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新型コロナウイルス感染拡大の被害で、自宅待機や自主隔離する人が増える中、アーティストやクリエイターコミュニティ、音楽業界は、ライブやイベント、ツアーでの収入をはじめ、あらゆる収益源が急減するという、アーティスト活動と経済活動の双方で大きな影響を受けている。
世界各地では、強制外出禁止令で不必要な外出以外で都市を封鎖する対策を講じる行政も増えたことによって、自宅で過ごす時間が増えるアーティストたちが、新たな収入源として活用が伸びているサービスがある。アーティストやクリエイターがファン向けに月額定額のサブスクリプションサービスを構築して“パトロン”を増やし、新たな収益を上げられる「パトレオン」(Patreon)である。
It's become clear that artists deserve a much higher reward for the impact they have on our lives. https://t.co/CbQScFFkqh
— Patreon (@Patreon) March 25, 2020
パトレオンは現在、あらゆるジャンルのアーティストやインディペンデントなクリエイター、プロフェッショナルが15万人以上使っているサービスで、ファン向けの有料コミュニティページを簡単に構築して運営できる。ファン向けに、定期的に作品を先行で配信したり、ライブ動画ストリーミングやライブチャットなど、自分のスタイルに沿った活動を行いながら、安定した収入を得ることができるサービスの一つとして、注目されてきた。
パトレオンでアーティストたちの活動を支援する利用者つまりパトロンとなった人は、世界180カ国以上400万人以上と世界規模で増えている。
注目すべきポイントの一つは、アーティストやクリエイターたちの収益額で、今まで10億ドル(約1080億円)という巨額の収入がサブスクリプションという形でアーティストたちが手にしている。
音楽作品のストリーミングからの収入や、ライブツアーの収入、楽曲の著作権使用料など、収入源を増やすことは、安定したアーティスト活動をより長く続けていく上で非常に重要なテーマだ。パトレオンを活用して、ファンからサブスクリプションという安定収入を得ることも、アーティストの収入源の一つとなっている。
アーティスト寄りのパトレオンの仕組み
パトレオンを使って収入を得ているアーティストやクリエイターは、多種多様なジャンルや領域にまたがる。
ミュージシャンでは、Pentatonix 、Ben Folds、Kimbra、Amanda Palmer、Cory Henry、Cautious Clay、Jacob Collierなどあらゆる音楽ジャンルや地域でインディペンデントな活動をするアーティストにとって安定した収入を得ることができることが人気となっている。
ちなみにパトレオンの創業者でCEOのジャック・コンテ(Jack Conte)はプロのミュージシャンだ。
またビジュアルアーティストやアニメーター、ポッドキャスター、動画クリエイターや動画チャンネル運営者、ゲームクリエイターたちがパトレオンを使っている。
さらには、音楽ライターやカルチャーライターなど、フリーランスで活動するライターやジャーナリストもパトレオンを活用して収入を得ている。
パトレオンのモデルは、アーティストやクリエイターがパトロンと向き合うために使える様々なツールや、パトロンを増やすための分析ツール、電子決済システムなど、すぐにサブスクリプションを始めるためのバックエンドの部分が充実している。
価格設定と、パトロンに提供するメニューやコンテンツもアーティストが設定できる。
パトレオンのビジネスモデルは、アーティストの月額の収入からパーセンテージが主な収益となる。その額は、プランに応じて月額売上の5%、8%、12%と変わる。
1994年生まれのイギリス人ジャズミュージシャンでシンガーソングライター、Jacob Collierもパトレオンを使っている。
彼のサブスクリプションは月額5ドルだ。現在パトロン数は668人なので、月の売上だけで3,340ドル(約36万円)にのぼる(パトレオン分の%は除く)。ストリーミングからのライセンス収入や、ライブやフェスでの収入、その他の収入を加えたとしても、安定した収入源を増やせることはアーティスト活動を続けるためには非常に貴重である。
パトレオンと新型コロナウイルスで必要な収益源
新型コロナウイルス感染の被害拡大を受けて、新たな収益源を求めてパトレオンに新規登録するクリエイターが増え、3月だけで3万人以上が新たにプロジェクトを始めている。またアーティストがパトロンを見つけるまでの時間も短縮したことも3月には際立った。
パトレオンのサブスクリプションが3月で伸びた国はアメリカ、イギリス、カナダ、ドイツ、オーストラリア、そしてイタリアだった。
これはコロナウイルスの影響で、難しい時期を過ごすクリエイターやアーティストを支援する動きが人々の間に高まっていることを示唆している。3月はパトロンとなるユーザー数が伸びており、結果的に同月のクリエイターへの収入総額を伸ばす要因となっている。
この時期にアーティスト活動を続けることは困難だ。そうした事情も影響しているはずだ。パトレオンでもプロジェクトを取りやめるクリエイターが増えている。
ファンクラブとパトレオンの違い
新型コロナウイルスの影響で、定期的な活動を続けることが難しくなる人は音楽業界では世界規模で増えていく。特に恐ろしいのは、メジャーレコード会社の支援を受けていないインディペンデント・アーティストや音楽プロデューサー、作曲家や作詞家、インディーレーベル、独立系ライブビジネスやチケット会社に携わるあらゆる人々が今後は安定収入を得ることが難しくなることだ。
これは音楽業界だけが対象ではない。エンタテインメント業界、クリエイティブコミュニティに携わるあらゆる人が対象になっていくだけに早急に解決策の選択肢を増やさなければならない。
パトレオンのようなプラットフォームは、日本のファンクラブとモデルが似ていると感じる人が多いはずだ。パトレオンの優れる点はアーティスト主導でコミュニティを作れることだ。
一方、大抵のファンクラブは運営会社主導だ。そして、ファン向けの機能や、ツールとの連携機能も少ない。データ分析もできない。価格設定も柔軟性が少ない。
チケットが先行予約できるという大きなメリットがあるが、ライブができるかどうかの見通しが立ちにくい現状ではアーティストを経済的に支援することへ直接的に繋がりにくい。日本の音楽業界も、ファンクラブの機能を見直し、上手く活用してアーティストの安定収入を絶やさない方法を考えるべきだろう。それが実現不可能なら、アーティストは独自にパトレオンや、クラウドファンディングを立ち上げ、アーティストと繋がりたいファンと向き合っていくことが有益な選択肢になるだろう。
最悪の事態が来る前に、安定した収入をあげられる、アーティストやクリエイターに特化したプラットフォームとツールの活用を始めることは、より一層重要性を増してくる。
そして今後は、音楽業界やレコード会社や音楽ストリーミングサービスは、テクノロジー企業やツールを開発する企業、さらには著作権団体や行政と連携しながら、アーティストやクリエイター、業界関係者に安定収入をもたらす施策を作り続けることが最も重要で、最大のプライオリティだ。
source:
COVID-19 and the Creative Economy: Takeaways from Patreon’s Data Science Team (Patreon)