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音楽シーンは今、光速レベルで変化を遂げようとしています。実際はすでに変わっているかもしれません。音楽との出会い方、聴き方を変えるイノベーションの波は日本をはじめ世界各地で起き始めています。

その中心にあるのは、かつてないほど身近になった「テクノロジー」です。例えばYouTubeによるフェスのライブ配信。YouTubeを通じて体験したフェスは、SNSでの拡散へとつながり、結果的に全く新しい音楽体験を創りだしています。この音楽体験の原動力は、音楽に寄り添ったテクノロジーの存在なのです。

All Digital Musicでは、これまで世界中に散らばるデジタル音楽のトレンドを追いかけ続け、情報を発信してきました。このデジタル音楽のトレンドの追求したその先には、人とテクノロジーが融合するポイントが待っています。このポイントに向けて一体どう準備すればいいのだろうか? そんな考えから思い立ったのが今回の企画。それは、21世紀のデジタル時代において、「クリエイティブ」を代表する方々が音楽をテクノロジーとビジネスの観点から本音で語ってもらうという企画でした。

All Digital Music特別企画の記念すべき第一弾に登場いただくのは、日本の音楽シーンを代表するアーティストでありプロデューサーとしての第一人者である小室哲哉さんです。

小室さんの音楽活動はつねにテクノロジーとともに進化してきました。今年で活動30周年を迎えたTM Networkから始まった山積みされたシンセやレコーディング技術をはじめ、ライブ演出やビジュアル、音楽配信までに至る音楽とテクノロジーの融合は、小室さんの音楽制作人生そのものと言えます。

小室さんが切る音楽シーンの今、そして予想する未来図は、音楽サービスの起業家または起業志望者、新規ビジネス開発担当者そしてマーケッターと、音楽業界関係者だけでなくIT業界や広告業界の方にとっても、音楽の未来を再考し議論し改めて興味を持つキッカケになって欲しいと思います。

大手メディアでもない個人ブログの企画に快く応じてくれた小室さんからは、普段は聞けない深い話をしてくれました。音楽に明るい話題が少なくなった今、進化し続ける音楽体験をデザインし続け、テクノロジーと音楽で見ている人に価値を創り出す「音楽テクノロジスト」の代表である小室さんにお話を伺います。

後編はコチラ小室哲哉 独占インタビュー:「音楽はアートの世界に可能性が残されている」共感覚でコミュニケーションする音楽の未来

小室 哲哉 | Tetsuya Komuro
アーティスト

83年、宇都宮隆、木根尚登とTM Networkを結成し、84年に「金曜日のライオン」でデビュー。同ユニットのリーダーとして、早くからその音楽的才能を開花。
93年にtrfを手がけたことがきっかけで、一気にプロデューサーとしてブレイクした。以後、篠原涼子、安室奈美恵、華原朋美、H Jungle With t、globeなど、自身が手がけたアーティストが次々にミリオンヒット。2010年、作曲家としての活動を再開。 AAA、森進一、北乃きい、超新星、SMAP、浜崎あゆみなど幅広いアーティストに楽曲を提供している。
2014年4月、自身のソロアルバム「TETSUYA KOMURO EDM TOKYO」と、デビュー30周年を迎えたTM NETWORKとしてもセルフリプロダクトアルバム「DRESS2」とシングル「LOUD」をリリース。9月にはライブBlu-ray/DVD「TM NETWORK 30th 1984~ the beginning of the end」をリリースし、10月29日からは続編となる全国ツアー「TM NETWORK 30th 1984~ QUIT30」を開催し、同時に7年ぶりとなるオリジナルアルバム「QUIT30」をリリース。

遅れて来た勝ち組、アップルの破壊力

ジェイ・コウガミ:いきなりですが、クリエイターとしてアーティストとして衝撃を受けたテクノロジーは何でしたか?


小室さん
:衝撃を受けたのはRolandの「SH-3」、あとはモジュール型のシンセ。楽器の概念がテレビやラジオの仕組みと似ていて、ちょっと動かすだけで周波数が変わるのでそれが好きだった。今でもだけど、昔からマニュアルは見ないでいきなり触って、一日中遊び倒して音を作って行く感じだった。

実は僕は昔からアップルユーザーと思われがちなんだけど、アップルがマックで音楽を作るっていう発想に行き着くまで時間がかかった気がするんだよね。グラフィックでは早かったけど。全体の音圧は127分のいくつ(x/127の意)にするとか、96分のいくつ(x/96の意)にするとか細かい部分まで触っていたので、ずっとNECの98を使っていました。その後に「Cubase」だったり出てきたソフトウェアはWindowsベースだったので。アップルは(この分野では)ずいぶん遅れをとったと思うんだよね。

コウガミ:今の世界の音楽事情を見渡すと、音楽企業ではなかったアップルが市場の勝者に君臨していますけど、小室さんはこれはどうして起きたと思いますか?

小室さん:僕の推論なんだけど、アップルは音楽の分野で遅れに気付いた時に「自分たちでコンテンツを持つのをやめよう」と判断したんだと思う。そしてコンテンツは他の人に作ってもらい、自分たちはコンテンツをエンドユーザーに届けるためのビジネスを目指そうという発想にたどり着いたと思うんですよ。ばっさりとコンテンツは無し! の道を選んだ。もしアップルがデジタル音楽時代の勝ち組だとしたら、その選択を取ったことが一番大きいんじゃないのかな。

ソニーは別の考えで、両方持ちたいと思ったんだよね。コンテンツもハードも映像も。だからアップルとソニーの比較で言うと、3つを分けて持ちたいところと、1つだけ持ちたいところの違い。あとはネゴシエーションすれば良い話になってくる。この差は大きかったと思うよ。

小室さん:僕も日本のiTunes Japanには、Twitterにソニーミュージックの音源を解放してほしいと投稿して、加担したアーティストの一人なので。ただソニーが運営しているMusic Unlimitedのサービスには、実数では2000万曲ほど揃っていますよね。ライブラリーという視点で考えると、SpotifyもぜんぜんiTunesにひけを取ってないし。

でも、アップルが成功したモデルというのは、参入は遅かったはずなのに「クリエイション」の部分を切り取って、ボックスを提供することで競争に勝って強みを最大化できたんだと思うんですよ。

面白いのが、アップルのモデルの後に現れたプレーヤーで、Beatportのようなこだわりをもったサービスが生まれたり、そういう文脈で今の時代の勝ち組になろうとしているのがSpotifyなのかもしれませんね。コンテンツは持っていないけれど、ボックスも必要ありませんのスタンスのPandoraとか。

特にアメリカのアップルとPandoraは、「聴ければ良いでしょ」っていうとてつもない割り切り感があって、それが圧倒的なスケールで伸びる結果に結びついているような気がします。

 

小室哲哉が考えるクリエイターのための音楽ビジネス

コウガミ:今、世界ではCDが減り、ダウンロードも減り始めて、ストリーミングに注目が移り始めています。音楽の作り手として、クリエイターはこの流れをどう見ているのですか?

小室さん:今世界のあちこちで起き始めている、ファイルをダウンロード(所有)するモデルが減少し始めて、クラウドにおいてある音楽にアクセスするモデルが広がっている流れは、間違いじゃないと思う。持論なんだけれど、パッケージからファイルダウンロード、そしてストリーミングいわゆるクラウドと移り変わって、今はクラウドから音楽を持ってくることだって実現できますよね。

じゃ例えば、オーケストラやバンド、ソロを録音するとします。そうなると、全員分譜面が必要です。でもそれは全員スタジオミュージシャンなので「楽譜を持ってかえって良いですか?」なんて聴く人は一人もいない。だからその場において帰るのが普通。

でもそこには音楽出版、パブリッシャーというサービスがあって、楽譜を届けて回収して保管する作業をしてくれる。すごくアナログな形なんだけど、このやり方ってクラウドにあるデータを運んでくるストリーミングと一緒かなあと思ってる。

作品を作って譜面を貸し出して演奏してエンドユーザーを楽しませるというビジネスモデルは、200年前くらい前の時代に確立されていたと思う。クリエイターにはパトロンが存在していた時代も同じ時代だよね。だから、今の時代の仕組みとすごく似ている。今でいうとそれがRed Bullだったり飲料水メーカーだったりして。

そしてパトロンが、「僕の作品スゴいでしょ」「私達の音楽、聴いてみて」とすることで、アーティストに場所を提供していた。その関係の中で「今週の土曜日、舞踏会を開催するからよろしく。隣の国の国王も来るから、良い曲作ってね」といって作品をアーティストに作らせる。例えばそれがモーツァルトかもしれない。それでアーティストにオペラなり作品を作らせて、演奏をさせるんだよね。それって考えてみれば、東京ドームで無名の新人が誰も知らない曲を演奏するようなものなんだよね、きっと。

コウガミ:今の時代で言うとメジャーレーベルの新人発掘みたいですね。

小室さん:でもね、演奏がすごく良かったらみんなが賞賛してくれる。そしてその国王も国に帰ったら、「あそこが抱えているアーティストはすごいぞ」と国民に見てきたことを伝えるよね、きっと。これが今でいう「拡散」だと思うんだよね。この拡散力は強大な影響力があった気がする。

 

20世紀からの「フェードアウト」がまだ続いている

小室さん:他の分野は分からないけれど、音楽について言えば、僕は今いった200年前のシステムがリピートしているように思っているんです。時代性によって、デバイスや言葉の表現が変わっているだけ。 「200年サイクル」、それが僕の基本的な考え方ですね。

アンディ・ウォーホルがコピー文化をカルチャーとして捉えた時から、それがずるずると拡張されてきた流れがあるんですよね。2000年からこの14年間は20世紀からの「フェードアウト」がまだ続いている気がする。だから先に進めていないことは、ちょっともったいないとも思う時もあるんだよね。

コウガミ:リスナーもこのサイクルに当てはまると思いますか?

小室さん:音楽の聴き手も同じだと思う。今は、みんな「ライブが重要」「このイベントに行った方がいいよ」といって週末になれば動いている。これは先ほどの200年前のシステム、週末の舞踏会と同じわけです。そこには国王や貴族のような人が集まったり、ドレスコードが設けられていたり、婦人同伴制だったかもしれない。で、この特別な場所に人を集めることで、めちゃくちゃ「拡散」させてた気がして。

主催者、今で言うとオーガナイザーは拡散しない。その代わりに、参加者は「この場所に居た」優越感に浸れたと思うし。

演奏し終われば音楽は持って帰ることはできないけれど、その代わりに人に体験を伝えて行きたい衝動に駆られたはず。そのパワーはものすごい強力だったと思う。 それから、そこに居た人の中には暗譜する人も現れたはず。他には、その音楽が気に入った人が人を雇って何らかの方法で音楽を記録させてたと思う。そうやって暗譜や耳コピーが出来たと思うんだけど、それって今の時代のいわゆるブートレッグやデータのコピー、さらに言えば海賊行為と近いと思う。「なんでオーストリアでプレイしてた曲がスウェーデンでも流れてるの?」みたいなことだよねきっと。

 

記憶に残る音楽体験

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小室さん:でも終わったら、そこで演奏された音楽は記録には残らない。後に残るのは、ある日のある時間の心象風景だったり喜怒哀楽だったり、音に反応する感情が残るだけで、記録には残さないけれど記憶に残る。これは、今の時代にPandoraとか音楽ストリーミングで聴く聞き方と似てると思う。CDとかコレクションを揃える必要が全く無いと同じようにね。

「プレイリスト」も最近よく話題に上るよね。でも僕はそこまできれいに揃えなくてもいいとも思う。人間って思いついた時に聴く音楽が心地良いものなので。それでも分からなかったら検索すればいい。

僕は20世紀はばさっと終わってほしかった。でも今は掃除というか後処理をしているような状態だと思ってる。そのなかに落ちている小さな塵や埃も数億円、何十億円のビジネスになり得るから、「ミュージックビジネス」や「レコードカンパニー」が存在していると思うし。

コウガミ:テクノロジーが進化したことで、このビジネスモデルを再構築、再デザインできるのでしょうか?

小室さん:30年音楽作っていて、今までだいたい1400曲くらい作ってきた。モーツァルトの時代に比べれば僕らの時代は圧倒的に楽させてもらっているけど、量産という意味では圧倒的に作れている。

21世紀のミュージックビジネスやミュージッククリエイションの方向は、何を手本にすればいいのかという時に、僕は200年前のシステムを現代の文脈とテクノロジーを使ってやり直せばいいと思ってる。

今の時代は、パトロンとなるのが国王や貴族から企業や個人レベルで実現し始めている。サッカーのビジネスだったら、例えばアーセナルがユニフォームにエアラインのロゴが入る大型契約を結んだり、ロシア人がチェルシーをチームごと買収したり、2000年以降にこの流れがサッカーでは生まれてきた。 僕が思うに、音楽よりもスポーツビジネス、スポーツマーケティングやエージェンシービジネスが一歩二歩も先に進んでいて、特にブランディングを上げるモデルが進化してきたんだよね。選手のスター性を拡張させてブランドバリューを高めるシステムを構築することでは、スポーツのエージェンシーやマネジメントが数段優れていて、音楽の方は圧倒的に遅れて今まで来てしまっている。

唯一の例外は、マドンナ。ワーナーミュージックとの契約が切れて、次をどこと組むのか注目していたら、ライブ・ネイションと契約したから驚いた。その頃(2007年)僕達は「ライブ・ネイションってイベンターじゃない!?プロモーターに移籍するの!?」と思っていて、納得感が無かった。でも結局あの決断が一番正しい決断になったわけ。 エージェントが一番良い世界ツアーを組めたり、マーチャンダイジング契約を組めたり、その上デジタルやソーシャルメディアを使ったPRやプロモーションが仕掛けられたりが可能になった。しかも、この領域に精通したプロフェッショナルがビジネス的にサポートしてくれる。
この流れの派生で起きているのが、今のDJやトラックメイカーを取り巻くEDMビジネスだと思っています。彼らのビジネスを動かしているのが、SFX Entertainmentとかエージェンシー的な企業で、彼らがアーティストと一緒に動いている。

ただ音楽はこの新しいビジネスモデルでは、圧倒的に遅れをとっているのは間違いない。僕は音楽は常に新しいことやビジネスを生み出してきたカルチャーだと思っていた。例えばウォークマンのようなテクノロジーが生まれたのは、音楽の価値が大きかったからだし。テクノロジーが音楽に引っ張られて、新しいものが生まれるモデルは昔は存在していたとずっと思ってきた。オランダのフィリップスとソニーみたいな国際企業が組んで、光デジタル音声端子のベースの世界基準のオーディオ用規格を作ったなんて、今だったら想像つかないし。

コウガミ:今はアップルみたいなテクノロジー企業が音楽シーンの中心になっているように思えますけど、いかがですか?

小室さん:そう思う。それが、いつの間にアップルになったの?みたいな。

きっとどこかで音楽がテクノロジーの「先進性」だったり「プログレス」に追い抜かれたんだろうね。だから音楽のイノベーションが遅れている。 ただ、音楽には普遍性も存在していて、時代に左右されることのない説得力を兼ね備えた数少ないアートだと思っている。これが、常に進化し続けるテクノロジーとの距離を縮めたり広がったりする要因にもなっているのかもしれない。つまり、普遍性のある音楽よりもテクノロジーが先に行ってしまったため、普遍性が置いていかれるずれが生まれているように感じるんだよね。

例えば音楽の「音質」を高めるために、テクノロジー側が近づいてというのは、お互いがいい関係になる時があるよね。「目の前で歌ってるように聞こえるね」みたいに音楽が技術で進化するのは良い距離感なのね。 だけど、テクノロジーが先に行ってしまった時には、音楽を作る側と連携ができなくなる。なので、イノベーションが遅れたり、iTunesやSpotifyみたいにビジネスが先に進めなくなる時期が生まれてしまう気がする。

 

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インタビューの後編では、小室さんが注目するテクノロジーや、音楽で感動を共有する方法を、小室さんのサッカーワールドカップ フランス大会の経験などを元に語ります。掲載は10月23日(木)予定です。お楽しみに。

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協力:avex music creative Inc. / avex management Inc.
企画・インタビュー・文:ジェイ・コウガミ、All Digital Music


Jay Kogami

執筆者:ジェイ・コウガミ(All Digital Music編集長、デジタル音楽ジャーナリスト)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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