海外から音楽とブランドの面白いケーススタディをご紹介。
飲料ブランドのドクターペッパーは、ロサンゼルスのハリウッドにレコーディングスタジオを設立し、著名なプロデューサーや新人の作品を制作、リリースまでを手がけるキャンペーンを実施します。
これはドクターペッパーのマーケティングキャンペーン「One of a Kind」シリーズの一貫で、雑誌「COMPLETX」やComplex.comなどライフスタイルメディアを運営するComplex Media Groupとのパートナーシップで実現しました。
キャンペーンでは5月14日にウータン・クランのリーダーRZAプロデュースの4トラックEP「Only One Place To Get It」をリリースを皮切りに、6月にインディーズラップデュオThe Hood InternetがEPをリリース、7月16日にはロックグループTV On The Radioのデイヴ・シーテックのリリースが控えています。それぞれのEPは新人シンガーRobert DeLong, Rockie Fresh, Tinashe、RACをフィーチャーしたコラボトラックになっています。
ドクターペッパーはSpotifyやXbox、SPIN、Batangaなど音楽サービスや音楽メディアなどパートナーを通じて、EPを配信しています。
またComplex Mediaでは同社の100以上の広告ネットワークサイト(2014年3月は3360万ユニークユーザー)でOne of a Kindのコンテンツをプロモートして行きます
さらにCOMPLEXは各プロデューサーやシンガーのプロモ動画を制作し、サイト上で公開していきます。
ドクターペッパーは今年に入って音楽のマーケティングを強化しています。最近ではマックルモア&ライアン・ルイスやRomeo Santosとブランドパートナーシップを結んでいます。
ドクターペッパーのマーケティング担当上級副社長Jaxie Altは
私たちはプロデューサーと一緒に彼らが本当に音楽を作りたいと思うアーティストを見つけることができました。
また私たちのブランドを体現し「One of a Kind」の価値を理解している才能ある人たちを集められたことは重要でした。全てのクリエイティブを通じて、私たちはユニークなアーティストのストーリーを届け、プロデューサーとアーティストのコラボレーションプロセスを表現して行きます。
とコメントしています。
ドクターペッパーのOne of a Kindキャンペーンは、ブランドが製品推しの企業目線でのマーケティングより、音楽やミュージシャンとのシナジーを目指したマーケティングに注目しているトレンドを示しています。飲料水業界トップのコカコーラとペプシは、音楽マーケティングを長年実施しており、大物アーティストとのブランドパートナーシップやコンペ、ツアースポンサーシップなどを通じて、ブランドイメージを訴求しています。
しかしドクターペッパーのマーケティングの規模は前途の2社の足元にも及びません。ですので彼らのキャンペーンは大衆向けよりも、ハンズオン的なアプローチでニッチなコンテンツが好きな新しいモノ好きな層へリーチしています。
一般消費者目線で見ていると、アメリカや世界の飲料ブランドには、音楽的なブランドイメージがあり、アーティストの作品やクリエイティブ、ライフスタイルを文脈にブランドを想起させるマーケティングを行っているように思えます。
これまでブランドが関わってきたアーティストのごく一部はこのようになっています。(過去のミュージシャンとのパートナーシップを含む)
コカコーラ:テイラー・スウィフト、Maroon 5、マーク・ロンソン、デヴィッド・ゲッタ
ペプシ:ビヨンセ、ケイティ・ペリー、ニッキー・ミナージュ、One Direction、カルヴィン・ハリス
スプライト:ドレイク
7-Up:シーロー・グリーン
マウンテンデュー:タイラー・ザ・クリエイター、リル・ウェイン
ドクターペッパー:RZA、デイヴ・シーテック、ドクター・ドレー、ピットブル
ちなみにマウンテンデューの二人は、差別問題など過激な映像や歌詞のため、ブランドとの契約を失っています。
タイラー・ザ・クリエイターが監督し、オンエア禁止になったテレビCM
このような戦略ではブランドは、アーティストを軸としたマーケティング戦略を実行することで、消費者は好きなアーティストや音楽を通じて製品やブランドに違和感なく接触させることが可能になります。さらに、ブランドはアーティストの活動やPR戦略に紐付いたマーケティングを共に実行できれば、彼らの発言やニュース性、SNSでの影響力を通じて、単発的なPRやテレビCMよりも効率よい継続的なブランド訴求へとつなげることができます。
アーティストとブランドの間でシナジーを生み出す戦略が作れるようになれば、マスメディアに頼ること無く、今まで以上に音楽を使ったユニークなマーケティングが実現できると思います。それはコンテンツとしての音楽ではなく、アーティストや音楽のストーリーをブランドと一緒にリスナーへ届ける新しいアプローチです。これは音楽で人の行動や意識を変える素晴らしいチャレンジです。音楽大国である日本でも、日本独自のユニークな音楽マーケティングの可能性を探って行って欲しいと願っています。