http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=B–ZARCwSIE

音楽マーケティングが切り開くブランディングの理想形。

ジェイ・Zとサムスンがブランド・パートナーシップを結び、音楽マーケティングを実施することは、以前にこのブログでも触れて来ました。しかし、どれくらい大きな音楽マーケティングの規模になるかということについては予想を派手に裏切られるほど大規模なモノとなりました。

12  Samsung Mobile USA

始まったジェイ・Zのプロモーションは、ブランドとデジタル、ソーシャルメディア、マスメディアを巻き込むこれまでにない世界レベルでの壮大なスケールのアプローチでした。 今回実施された音楽マーケティングは、企業とブランドそしてアーティストの関係、広告、投資、デジタルの活用、マネタイゼーション、ソーシャルメディアの波及効果など、音楽を活用した企業のマーケティングをあらゆる側面から次のレベルに押し上げ、この分野が大きな可能性を秘めていることを証明します。

ジェイ・Zのアーティスト性を最大限に引き出し、デジタル/ソーシャル/マス・メディアを見事に巻き込んだ戦略は、タイアップやCM起用にとどまっている日本企業のマーケティングにとって、非常に大きなヒントを与えてくれるのではないでしょうか? ここではアルバム直前に迫ったジェイ・Zとサムスンの取り組みを順に追って見て行きたいと思います。

サムスンとジェイ・Zがコラボレーション、ブランド価値を拡張するTVCMとコミュニケーション戦略

ジェイ・Zとサムスンがパートナーシップを交渉中、契約金は19億円以上、音楽ストリーミングサービスが関連するとの噂も

バイラル動画

ジェイ・Zは北米プロバスケの最高峰NBAファイナルの放送中に上記の3分プロモ動画を全米地上波でオンエアします。

その中で、4年ぶりの新アルバム「Magna Carta Holy Grail」をリリースすること、リリースは7月4日であること、アルバムにはファレル・ウィリアムズ、ティンバランド、スウィズ・ビーツ(Swizz Beatz)、リック・ルービンと一流チームが参加していることを明らかにしました。

オンエアされたのが上記の動画。この動画はわずか一週間の間に2350万回再生、15万8000回近くシェアされ、最もバズを生んだ動画になりました。

動画の大きな特徴は、サムスンの広告であるにもかかわらず、サムスンの露出が極力少なくなっていることが挙げられます。サムスンのブランド名や製品(Galaxy S4, Galaxy Tab)はチラリと映る程度で、 ドキュメンタリー仕立ての動画のメインは、ジェイ・Zらクリエイターの制作現場 製品や企業の宣伝用に作られた広告動画でも、 ドキュメンタリー仕立ての動画で明らかにしました。

 

音楽アプリによるアルバムの先行リリース

アルバムの正式リリースは7月7日と発表がありました。しかし、ジェイ・Zとサムスンはファンなら絶対に見逃せないユニークで画期的な方法で、アルバムをリリースします。

ジェイ・Zは新アルバム「Magna Carter Holy Grail」を、サムスンのスマホとタブレット(Galaxy S4, Galaxy S III, Galaxy Note II)ユーザー向けに、正式リリースから72時間先行して、7月4日12:01AM(日本時間4日13:01)に配信すると発表しました。

Magna Carta Holy Grail

しかも先着100万人には無料での配信となります。それも米国や一定の国に制限されることなく、世界に向けて配信されます。

サムスンはこのエクスクルーシブなディールを獲得するために、500万ドル(約50億円)をジェイ・Zに支払い、アルバム1枚5ドルで100枚分を買い取ったとウォール・ストリート・ジャーナルが伝えています。

アルバム「Magna Carter Holy Grail」は、Galaxyユーザー向けに専用の音楽アプリを通じて配信されます。音楽アプリのダウンロードは 6/24から始まりました。

ジェイ・Zはその後もアルバム収録曲の歌詞やジャケットアートを、音楽アプリを通じてAndroidユーザー(iOS版はありません!)へ先行で情報提供を行い続けています。人気アーティストの共演者の発表とも合わせて、アルバムの話題と期待値を高めています。

新しい音楽プロモーションのルールを作る

ジェイ・Zは今回行うプロモーションで「新しいルールを作る」必要があると動画で言っています。そして、これまでアーティストがアルバムのプロモーションで行なってきた仕組みやルールを根底から覆してしまうほど、新しい取り組みを幾つも実行しています。今回のアルバム「Magna Carta Holy Grail」が特に大きく異なるモデルとしては以下の点が挙げられます。

・コンシューマー製品を通じてユーザーに先行配信
・無料配信で収益を上げる
・メディア戦略と導線設計

「ブランドの製品プラットフォームを通じて配信すること」が音楽ビジネスにもたらす大きな意味はとてつもなく大きなものとなりそうです。つまりこれは、小売店やオンラインストアを介することなく自社メディア内(プラットフォーム内)で配信するということです。一番先に作品が配信されるのは、iTunesでもAmazonでもGoogle PlayでもSpotifyでもないということです。

これは、音楽やコンテンツを配信する際に、プラットフォームやコミュニティが今後重要になるかを示してくれていると思います。確立したプラットフォームと連携させることにより、より世界規模で一貫したコンテンツの配信やコミュニケーション、プロモーションを行うことが可能になります。

「無料配信」もこれまで行われてきた無料配信とま全く違います。なぜなら、ジェイ・Z達は一枚のアルバムも売ることなく、一枚のアルバムも配信する前から、すでに数億円規模の収益を上げているからです。

無料配信するという部分は「フリーミアム・モデル」と同じですが、ダウンロード数や有料会員への乗り換えなどは、常にユーザー側に決断を委ねなければなりませんでした。ですが、アルバム「Magna Carta Holy Grail」の先行リリースでは収益をどこで上げるかまでも設計した上で配信していることろで、アーティスト側が無料配信もコントロールできるということを示していることが特徴的です。

マスメディアを使ったバイラル動画で音楽ファンとメディアから大きな注目を集め、その後連日に渡りアルバム情報を発信することで、オンラインメディアが注目するニュースネタを提供し、ソーシャルメディアで広げていくことで、初出の勢いを殺すことなく、アルバムの話題性を醸成することに成功してきました。どのアプローチにどのメディアを使うことで、話題性を最大化できるかが緻密に計算された戦略になっています。

しかもアルバム情報や曲などはこれまでリークされることなく、完全に情報統制されています。またジェイ・Zやサムスンの関係者はメディアのインタビューに答えることもないため、アルバムやプロモーションに関する情報も全く明らかにされていません。これらの情報コントロールも、最近では当たり前のようになった楽曲先行視聴や情報リークといった形ではなく、アルバムへの期待値を高めることに成功しています。

また先行配信に関しては、独自のアルバムアプリを通じて行われます。アルバムアプリは、2011年にビョークがアルバム「Bilphilia」をリリースした際にアルバムアプリを通じて、1曲ずつ異なるコンテンツで配信したことから、注目を集め始めました。ジェイ・Zの場合は、今回先着順に無料配信となります。どのような形で配信されるのか、まだ全く説明もされていないので、どんなシステムになってくるのかを見るのも楽しみです。

個人的な意見になりますが、アーティストの新しい取り組みを全面的に支援するサムスンに対する見方も変わりました。そして何と言っても、これほどまでにGalaxyユーザーになりたいと思ったことはありません。

アルバム「Magna Carta Holy Grail」の先行リリースは、本日7月4日12:01AM(日本時間4日13:01)から配信されます。Galaxyユーザーの方はぜひアルバムをダウンロードしてみてください!

ソース
Samsung to Give Away 1 Million Copies of Jay-Z’s New Album(6/16 Wall Street Journal)
Jay-Z to Perform on Ed Sullivan Theater Marquee(6/28 Rolling Stone)      


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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