ヒップホップやロックの歌詞解説サイトで「歌詞のウィキペディア」と呼ばれる音楽スタートアップRap Geniusが、音楽出版社の著作権保護を目的とした業界団体NMPA (National Music Publishers’ Association、全米音楽出版社協会)と歌詞のライセンス契約で合意しました。
NMPAは3000以上のメンバーを抱えるアメリカ最大の音楽出版団体です。
NMPAは昨年10月に、ライセンス契約なしで違法に歌詞を掲載しているとして、サイト50個に対してライセンスの締結またはコンテンツ排除を要求する通知を送りました。中でもRap Geniusはその50サイトで最も権利を侵害しているサイトとして名があげられていました。
ライセンス契約によってRap Geniusは過去に許諾なしで掲載された歌詞において出版団体と和解し、さらにRap Geniusは今後歌詞を再掲するライセンスを取得しました。Rap Geniusはすでにライセンス契約を音楽出版業界最大手Sony/ATVと締結しています。
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NMPAのCEO、デヴィッド・イスラエライトは、
今日の発表をとても待ち望んでいました。作曲家の権利を尊重し、彼らの作品に対して公平な支払いを行うRap Geniusは称賛に値します。
とコメントしています。
Rap Geniusは2009年にスタートアップインキュベーターY CombinatorでMahbod Moghadam, Tom Lehman, Ilan Zechoryの3人が始めた音楽スタートアップで、ヒップホップやロックの歌詞やスポークンワードをユーザーがウェブ上で独自の解説を追加し編集できるウィキ歌詞サイトです。
Rap Geniusの共同創業者Ilan Zechoryは昨年、排除申請を受けて「全ての作曲家が参加でき、RapGeniusのナレッジ・プロジェクトから利益を得られるようにするため、NMPAと話し合いができる日を楽しみにしている」とコメントしていました。
Zechoryは今回のライセンス契約の合意をうけて
NMPAのメンバーは、世界で最高のソングライターを代表しています。Rap Geniusは彼らのようなソングライターが作品を披露し、これまでにない手法で最も熱狂的なファンとインタラクションを行うことを可能にします。このパートナーシップを実現できてとても嬉しく思います。
と声明文を発表しました。
Rap Geniusは、NasやRZAなど人気アーティストが認証アカウントを持っており、歌詞でファンとのコミュニケーションを実現するプラットフォームになっている注目の高いサイトです。また有名投資会社Andreessen Horowitzが1500万ドル(約15億3000万円)を投資、さらに2014年始めにはモバイルアプリもリリースするなど勢いのある音楽スタートアップです。
この契約は音楽出版業界にとっては、デジタル音楽との有効的な共存関係を示す1つのモデルケースです。音楽の楽しみ方がダウンロードだけでなく、動画やストリーミングなど選択肢が広がる今の時代、歌詞で音楽を楽しむモデルは、既存の音楽ビジネスモデルでは実現できなかった収益源、プロモーションの機会、ファンとのコミュニケーションの場を作曲家やアーティストに生み出します。
訴訟や削除申請で権利を守りたいと思う人や団体も未だに多いと思います。しかし現実では、歌詞ビデオが人気を集めるように、歌詞を通じて知らなかった音楽を知りたい音楽好きは確実に存在します。これをチャンスを捉えビジネスに変えていくイノベーションが、音楽業界でまたはIT業界で生まれるかが、市場全体が成長するカギになるでしょう。
ソース
Rap Genius and NMPA Announce Licensing Deal(5/6 Pitchfork)
NMPA, Rap Genius Announce Agreement!(Rap Genius)
When Lyrics Get Posted Online, Who Gets Paid?(5/9 NPR)