YouTubeが開始予定の有料サービスにライセンス契約で合意出来ないインディーズレーベルに対して、所属するアーティストの動画を排除するという噂がネットで広がり、世界のメディアでは議論が起きています。
グーグルがインディーズレーベルをYouTubeから閉め出すみたい(6/21 ギズモード・ジャパン)
YouTube、インディーズレーベルに対し「契約しなければ動画を削除する」と迫る(6/18 Slashdot)
これはフィナンシャル・タイムズのインタビューでYouTubeのコンテンツ・ビジネス・オペレーション担当ディレクター、ロバート・キンセル(ROBERT KYNCL)が「YouTubeはすでにメジャー、インディーズを含むレーベル、ディストリビューターら95%と有料サービスで合意に達したと発言し、一方で合意していない残りのレーベルの動画はYouTubeから消すつもりでいると答えたことが大きな波紋を呼びました。
しかしフォーブス誌では、この状況に言われているほど切迫しているものではないと伝えています。その内容は、一般的にメディアで言われている視点とは少し違った見方を主張しています。以下にフォーブスの記事を抄訳でご紹介します。
原文はこちら
Why YouTube’s Indie Music Brawl Is Not As Dire As It Sounds (Forbes)
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YouTubeはSpotifyやPandoraに対抗する有料の音楽ストリーミングサービスを今夏にリリースする予定です。これまで通り広告が入る無料版と、追加機能が利用できる有料版を統合したサービスになると言われています。このサービス開始に向けてYouTubeはレーベルやディストリビューターとライセンス契約を結び、ユニバーサルミュージック、ソニーミュージック、ワーナーミュージックを含む大手レーベルやインディーズレーベルとも合意に至っています。
しかしインディーズレーベルを代表する音楽業界団体ImpalaやWINは、先月からYouTubeが提示する契約内容がインディーズレーベルにとって不公平な内容であるとして、契約に同意しない反対の立場を取るスタンスを示しています。YouTubeの有料サービスでは全てのアーティストと権利者にはストリーミング再生されるごとにレベニューシェアが平等に行われると言われています。
YouTubeはまもなく反対するレーベルの動画をプラットフォームから削除することを認めています。これは有料サービスだけでなく、無料版でも同様です。従って反対するレーベルに所属するアーティスト、この場合はXL Recordingsのアデルやアークティックモンキーズ、The XXなどの動画が対象になる可能性が出てきました。
削除対象になるコンテンツはレーベルまたはアーティストの公式アカウントで投稿された動画になります。
現在VEVOにアップされている動画は、反対するレーベルに所属しているアーティストの動画でも、今後もYouTubeに残ります。VEVOのスポークスパーソンがフォーブスに伝えています。
もしYouTubeユーザーが独自にアップした著作権保護されているコンテンツは、今後も表示される可能性が高いとYouTubeのスポークスパーソンはコメントしています。しかしこれらの動画はレーベルやアーティストのマネタイゼーションの対象(YouTubeパートナー・プログラム)にはなりません。さらに著作権侵害で削除される可能性もあります。現在権利者は、YouTubeのContentIDシステムによって勝手に著作権保護されたコンテンツがアップロードされたアラートを受け取った後、対象コンテンツを削除するか、広告を付けてマネタイズの対象にするか選ぶことができます。
例えば今「アデル」で検索すると、検索結果に表示されるのはユーザーが勝手に投稿したライブ動画、アデルのVEVO動画「Rolling in the Deep」が表示されます。
状況を更に複雑化しているのは、アーティストとレーベルの契約内容です。多くのアーティストは国によって異なるレーベルと個別に契約している場合があります。このことから削除対象になる動画も、国によって変わってくる可能性があります。
YouTubeのスポークスパーソンはフォーブスに対して、YouTubeとしてはユーザーが無料の動画を視聴した後で有料サービスを使用してみたところ、求めているモノが(レーベルが同意していないせいで)存在していなかったというユーザー体験だけは避けたいと述べています。
しかし現状ではYouTubeが対象レーベルの動画を削除することな避けられません。そしてそれらは人気アーティストの動画になるでしょう。これはレーベルを同意したくないレーベルを強制させようとするYouTubeの脅迫と受け止められます。ユーザーがアップした動画からのマネタイゼーションのオプションを取り上げることのほうが逆効果です。しかし賛同していないほんの一握りのレーベルを考えると、動画削除するやり方は実際よりもはるかにインパクトが大きいように聞こえてきます。しかし実際にはアーティストの人気コンテンツはユーザーが勝手に投稿しているかVEVOにあるか、ですので今後もYouTubeに残り続けることを意味しています。
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以上がフォーブスの抄訳です。
今回のYouTubeの決断は、ユーザーやレーベルにとって本当はどんな結果になるでしょうか? 上の通りVEVOの動画は今後もYouTubeに残ります。またユーザーが勝手にアップした動画も(違法ですが)少なくとも残ります。そして人気アーティストの多くの動画は、公式アカウントからのアップロード以外に、ユーザーが勝手にアップしている動画です。ですのでこれらの動画が削除の対象でも、ユーザーはYouTubeで見ることは今後も可能と言えます。
またContenIDシステムは今後も利用できるので、レーベルは勝手にアップされた動画を削除することもマネタイズの対象にすることもできます。ですので反対するレーベルも今後YouTubeの有料サービスに参加せずともマネタイゼーションもできるし、動画をアップすること(VEVO経由)もできるというわけです。
ただこのことはレーベルが求めている公平な契約とは別問題で、YouTubeの有料サービスからは反対するレーベルのコンテンツが利用できないことにも変わりがありません。レーベルが求めているのは、インディーズレーベルがアーティストに価値を最大化できる仕組みであり、どうやってアーティストやレーベルがマネタイズする可能性を広げられるかを、これらのレーベル団体は重要視しています。
世界的にユーザー人口が増え続けている音楽ストリーミングサービスのビジネスの可能性は広がり続け、今後はさらに多くのレーベルやアーティストが乗るか乗らないかの決断に迫られると思います。だから僕はもっといろいろな人が議論をしていっていいのではと思っています。分からないまま話題にも取り上げなかったり、いろいろな見方があっていいと思うのです。だからフォーブスのEllen Huet記者のようにオルタナティブなやり方が存在することを書く人も出てきてもいいと思いました。メディアだけでなく、アーティストでもいいですし、別の業界の人でも参加してもらいたいです。ブログでもSNSでも公の場でもライブ会場でもいいので、音楽についての議論を増やしていきたいです。このブログでも少しでもその手伝いができればと思っています。議論することで、今レーベルやアーティストが置かれている立ち位置を把握することも、音楽サービスの目指しているゴールも共有でき、楽しむ側にいるリスナーが状況を確認できることが実現すると思います。
ソース
Why YouTube’s Indie Music Brawl Is Not As Dire As It Sounds(6/18 Forbes)
YouTube to block indie labels as it launches paid music service (6/17 Financial Times)