アメリカの音楽業界を代表する業界団体の全米レコード協会(RIAA)が2017年のアメリカ国内の音楽市場レポートを発表し、小売市場規模は前年比16.5%増加し87億ドル(約9300億円)となり2年連続のプラス成長を達成し、10年前の2008年の市場規模までようやく回復しました。

アメリカで音楽市場が2年続けて成長し続けるのは、1999年以来初めてです。

小売市場と同じく、卸売市場の売上高は59億ドル(約6300億円)、12.6%のプラス成長を達成しました。

音楽市場の成長を考える時、「音楽ストリーミング」の議論を外すことはできませんが、ただ「音楽を配信する」だけでは市場全体の変化を促進することは不可能。音楽業界がストリーミングに対してどのように変化したか、発表されたレポートを詳細に見ていきたいと思います。

音楽ストリーミングを成功させた国、アメリカ

音楽ストリーミングの普及は誰もが認めるところですが、今やアメリカの音楽市場で売上の約2/3を占める最大の収益モデルとなり、引き続き低迷するCDなどフィジカル音楽とiTunesなどダウンロードの売上低下を補っています。売上高も成長の勢いを維持したまま前年比43%アップし57億ドル(約6000億円)で、音楽市場のシェアは65%まで拡大しました(2016年は51.4%)。

CDやアナログ・レコードなどフィジカル音楽市場の売上は4%減少で15億ドル(約1600億円)、市場シェアは21.8%から17%に低下。アナログレコード市場は好調な業績をまたしても達成し、10%増加の3億9500万ドル(約422億円)に成長を続け明るい話題となっています。

iTunesストアなど音楽ダウンロードの落ち込みはさらに酷く、25%減少で13億ドル(約1390億円)、市場シェアは24.1%から15%まで低下しています。トラックダウンロードは25%減少、アルバムダウンロードは24%減少しました。

特に音楽ダウンロードの業績低迷は深刻で、2011年以降初めて音楽ダウンロードの年間売上をフィジカルが上回るという事態にまで発展しました。「デジタル音楽」のカテゴリーでも、音楽ストリーミングと音楽ダウンロードの立場はわずか数年で逆転してしまい、ダウンロードの売上低迷が市場全体の足を引っ張る形となってしまっています。

2010年代に入り、いつのまにかアメリカは「音楽ストリーミング大国」となり、音楽ストリーミングが新たな音楽ビジネスの主役であることを巨額の売上という実績で示すまで成長していたのです。

業界から起こす音楽ストリーミングへのパラダイムシフト

ここで注目すべきは、アメリカがいかにして「音楽ストリーミング」を市場に浸透させたかで、その背景には音楽業界各社が収益構造モデルをCD・ダウンロードのビジネスから音楽ストリーミング中心の新しいビジネスへシフトしたことが市場全体の成長に直結していることです。

定額制音楽ストリーミング市場が成長した背景には、SpotifyやApple Musicなどの大々的なマーケティング戦略とユーザー獲得合戦は無視はできませんが、主にメジャーレーベルや音楽出版社、アーティストとマネジメント会社などが音楽を配信する仕組みをストリーミング中心に転換させた業界内でのパラダイムシフトが成長の大きな要因です。

アメリカの音楽業界では、音楽ストリーミングのビジネスモデルを次の3つのカテゴリーに分けて指標として動向を細かく見ています。

SpotifyやApple Music、Amazon Music、Google Play Music、Deezer、Tidalなどの定額制音楽ストリーミング。PandoraやSiriusXMなどネットラジオを含むラジオ型音楽ストリーミング。そしてYouTubeやVevoなど広告モデルの音楽ストリーミングの3種類にビジネスをRIAAが分類し、各カテゴリー別の売上推移を出しています。

特にアメリカでは「定額制音楽ストリーミング」への期待が大きく、業界の取り組みによって市場最大の収益源にまで成長させてきました。

2017年の定額制音楽ストリーミングの売上高は41億ドル(約4380億円)とフォーマット別で最大規模となる市場シェア47%を達成しました。定額制音楽ストリーミングの有料ユーザー数は56%増加して3530万人。2016年の2270万人から1年で1260万人を獲得しました。

RIAAでは2016年から定額制音楽ストリーミングサービスを新たに定義付け、使用できるデバイスや再生できる楽曲カタログを制限する限定サービス「Limited Tier」と、機能やカタログを完全に利用できる「フルサービス」と2種類に定額制音楽ストリーミングを区別しています。

「フルサービス」の売上は35億ドル(約3742億円)で56%増加となり、最も好調な売上を示しました。

限定サービス「Limited Tier」のカテゴリーにはAmazon Prime、Pandora Plusなどが含まれ、売上高は5億9160万ドル(約555億円)で前年比124.6%増加。前述の有料ユーザー数はこの限定サービスのユーザー数を含みません。

広告モデルの音楽ストリーミングサービスの売上は35%増加して6億5900万ドル(約705億円)。

ラジオ型音楽ストリーミングサービスの売上は5%減少して9億1400万ドル(約978億円)。デジタル使用における著作権使用料を徴収する非営利団体「SoundExchange」が利益分配するネットラジオサービスやSiriusXMなど大手ネットサービスがこのカテゴリーでは主要な売上を記録しています。

ビジネスモデルを進化させたアメリカが音楽ストリーミングで勝利した

RIAAのCEO兼会長を務めるキャリー・シャーマン(Cary Sherman)の分析では、アメリカの音楽業界は定額制音楽ストリーミングへ業界構造を移行させたことに加えて、アーティストたちとの関係性を以前よりも強めてきたことが成功の大きな要因だと説明しています。

特にレコード会社は数年に渡る音楽不況の時代にも耐え、音楽ストリーミングサービスのエコシステムを受け入れ、アーティストたちの作品を配信するための組織作りやシステム構築に苦戦しながら取り組んできました。

シャーマンが音楽業界の進化として挙げる指標は、レコード会社の新人発掘の成功事例です。

2017年だけでも、アメリカでアルバムセールスが「プラチナム」(100万ユニット以上)を超えた新人アーティストはKhalid、「ゴールド」(50万ユニット以上)を達成した新人アーティストは、21 Savage、ブレット・ヤング(Brett Young)、ハリー・スタイルズ(Harry Styles)、ルーク・コム(Luke Combs)、Russ、SZAと6組誕生しました。

トラックセールスでも「プラチナム」所謂ミリオンヒットを達成した曲は11曲あります。

400万ユニット超えのトラックセールスを記録した大ヒットKhalidの「Location」を含めて、300万ユニットを超えたのはAmineの「Caroline」、Cardi Bの「Bodak Yellow」、James Arthurの「Say You Won’t Let Go」、ジュリア・マイケルズの「Issues」、Kyleの「iSpy feat. Lil Yachty」、Young M.Aの「Ooouuu」の6曲のヒット作品をアメリカの音楽業界はリリースすることに成功しました。

デジタル音楽プラットフォームが乱立する中、音楽をSpotifyやApple Musicで公開するだけの手法はもはや効果的な音楽配信とはいえず、エンタメコンテンツや情報が増え続ける2010年代では埋もれていくコンテンツの一部してスルーされる可能性がより大きくなってきたことは、アーティストやプロデューサー、ソングライターにとってもマネタイズする機会が失われることを意味します。

こうした新しい時代の課題に対してレコード会社は「音楽ストリーミング・ファースト」の仕組みを受け入れ、プレイリストやサブスクリプションの中からヒットを作る、アーティストをブレイクさせることに注力し始めます。積極的に新人アーティストや無名アーティストをプッシュしようとするレコード会社の考え方は、アーティストや小さなレーベルにとって音楽ストリーミングに埋もれがちな作品を発掘してもらうためのプラスに働き、レーベルにとっても音楽ストリーミングのリスナー層を獲得し、より多くの音楽を再生してもらうことへと繋げられます。

音楽チャートの音楽ストリーミング合算

新人育成と作品のヒットへの注力で無視できないのは、音楽業界の指標の進化です。特にRIAAを始めとする音楽業界の働きかけに合わせるように、2014年には音楽チャートを運営する「ビルボード」がアルバムチャートとトラックチャートにセールス、ラジオでのオンエアに加えて、音楽ストリーミングの再生数を換算する合算チャートへと移行を始めます。従来のカウント基準である1アルバム=1セールスに加えて、アルバムから10トラックダウンロードを1ユニット、アルバムから1500回のオーディオストリーミングまたは動画ストリーミング再生を1ユニットで算出する新たな換算方式を導入し、リスナーや消費者の実態に基づいた音楽消費をデータに反映させています。

前述の「プラチナム」「ゴールド」ステータスも上記のカウント方法を導入しています。そのため、セールスだけでなく音楽ストリーミングでの配信と連動した総合的なランキングを音楽業界全体が導入し始めているのです。

2014年という年を振り返ると、アップルが音楽ストリーミングに向けて準備を始めた年であり、2013年12月にはビヨンセのアルバム『Beyoncé』がiTunesストア限定でプロモーション無しに独占配信された新しい手法に注目が集めリ、U2がiPhoneユーザーに対してアルバム『Songs of Innocence』を9月に無料配信する手法へとつながります。

音楽業界が音楽ストリーミングやデジタルダウンロードでの限定配信を基準として導入するまでに最も大きな影響を与えたのは、2013年にジェイ・Zがサムスンと組んでアルバム『Magna Carta Holy Grail』をスマホユーザーに先行配信し公式リリース前にミリオン(100万ダウンロード)を記録したことが、業界がヒットの指標を見直すキッカケになったと考えられます

また2013年から2014年にかけてはアーティストがSpotifyや音楽ストリーミングに対して、ロイヤリティ分配システムの合理化と最適化を主張し出した時期でもあり、テイラー・スウィフトがSpotifyのロイヤリティ分配に不満を唱え、全カタログを引き下げたのも2014年11月でした。テイラー・スウィフトは2015年6月にローンチ間際のApple Musicのロイヤリティ分配に関してアップルに改善を求める声明文を発表しています。

オススメ記事:米ビルボード・チャート、2018年よりストリーミングの比重を変更 (Billboard JAPAN)

YouTubeの「バリューギャップ」問題

今後、アメリカの音楽業界は現在の音楽ストリーミングによる業界再編と成長を維持するため、さらなるクリエイターのマーケティングや「定額制音楽ストリーミングサービス」の導入に比重を置くつもりです。

しかしアメリカも現在のままで成長が続くとも思っていません。問題として挙げられるのは、膨大な音楽消費を生み出しているYouTubeなどの広告型音楽ストリーミングやラジオ型音楽ストリーミングが定額制音楽ストリーミングに比べて圧倒的に低いロイヤリティしか分配しない問題を「バリューギャップ」(価値の乖離)として捉え改善に注力しています。

「バリューギャップ」の問題は、アメリカの法律によって定められたロイヤリティの支払い率によって特定のプラットフォームやラジオサービスが守られているため、楽曲が配信されたアーティストやクリエイター、レーベルに分配されるべきロイヤリティ料を平等にしてクリエイターや音楽の価値を守るべきと主張する音楽業界からの強いロビー活動によって、政府や政治家を巻き込んだ新方制定に向けて進展しています。

また音楽業界は1972年以前に録音された作品がデジタルサービスで再生された際にはロイヤリティ支払いを徹底させるよう、現在の米国連邦著作権法を改正するため議会にロビー活動で働きかけています。

RIAA真の目的は音楽業界の繁栄?

RIAAは単なる慈善団体でもありません。

RIAAのボードメンバーを見ればユニバーサルミュージックやソニーミュージック、ワーナーミュージックなどメジャーレーベルの重役が名を連ねています。つまり、RIAAが政治的な動きを見せたり、YouTubeやPandoraなどを敵視して批判することも、全てが音楽市場を成長させるためのゴールであり、音楽業界の人間が利益や報酬を最大化するための活動なのです。非常にアメリカ産業的な連帯感で強固な連携が実現していることもうなずけます。しかし、明確なゴールを目指す時のアメリカの業界ほど、早期実現に向けて機能する可能性が強まります。

Spotifyが上場したことによって、音楽ストリーミングへの注目はさらに広がることが予想される中、この注目と勢いで「定額制音楽ストリーミング」を音楽市場の中心に据えようというところがRIAAやメジャーレコード会社、プラットフォーム側の考えだとすれば、SpotifyやApple Music、Tidalなどを使うアーティストやクリエイター、レーベルにはより多くのメリットを手に入れる可能性を広げることは、業界を俯瞰すれば最善の選択になるはずです。

アメリカが音楽ストリーミング時代のグローバルスタンダードへ

いまや音楽ストリーミング中心のアーティストやクリエイターがアメリカの音楽チャートで上位に入ることは何も珍しいことではなく、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)やテイラー・スウィフト、Migosといったメインストリームから、XXXTenttacionの『?』がアルバムチャート1位デビューするなど、変動が非常に激しくなったことは、音楽ストリーミングによって音楽がリアルタイムで日常的に消費されている市場の変動を忠実に反映しているにすぎません。

ヨーロッパ諸国に比べて、アメリカは音楽ストリーミングサービスで先行していた市場ではなく、Spotifyが上陸したのもヨーロッパでの展開が進んだ数年後でした。その上、アメリカではYouTubeやPandoraといった無料配信サービスが既に定着して、音楽消費の多くを占めていた市場だったことも決して無視できません。

アメリカの音楽市場の成長は、リスナーに聴かせるための手法を音楽業界が進化させることで、音楽市場全体を音楽ストリーミング中心であらゆる基準を見直したことが、大きいと言えます。

アメリカが音楽ストリーミングの国となった今、これから世界の音楽市場もより比重を定額制音楽ストリーミングにシフトする傾向が高まることが予想され、その中でアーティスト、ファン、音楽業界にとってWin-Win-WInな関係構築を目指すことが、音楽ストリーミング時代のグローバルスタンダードとして定着していくはずです。

例えば日本では今後も「音楽ストリーミングは利益率が低い」という課題と不安を常に抱えていくはずです。ですが、「音楽ストリーミングはクリエイターとファンのためにある」という考えが今後は大事になります。音楽ストリーミングの問題点を洗い出して吟味すると同時に、多くの利益がクリエイターに還元されるシステムや手法を同時に考えていくべきで、音楽業界やレコード会社はライブビジネスやグッズ販売に依存しなくてもクリエイターやファンを含めて市場全体が成長できる長期的な考え方を積極的に提案することも今後の役割として重要になってくるでしょう。

日本の音楽市場にもヒントとなることがあるのではないでしょうか?

ソース
RIAA Releases 2017 Year-End Music Industry Revenue Report (RIAA)
Music On The Move (RIAA)
RIAA Recognizes 2017’s First Time Gold & Platinum Recipients (RIAA)
RIAA REPORTS 2016 YEAR-END MUSIC INDUSTRY REVENUES (RIAA)

Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

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