サブスクリプション型音楽ストリーミングの最大手Spotifyは、アーティストの楽曲を直接ターゲットしたファンのみに宣伝できる、画期的なスポンサード・プロモーション機能をテストしていることを明らかにした。この新機能では、音楽レーベルやアーティスト、ディストリビューターは、スマホアプリを開いた時に表示されるポップアップ型のビジュアル枠を買うことが可能になる。Spotifyは現在、この新機能を米国のレーベルや一部のアーティストに対してテスト展開し始めた。

このビジュアル・レコメンデーションは、これまではSpotifyが注目作品がリリースされる際に、音楽のテイストに合ったファンに対して表示してきたが、今後はアーティストや音楽レーベルがどの作品を誰に表示させるかを選べるという「広告枠」としての選択肢が加わる。

音楽レーベルやアーティストが買ったスポンサード・ビジュアルは、プレミアム会員とフリーユーザーの両方に表示される。

表示されるビジュアルの下部には「Sponsored recommendation」とスポンサー枠であることが明記される。

Spotifyが目指す音楽マーケティング機能

新曲をリリースする際、Spotifyで配信直後から再生数を伸ばしたり、バイラルヒット化させる方法は多岐に渡る。その中の一つで、最も短期的な効果が出るのは、Spotifyの公式プレイリスト入りすることだ。しかし公式プレイリストへピッチする方法は「Spotify for Artists」から直接行う方法のみに限られている。多くの音楽レーベルやディストリビューターが公式プレイリストでのプレースメントを狙っているため、競争も激しい。

また近年では、ユーザーにリリース前の曲を「Pre-save」させる方法も一般的になっている。一度「保存」した曲はリリース日にユーザーへ届けられる。これはiTunesの予約注文(pre-order)と近い。

ストリーミングの「Pre-save」を活用すべき理由は、ユーザーの期待値を高めることができ、作品とのエンゲージメントを上げるためのキャンペーンを事前に展開することが可能になったことにある。

そしてもう一つの理由は、ユーザーを楽曲に接触させることで、Spotifyのアルゴリズムにエンゲージメントを認識させることが、再生させることと同様に重要視されるからである。そのため音楽レーベルやディストリビューターが事前にPre-saveのキャンペーンを展開することが大切になってくる(注:Pre-saveはSpotify公式機能ではない。サードパーティ・サービスが提供するツールで対応が可能)。

プレイリストへのピッチも、Pre-saveも、あらゆるレベルのアーティストやレーベルでも展開することができる。大規模なマーケティング予算を持たない小規模なレーベルやインディペンデント・アーティストも同じだ。これはSpotifyのアーティスト向けにマーケティングツールやデータツールの開発を継続するという企業戦略でもあり、ユニークな価値提案を音楽業界とファンに提供する。

今回発表したスポンサード・レコメンデーションもその一環と言える。

そしてこれは、音楽マーケティングにこれまで大きな予算や費用をかけられなかったインディペンデント・アーティストやレーベルに向けてSpotifyを活用させるためのインセンティブにもなるだろう。

様々なツールをアーティストに提供しながらファンに音楽を届けマネタイズを支援するアーティストサービス戦略をさらに加速させるため、レコメンデーションやアルゴリズムといったSpotify独自のテクノロジーを連携して拡大しようという取り組みの一つとも言える。

SNS広告とSpotify広告との差別化

現在多くのレーベルでは、新作がリリースされた時のプロモーションを、InstagramやFacebook、YouTube、TwitterなどでSNS広告やウェブ広告に投じてきた。SNS広告から音楽ストリーミングへ誘導させ、アーティストのプロフィールやプレイリスト、アーティストのウェブサイトへ飛ばそうとしているが、Spotifyはプロモーションの枠を用意することで、アーティストや音楽レーベルがSNS広告に費やすプロモーション費用と手間数を減らし、Spotifyプラットフォーム内での再生を促進させることが狙いと見られる。

このスポンサード・ビジュアルは前述の通り、プレミアム会員とフリーユーザーどちらも表示できるという大きなメリットがある。もう一つの仕掛けは、プレミアム会員はこのスポンサード・ビジュアルの表示を止めることが選べるが、フリーユーザーは選ぶことができない。

これはウェブメディアのサブスクリプション会員やYouTube Music/Premiumユーザーが、ポップアップ広告や動画広告、プレロール広告を表示させないことと同じだ。

しかしウェブメディアやYouTubeとの大きな違いは、Spotifyの場合、音楽のみが表示されるという点で、ユーザーに全く関連性の無い商材や企業広告が流れて不快な思いをするというユーザー体験はないはずだ。そして、多くのユーザーにとってはSpotifyからのレコメンデーションなのか、それとも音楽レーベルのスポンサード・ビジュアルなのか、意識しないだろう。

Spotifyがこの新機能で強調するのは、このビジュアル・レコメンデーション枠は引き続きユーザーが聴いたアーティストや楽曲のデータに基づいて表示されるとしている。つまりは、今まで聴いてこなかった違うジャンルのアーティストが表示されたり、フォローしていないアーティストのアルバムが毎回レコメンドされるという心配は少ない。

スポンサード・レコメンデーション枠に対して、プレミアム会員からの反応はポジティブだったとSpotifyは述べている。

気になる費用形態はCPC(クリック単価)ベースとなるが、金額などは明らかにしていない。

source:
Brand New Music for You (Spotify)
Spotify now lets artists buy a full-screen ‘recommendation’ promoting their new album (TechCrunch)


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
取材、記事執筆、リサーチ、音楽ビジネスやストリーミング、海外PRに関するコンサルティングのご相談は、お問い合わせからご連絡を宜しくお願い致します。

  • プロフィール
  • お問い合わせ