音楽市場が抱える課題をいかに解決して、ビジネスを伸ばす方法は何が残されているのでしょうか?
2017年から音楽系スタートアップの支援を通じて、音楽業界のビジネス活性化を目指すアクセラレーター・プログラム「Techstars Music」が、2018年度の育成プログラムに参加するスタートアップ10社を発表しました。今回は日本からの参加を含めて、AIから電子チケット、生体認証、ブロックチェーンと先端テクノロジーを応用したサービスの開発を進めるスタートアップが揃いました。
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世界的に影響力を持つアクセラレーター「Techstars」。その傘下で、音楽業界が抱えるビジネス課題の解決や、新規ビジネスの開発を目指す音楽やエンタメに特化したアクセラレータープログラムとして注目されています。
リアルな課題解決でスタートアップと連携
「Techstars Music」には300人以上の音楽業界の経営者たちや技術者たちがメンターとして参加していることが特徴の一つです。
プログラムに参加する起業家やスタートアップは、Techstarsのネットワークを活用して、企業の成長を音楽業界からの視座で計画できます。製品・サービスのリデザインから、業界特有の規制や法律への対応、投資家へのピッチに向けたアドバイスなどを専門家が提供することで、よりビジネスの価値を最大化するスタートアップを音楽業界が育成する仕組みです。
今回のプログラムでは音楽業界やエンターテイメント業界から大手企業がパートナーとしてプログラムに協力を提供しています。 メジャーレコード会社のソニーミューニックとワーナーミュージックを筆頭に、独立系レーベル・音楽出版のConcord Music、マネジメント会社大手のBill Silva Entertainment、Silva Artist Management、Q Prime Management。また、VRゲーム開発で有名なHarmonixや、ロイヤリティ売買プラットフォームを開発するRoyalty Exchangeも参加。さらに、今回から日本企業では初めてレコチョクが参加します。
2018年度のプログラムが先日発表され、選ばれたスタートアップは2月からロサンゼルスで3カ月間のプログラムに挑みます。製品やサービス、ビジネスプランを改良した後、5月には投資家や音楽業界の前でプレゼンを行う「Demo Day」にて投資や事業戦略の今後を審査されます。
参加スタートアップ一覧
Soundcharts
本社:フランス・パリ
Soundchartsは音楽ストリーミングからリアルタイムでリスニングデータを収集して分析する統合型ツールを提供するスタートアップ。2016年にローンチ後、世界25カ国180企業以上に導入されています。
Mighty
本社:アメリカ・カリフォルニア州ヴェニス
2017年7月にローンチしたMightyは、Kickstarterから生まれたスタートアップで、音楽ストリーミングの再生をスマホや通信無しで実現する世界初の音楽再生ハードウェアを開発します。CEOのアンソニー・メンデルソン(Anthony Mendelson)はMightyのデバイスを「Spotify向けiPod シャッフル」と呼び、現在65カ国3万人以上に利用されています。
Spark.dj
本社:アメリカ・ミネソタ州ミネアポリス
Spark.djは、AIを活用してライブDJするアプリを開発。アーティストや楽曲、ジャンルを選ぶことでアルゴリズムがミックスを自動でパーソナライズ化してストリーミング再生します。DJと競合することなく、DJが必要な場面にローコストで手軽に音楽を提供するビジネスを目指しています。
Gimme Radio
本社:アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコ
Gimme Radioはこれまで無視されてきた音楽ジャンルにフォーカスして、24時間に至りコアな音楽ファンに向けてテイストメイカーやDJが選曲したミックスを提供する音楽配信プラットフォーム。ジャンルは「メタル」で、これまで1000時間以上の番組が制作させてきました。
https://www.gimmeradio.com/#/welcome
Hello Tickets
本社:スペイン・マドリード
ブロックチェーン技術を応用した電子チケットサービス。ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ラスベガス、ロンドンなど大都市で見つけにくいチケットを見つける可能性を高め、ダフ屋や違法転売のリスクを低減します。
Blink Identity
本社:アメリカテキサス州オースティン
生体認証デバイスを開発。2018年1月創業と本当のスタートアップですが、共同創業者でCEOのメリー・ハスケット(Mary Hasket)とCTOのアレックス・キルパトリック(Alex Kilpatrick)は、生体認証ソリューションを作っている企業「Tactical Information Systems」の共同創業者でもあり、軍事産業からIT業界、金融業界まで広域な認証技術開発を行ってきた知見が特徴です。
Endel
本社・ドイツ・ベルリン
個人ユーザーの集中力やリラックス、睡眠解消を手助けする音や、仕事場や公共スペースの最適な立体音響を生成するサウンド環境アプリを開発。レストランやバー、ギャラリー、コワーキングスペースなど公共スペースにおける音響の有効活用を目指します。ロシア人CEOのオレグ・スタビツキー(Oleg Stavitsky)をはじめ、アートディレクターのプロテイ・テメン(Protey Temen)、作曲家のディミトリ・エヴグラフォフ(Dmitry Evgrafov)は、ロシア発で数々の業界アワードを受賞した幼児向け音楽アプリ「BULB Kids」(ベルリンのアプリ開発会社Fox & Sheepが買収)創業メンバーでもあります。
Seated
本社:アメリカ ニューヨーク
悪質な転売、ダフ屋行為を削減する抽選制のオンラインチケットサービス。ファンに対して公平なチケット購入の機会を、アーティストごとや会場別に提供します。SeatedはすでにAndrew Bird、Leon Bridges、Brandi Carlile、Nathaniel Rateliff、X Ambassadorsなどのチケット販売に導入されています。CEOのデヴィッド・マッケイ(David McKay)は以前、AvicciやMacklemore & Ryan Lewis、Sufjan Stevensなどが利用するオンラインチケットサービス「Applauze」で新規事業開発責任者を務めていました。
https://www.seated.com/
Edison.ai
本社:日本 東京
今回のTechstars Musicに日本から唯一参加するEdison.ai。人工知能と画像認識技術を活用して、消費者や製品の情報を収集し、消費者行動や製品購入、広告の分析や効果測定、モニタリングを実現、企業のマーケティングやリサーチ、経営判断を支援するソリューションを提供。日本ではキリンが主催する「KIRINアクセラレータープログラム」に参加
http://www.edison.ai/
SecondBrain
本社:アメリカテキサス州オースティン
人工知能を活用したAI作曲とAIソングライティングを行う作曲コ・クリエーション・ツールを、ソングライターや作詞家、プロデューサーに開発。ラップのリリシスト向けに歌詞創作を支援する「RapGod.ai」を既に恐々
音楽ビジネスの再定義
2017年末に来日したTechstars Music主宰者ボブ・モジドロウスキー(Bob “Moz” Moczydlowsky)にインタビューをさせて頂いた時、音楽ビジネスとはの定義に話が広がりました。
これまで音楽市場、音楽ビジネスと聞くと、CDやダウンロードを売る、または音楽配信を行うといった「アナログ」か「デジタル」かのレーベルビジネスとコンテンツ流通ビジネスの話が主でした。Techstars Musicではその定義をライブやファン体験、アーティストディスカバリー・レコメンデーションなど広域に解釈を広げる事が大事だと語ってくれた事が印象的でした。
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では、楽曲販売ライセンスビジネスを行うレコード会社は、今後どうすれば事業を成長させられるだろう、という議論が湧いてきます。
例えばストリーミング時代が音楽市場にもたらす変化とは何でしょうか? それはコンテンツ流通の進化に他なりません。
レコード会社が抱える膨大なコンテンツ資産は、SpotifyからApple、Amazon、Google/YouTubeの大手プラットフォームのさまざまなサービスに分散して展開されます。さらには、世界的に成長しているNetflixをはじめ、HuluやAmazonなど定額制動画サービスのオリジナルコンテンツへのライセンスビジネスが成立可能な時代も始まっています。
重要なことは、こうしたストリーミングサービスは今後も成長が期待できることで、彼らがこれまでのツタヤやタワーレコードのような消費者との仲介役に取って代わり、直接コンテンツを提供するディストリビューターとなっていることです。データにより膨大な数のユーザーとのつながりを強く保ち、コンテンツを直接届けるための手法は今後も洗練されていくはずでしょう。
こうした雰囲気を感じて現行の市場が抱える未来への課題を見つけられるかどうか、「ズレ」を直すための最短な解決方法を仮説立てできるかどうか、が不可欠になってきます。
「Techstars Music」がスタートアップや起業家、投資家やVCコミュニティ、音楽業界とテクノロジー市場が目指すのは、まさに既存業界の課題発見と、未来への選択肢の拡大です。音楽市場とスタートアップコミュニティとのつながりは、音楽市場の問題に対する意識の変化を促進する潤滑油としての役割に期待が高まります。今すぐにサービス化が難しいプロダクトやアプローチも、3-5年後にはビジネスモデルの中核として収益維持の役目を担うかもしれないと考えれば、半年-1年後だけでなく、数年後先の利益に向けた問題設定は今から始めても遅くないはずです。
ソース
Techstars Music Accelerator Supersonic Startups: The Techstars Music Class Of 2018 Unveiled (Forbes)
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