TIDAL_beyonce_lemonade
ビヨンセが23日、突如新アルバム「Lemonade」をリリースした。今回は、米国のケーブルテレビ「HBO」が新曲60分のショートフィルムが公開された後に、定額制音楽配信サービス「TIDAL」で独占配信が始まった。現在「Lemoonade」が聴けるのは、このTIDALだけとなっている。

今回独占配信を行うTIDALは、ビヨンセの夫であるヒップホッププロデューサーのジェイ・Zが運営する定額制音楽配信サービスだ。ビヨンセはTIDALの共同オーナーも務めている。

#LEMONADE The Visual Album. Available now on BEYONCE.TIDAL.COM

Beyoncéさん(@beyonce)が投稿した写真 –

TIDALは米オンラインメディアThe Vergeに対して、「Lemonade」の独占ストリーミング期間は永久に続くと答えている。この言葉が本当なら、SpotifyやApple MusicさらにはAWAやLINE MUSICなどでの配信は当分実現しないと言える。 TIDALは2月にカニエ・ウェストの新アルバム「The Life of Pablo」を6週間独占的にストリーミング配信を行ったケースがある。その後TLOPはSpotifyやApple Musicで解禁されていった。 TIDALはストリーミング配信に加えて、「Lemonade」のダウンロード販売を一日遅れの24日に開始した。最新アルバムの楽曲とHBOで放送されたショートフィルムがパッケージされ、17.99ドルで購入ができ、さらにTIDALを90日間無料で使えるフリートライアルも提供される。 ニューヨーク・タイムズが、米国時間25日零時にiTunesストアから世界規模でダウンロード販売を開始すると報じたが、未だにiTunesストアでは販売が始まっていない。またタイムズはAmazonも間もなくデジタル・ダウンロードとCDを発売すると報じているが、こちらも未だサイトには表れていない。 TIDALは現在世界40ケ国で展開している。月額料金は、FLAC形式の16ビット/44.1kHzのCD音質で聴き放題できる「TIDAL HiFi」が19.99ドル。通常音質の聴き放題「TIDAL Premium」が9.99ドルで提供されている。そして当然だが、日本からは利用することが出来ないところが非常に残念だ。 今やビヨンセが行う販売戦略は、一人のアーティストがアルバムをマーケティングするレベルを超えて、音楽ビジネスの方向性を左右するほど影響力のある歴史的イベント化しつつある。

Surprise!

Beyoncéさん(@beyonce)が投稿した動画 –

2013年にビヨンセは事前に派手なプロモーションを一切行わず、Instagramに投稿された写真だけでアルバム「Beyonce」をiTunesストアのみで解禁する、これまでにないリリース手法で成功させた。

レディオヘッドの「The King of Limb」(2011年)や、デヴィッド・ボウイの「The Next Day」(2013年)など過去のサブライズアルバムの成功がビヨンセによって現代化され、その後のコンテンツの「独占配信」と「サブライズ・リリース」の原型を形成するに至った。音楽業界、特に音楽ストリーミングサービスにまでも積極的に採用してきた今の流れを考えれば、「Beyonce」はマーケティングや流通といった音楽ビジネスの固定概念を変えた、革命的な一枚だと言えるだろう。「Lemonade」のリリース戦略は、今回どれほどの影響を音楽ビジネスに与えるのだろうか? アップルやSpotifyなどプラットフォームからレーベル、マネジメント会社まで、世界中の音楽ビジネスの関係者によって注意深く分析され新たなトレンドとしてビジネスに結びつけられるはずだ。

同様の影響力は、アデルやテイラー・スウィフトにも言える。アデルは「25」を全ての音楽ストリーミングサービスで配信を控え、フィジカルとダウンロードにフォーカスした。テイラー・スウィフトはSpotifyから「1989」を削除し、競合のApple Musicで配信を始めた。業界を動かすほどの影響力が生まれる時、そこにはアーティストの前例ないクリエイティブな作品と、テクノロジーが必ず共存している。

今回の「Lemonade」ではTIDALの独占配信が戦略の一つに取り入れられた。音楽ストリーミングサービスが競って実践している「独占配信」(Exclusive streaming)は、注目と話題性を集めることに成功できる可能性と、世界規模のファンにリーチが出来ないというリスクの二面性がある。世界中に根強いファンを持つビヨンセは、なぜリーチが限られるTIDALを選んだのか、非常に興味深い。

ビジュアル・アルバム「Lemonade」のリリースは、前回から2年が経ち、音楽ストリーミングが世界で急成長している市場で、はたしてどんな影響を生み出すのだろうか?日本の音楽業界やコンテンツ・ビジネスに携わる人は注目しておく価値があると思う。

ソース
Beyonce’s new album Lemonade won’t stream on other platforms anytime soon(The Verge)

Beyoncé’s ‘Lemonade’ Is Expected to Be Released for Sale on iTunes(NYTimes.com)


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
取材、記事執筆、リサーチ、音楽ビジネスやストリーミング、海外PRに関するコンサルティングのご相談は、お問い合わせからご連絡を宜しくお願い致します。

  • プロフィール
  • お問い合わせ