海外進出の目指す先は「中国進出」へと変わってきました。
成熟した欧米の音楽市場よりもアジア進出、特に中国市場へのコンテンツ輸出は、2018年に日本の音楽業界の中でも議論されているテーマの一つとして注目が高まっています。
それは世界の音楽業界に取っても同じテーマです。とりわけ、長年にわたり違法配信や違法ダウンロードに悩まされてきたレコード会社は、形勢を逆転するため、中国のストリーミングサービスや動画サービスで配信し収益化するための新戦略を打ち出してきました。
そんな中、世界のインディーズレーベルを代表する業界団体「Merlin」は、中国の主要音楽ストリーミングサービス5社と戦略的非独占提携を結んだことを発表しました。
Merlinが提携したのは、中国最大の音楽サービスTencent Musicが運営するQQ Music、Kugou、Kuwo、アリババが運営するXiami (Ali Music Group)、そしてNetEase Cloud Musicの大手5社。
今回の契約によって、Merlinが支援する世界各国のインディーズレーベルは「中国進出」というかつてないビジネスチャンスが実現可能になりました。
QQ Music(Tencent Music Entertainment)
Kugou(Tencent Music Entertainment)
Kuwo(Tencent Music Entertainment)
Xiami(Ali Music Group)
NetEase Cloud Music
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MerlinのCEO、チャールズ・カルダスは今回の提携について次のように語ります。
Merlinにとってエキサイティングなチャプターが始まりました。音楽の歴史上、初めて世界のインディーズレーベルの音源が、中国の主要音楽サービス5社で合法に配信されます。NetEase Cloud Music、Ali Music Group、 Tencent Music Entertainmentの各社が、新規市場を切り開く入り口を開き、よりオープンで透明性があり公平な未来を作るための基礎とインフラを構築するというMerlinの確信と野心に同意してくれたことを嬉しく思います。Merlinメンバーは、世界で最も刺激的で急速の進化する市場の1つで成長を加速するための斬新なパートナーシップの恩恵を受けることができます。
NetEase Cloud Musicの国際事業副社長マシュー・ダニエル(Mathew Daniel)はこう語ります。
今回の提携は中国の音楽にとって重要な一歩となります。Merlinと協力できることを嬉しく思います。中国内でインディーズ音楽コミュニティの音源のプロモーションと収益化を実現するでしょう。中国最大の”洋楽”消費を実現するNetEase Cloud Musicの音楽サービスによって、アーティストは最新の音楽をユーザーに届けながら、新しいリスナーベースを開拓できるはずです。
著作権保護が強まり、急成長する中国の音楽市場
日本における中国の音楽ストリーミング市場の情報は現在も極めて少なく、実際の利用実態はおろか、音楽消費がどのようにストリーミングやモバイルに移行してきたかの推移についても多く知られていません。
それどころか中国の音楽事情は、数年前に日本で話題になった「無料アプリ」の認知度によって、非合法のイメージが強まり、実情ははっきりしないグレーな音楽市場という認識が一気に広まったのは否めません。
日本が中国に対して躊躇する姿勢を見せてきた中、2015年に中国政府が海賊行為への対策として音楽著作権保護法を標準化し、中国内での楽曲配信プラットフォームへの規制を強めたことを機に、中国の音楽市場は大きな進化を遂げます。
Tencentは、QQ Music、Kugou、Kuwoを運営する中国最大の音楽サービス会社「Tencent Music Entertainment」を編成、中国でのライセンス契約でユニバーサルミュージック、ソニーミュージック、ワーナーミュージックのメジャー3者と契約を結び、韓国のYG Entertainmentや台湾のJVR Musicとも配信のライセンス契約を結びます。
2017年12月にはSpotifyと株式交換の戦略的提携で合意。SpotifyはTencent Musicの株式9%、TencentはSpotifyの株式7.5%を保有することとなりました。2018年には企業価値100億ドル(約1兆円)でIPOをめざしていると云われるTencent Musicは現在、月間アクティブユーザーが7億人、有料ユーザーは1億2000万人を抱えていると云われ、世界が中国の音楽ストリーミング市場に注目する要因の一つとなるほど急成長を遂げています。
Alibabaは音楽ストリーミングサービス「Xiami」と「Tiantian」を運営する「Ali Music Group」を2015年に設立。そしてなんと2017年にTencent Musicと「音楽ライセンスの共有」というライバル企業間での連携で合意。Tencentが契約するレーベルの音源をAli Musicにサブライセンスする代わりに、Ali Musicは自社が独占配信する音源をTencent Musicと共有する提携で中国音楽市場のシェアを広げようとしてきました。
ここに月間アクティブユーザー6000万人以上を抱える新興サービス「NetEase Cloud Music」が市場に参入しようとしてきます。
中国のストリーミング市場のシェアは、Tencent Musicが75%を抑えダントツのトップ。NetEaseが16%、Baidu Musicが4%。Ali Musicを含むその他のサービスが4%となっています。
2017年に中国の音楽業界団体が発表した音楽市場のレポートによれば、2016年に音楽市場の規模は48億ドル(約5兆970億円)、前年比8%の成長を実現するほどまで好調を示しました。また2016年の売上高は20.3%拡大、音楽ストリーミングの売上は30.6%増加するほど、音楽ストリーミングが中国の音楽ビジネスを牽引する事業として着実に成長を続けています。
この成長路線の中、カギを握る課題として焦点があたるのは、合法化をさらに推し進めるためのライセンス契約と著作権保護になります。例えばメジャーに所属するアーティストが楽曲を配信する際、中国の音楽サービスでは「独占配信」の傾向が強く、有名アーティストの楽曲が聞けるプラットフォームとしての戦略を事実上Tencentが作り出している状況があります。
その一方で、インディーズレーベルで活動するアーティストが中国で楽曲配信するというケースも増えていると云われています。
このストリーミング急成長の機会を逃すことなく、上記の独占契約やメジャーとの契約に縛られずに、中国人リスナーに楽曲を届け新たなファン層を開拓するという海外展開へのニーズは高まりつつまりあると考えれば、Merlinが中国で楽曲配信に窓口を開いてくれたことは、インディーズレーベルやアーティストにとっても海外展開の大きな兆しと捉えるべきではないでしょうか。
今後、中国の音楽市場に関するニュースは継続して追って行きます。
情報共有していただける方、中国の音楽ビジネスに関心のある方がもしいらしたらご連絡いただければ嬉しいです。
ソース
MERLIN SETS A NEW PATH IN CHINA (Merlin)
Tencent Music, Spotify’s strategic partner in China, is valued at over $12B (TechCrunch)
China’s music market now marching to a new beat (Chinadaily)