業界の大手メディア「AdAge」は、最も業界でインパクトを残したクリエイティブ・エージェンシーを選出する毎年恒例のリスト「A-List」で、定額制音楽ストリーミングサービス「Spotify」のクリエイティブチームを「インハウス・エージェンシー・オブ・ジ・イヤー」に選び、音楽サービスが実現したクリエイティブキャンペーンに最高の評価を与えています。

Spotifyのクリエイティブチームを率いているのは、元コカコーラのグローバル・クリエイティブ・ディレクターで、Spotifyのブランド&クリエイティブ戦略担当の副社長ジャッキー・ハントス(Jackie Hantos)。

そして元Razorfishのグループ・クリエイティブ・ディレクターで、Spotify初のクリエイティブディレクターとなったアレックス・ボドマン(Alex Bodman)がリードしている社内チームです。

2017年にSpotifyのチームが達成したクリエイティブは、人気プレイリストを活用したライブツアーやインスタレーション、政治的なアクションを取るアーティストの支援など、多岐に渡ります。


AdAgeが評価する代表的なキャンペーンは、Spotifyで最も人気のあるヒップホップ・プレイリスト「RapCaviar」を軸にしたキャンペーン。いくつかの事例をご紹介します。

RapCaviar Pantheon

Spotifyは、近年のヒップホップ・シーンでブレイクスルーした新人アーティストたちの功績を祝う「RapCaviar Pantheon」プログラムを開催。

このキャンペーンは新人発掘と音楽との出会い創出を一貫したテーマとして掲げるSpotifyらしさが示された内容に仕上がっており、ニューヨークのブルックリン美術館にて、Spotifyによって選ばれた3人のアーティスト(Metro Boomin、SZA、21 Savage)の3Dプリントされた等身大の石像を展示、新人アーティストが音楽シーンの与えた影響や、彼らの音楽を永久に残る「アート」として評価する意味が込められており、新しい価値観を持ったクリエイターの重要さを伝える、ビジュアルキャンペーンでした。

「RapCaviar Pantheon」のPRムービーの監督は、ドレイクの「Hotline Bling」やリアーナの「Work」などのビデオを手掛けるカナダ出身の映像監督「Director X」が務めているところも見所。

RapCaviar Live

Spotifyは昨年、人気のプレイリストを軸としたライブイベントの開催を開始しました。

特に高い注目を集めたのは、「RapCaviar」を中心にSpotifyとライブ・ネイションが共同主催した6都市でのヒップホップ・コンサートツアー「RapCaviar Live」で、これまでグッチ・メイン(Gucci Mane)、Lil Uzi Vert、Playboi Carti,、Dipset、Mike WiLL Made-It、Cardi B、A$AP Mobなど、人気アーティストが都市別に登場してきました。

これまで「RapCaviar Live」はアトランタ、トロント、シカゴ、ニューヨーク、ヒューストン、ロサンゼルスで開催されるほど、アメリカの音楽都市に広がっています。

I’m with the banned

こちらは、RapCaviarとは別動、プレイリストやオリジナルコンテンツを活用して社会問題を音楽視点から向き合った取り組み。

Spotifyはトランプ大統領の移民政策に反対するミュージシャンたちによる音楽プロテストを支援するオリジナルコンテンツのプログラム「I’m with the banned」を制作。

シリアやスーダン、イラン、リビアなど国際的な問題を抱える国の出身で、音楽制作を続けるアーティストたちの楽曲やストーリーを取り上げたプレイリストやオリジナルの動画コンテンツ、コラボレーション・トラックを通じて、世界中のアーティストや音楽ファンの目をアメリカのマイノリティが抱える移民やLGBTQなど社会問題に焦点を当てる活動も評価の一因となっています。

Spotifyが達成した「RapCaviar」プレイリストを使って、音楽カルチャーと社会、ファンとアーティストを近づけるアプローチは、プレイリスト文化を推進してきたSpotifyならでこそ実現できたと言えます。 

音楽プレイリストの活用がいかに生まれたかについて、ハントスは「(「RapCaviar」プレイリストは)アーティストとコアなヒップホップ・ファンをつなぐ可能性として、Spotify社内でサブブランドをいかに構築するかが戦略的プライオリティとなった」と説明し、RapCaviarのプレイリスト・キュレーターであるSpotifyのヒップホップ部門グローバルヘッドのTuma Basaと綿密に連携し、ブランド・アイデンティティをインハウスのデザイナーと作ったと言います。

ボドマンは、「いかにしてマーケティング施策を感じさせないアクティビティの開発することを議論し、音楽カルチャーへのトリビュートを示すさまざまな方法を考えた」と述べています。

Spotifyのクリエイティブチームで働くことについて、チームを統括するリーダーのボドマンは才能ある人材をインハウスに集めることはチャレンジだったと言います。

業界で最も大胆な考えの持ち主で、異なる環境で働くことにオープンマインドな人材を探している。以前は夢をプレゼンしている気分でした。今は、多くの人からチームに参加したいと連絡が来るようになったことを誇りに思います

ソース
Spotify Is Ad Age’s 2018 In-House Agency of the Year (AdAge)


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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